第22話

 ゴールデンウィーク最終日。

 今日は陽彩にフルーツロールケーキを振舞う日だった。

 俺は朝早くから起きてそのロールケーキを作っていた。


「翼、早いな」

「まあね。ちょっと作らないといけないものがあるから」

「ロールケーキか?」

「さすがだね。まだ、材料を用意してる段階なのに。分かるんだ」

「まあな。陽彩ちゃんに食べてもらうのか?」

「……まあ、そうかな」

 

 俺は照れながら言った。


「なら、ちゃんと愛情を込めろよ」

「え……」

「好きなんだろ? 陽彩ちゃんのこと?」

「なんで……」


 なんで、そのこと知ってるんだ。 

 俺は両親にそんなこと一言も言った覚えはないのに。


「お前の顔を見てれば分かる。俺と同じ顔をしてたからな」

「お父さんと同じ顔?」

「ああ、俺が朝美に惚れた時の顔だ」


 蓮夜は昔を思い出して恥ずかしそうにしていた。

 俺ってそんなに顔に出てたのか。


「好きな人に食べてもらうスイーツには何倍もの愛情を込めろ。それだけで、味が全然変わるぞ」


 蓮夜はそう言い残して、日課であるランニングに出掛けて行った。

 何倍もの愛情を込めろ……ね。

 言われなくてもそのつもりだ。

 俺は、いつも以上に丁寧に愛情を込めながらロールケーキを作った。


「よし。後は冷やして完成だな」

「あれ、翼ちゃん、今日は早起きなのね」

「お母さん。おはよ」

「おはよう」


 目をこすりながら二階から降りてきた朝美がキッチンに入ってきた。

 これから朝ごはんの準備をするらしい。


「今日でゴールデンウィークも終わりね」

「そうだな」

「陽彩ちゃんともう会えないのか~」

「そんなことはないだろ」

「それはどういう意味で?」


 朝美はニヤニヤとした顔で俺の顔を覗き込んだ。


「そうよね~。翼ちゃんが陽彩ちゃんと付き合ったら、いつでも会えるわね」

「なっ……」


 だから、なんでそのこと知ってるんだ。

 親というのは恐ろしい……。


「そんなんじゃないから」

「そうなんだ。じゃあ、このロールケーキ食べてもいいの?」

「ダメに決まってるだろ!」

「分かってるわよ。これは陽彩ちゃんに食べてもらうんでしょ。ちゃんと愛情を込めた?」

「込めたから。夫婦そろって同じこと言うな!」

「あら、蓮夜さんも気づいてたのね」


 朝美は驚いたように言った。

 俺は二人が気づいてることに驚いてるんですけどね。

 

「そんなことはいいから早く朝ごはん作ってよ」

「はいはい。分かってるわよ」


 朝美は冷蔵庫から朝ごはん用の材料を取り出して、手際よく作り始めた。

 そうこうしているうちに、蓮夜が戻ってきて、家族三人で食卓を運んで朝食を食べた。そして、お店の掃除に取り掛かる。

 そういえば、あの人来なかったな。

 そんなことを考えながら床をほうきで掃いていた。


「そろそろ、お店開けるぞ~」

「はーい」

「了解」


 さて、最終日も頑張りますか。

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