第23話

 陽彩には朝の比較的空いてる時間に来るように言ってあった。


「陽彩。いらっしゃい」

「翼。おはよう。なんだか、不思議な感じがする。昨日まで働いてたところに今日はお客さんとして来てるなんて」

「そうかもな。さ、座って」


 俺は陽彩を空いている席に案内した。


「で、なんで今日、私を呼び出したの?」

「え、忘れたのか?」

「何を……?」

「マジか。ちょっとショックかも……」

「え、ごめん。思い出すから……そんなに落ち込まないで!」


 俺がわざと落ち込んだふりをすると、陽彩はオロオロとしていた。


「うそ、うそ。落ち込んでないから。安心して。今日は呼んだのは、お店を手伝ってくれたお礼」

「あ! そういえば、私が翼のスイーツ食べたいって言ったんだった」

「そうだよ。忘れるなよな」

「ごめん……忙しさと楽しさで、・・・・・・つい」

「いいよ。どうする? もう、持ってくるか?」

「うん! 食べたい!」

「了解」


 俺はキッチンからフルーツロールケーキを食べやすいサイズに切り分けてお皿に盛り付け、陽彩の待っているテーブルへ運んだ。


「どうぞ、召し上がれ」

「え! 何これ! めっちゃ可愛い!」


 俺が作ったフルーツロールケーキをはイチゴ、キウイ、モモの果物をふんだんに入れたものだった。色どりにも気にして、均等に果物が配置されるように気を付けた。


「食べてもいい?」

「もちろん。陽彩のために作ったからな」

「私のために……」


 陽彩はそのフルーツロールケーキをうっとりするような目で見ていた。そして、一つ手でつかむとそのまま一口で食べてしまった。


「ん~。美味しい~!!!」

「ありがと」


 陽彩は幸せそうな顔で次々とロールケーキを食べていった。


「この生クリームも甘すぎずにフルーツの酸味といい感じにマッチしてるね」


 俺はそんな陽彩の幸せそうな顔が見れて満足だった。こんなにも幸せそうに食べてくれると、作り甲斐があるってもんだ。ついつい、にやけてしまう。


「美味しかった~! 翼、ありがと!」

「どういたしまして」

「てか、私、手伝わなくてほんとにいいの?」

「うん。大丈夫かな。たぶん……」

「たぶんって……心配だなー」

 

 幸いにも最終日ということだけあって、今のところそんなに忙しくはなかった。


「じゃあ、私は帰るけど、何かあったら連絡してね。いつでも駆けつけるから!」

「ありがと。てか、送ってくよ」

「いいの?」

「うん。少しくらいなら大丈夫だろ」

「じゃあ、お願いする」

「了解」


 俺は朝美に一言言って、お店を出た。


「今日でゴールデンウィークも終わりか~。なんか、あっという間だったな~」

「悪いな。せっかくの休日に手伝わせちゃって」

「ううん、めっちゃ楽しかったから、全然いいよ。むしろ、誘ってくれてありがと。翼のご両親にも会えたし、それに……翼と一緒に働けたし」


 最後の方はうまく聞き取れなった。


「そっか。まあ、楽しんでくれてたならよかった」

「また、働きたいな~。なんてね」

「じゃあ、働くか?」

「え、いいの?」

「うん。むしろ、両親が大歓迎してる。俺も助かるし」

「じゃあ、働きたい!」


 陽彩は飛び跳ねるように喜んでいた。

 俺は顔に出さないように注意して心の中で喜んだ。


「じゃあ、またよろしく頼む」

「任せて~! 送ってくれてありがと。また、明日ね~」

「うん。また明日」


 俺は陽彩が見えなくなるまでその背中を見ていた。

 明日からまた学校が始まる。

 この十日間は本当にあっという間に過ぎていったな。陽彩と一緒に過ごすことができて楽しかったな。

 

「さて、もうひと頑張りしますか」


 俺は伸びをして外の空気を一杯吸い込んで『蓮』に帰っていくのであった。

 

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