第21話
「それで、二人ともなんで来たのよ。来るなら前もって連絡してよ。ビックリしたじゃん」
「ごめんね~。ひーちゃんを驚かそうと思って。てへ!」
「てへ、じゃないよ。恥ずかしいんだから……」
「恥ずかしがらなくてもいいじゃん~。可愛いよ!」
愛理が私も着たーいと言って、私のメイド服姿を興味津々に見ていた。
愛理は可愛いものに目がないからな~。
実は私も、最初こそ恥ずかしがっていたけど、慣れてくるとメイド服を着て仕事をすることが楽しくなってきていた。それに、毎日、朝美さんが褒めてくれるし。
「それで、何食べるの?」
「そうね。陽彩のオススメは?」
「う~ん。シフォンケーキかな」
「じゃあ、それを二つ~!」
「了解」
オススメを聞かれても、私が食べたことあるのはシフォンケーキしかないんだけどね。他のメニューはまだ食べたことはなかった。運んだことは何度もあるけど。そのたびに美味しそうだな~ってよだれがたれそうになる。
「シフォンケーキ二つお願いしま~す」
「はいよ~」
私は蓮夜さんに注文を伝えて、ホールに戻った。
ちょうど、おやつ時なので、イートインスペースは満席状態だった。翼と朝美さんがスタスタとお客様とお客様の間を行ったり来たりしている。
「陽彩ちゃん。シフォンケーキお願い」
「はい。分かりました~」
私は二人のシフォンケーキをテーブルに運んだ。
「お、お、美味しそう~!!」
「ほんとね。生クリームたっぷり」
二人が蓮夜さんのシフォンケーキを見て興奮していた。
その気持ちわかる。私も見た興奮したから。
すっごく美味しそうなんだよね。蓮夜さんのスイーツ。
「写真撮らないと! なーちゃん撮って~」
「はいはい」
二人は写真撮影会をする。
私はいったん離れることにして他のお客様の対応をすることにした。
「楽しそうにしてるな」
翼が声をかけてきた。
「ほんとにね。というか、翼~。私がバイトしてること愛理に言ったんだって?」
「し、しょうがないだろ。雛形さんに詰め寄られて逃がしてくれそうになかったんだから」
「まあ、その気持ちは分かるけど……。せめて私に教えといてよ」
「……ごめん」
翼は申し訳なさそうに下を向いた。
「まあ、いいけどね。楽しいから……」
「楽しんでくれててよかったよ。でも、大変じゃないか? 思った以上にお客様多いだろ」
「それは驚いたけどね。常連さんもみんないい人ばかりだから楽しいよ!」
「その言葉が聞けてよかったよ」
翼はホッとした安堵の顔になった。
どうやら私がバイトのことをどう思っているか心配だったらしい。
安心して、ちゃんと楽しんでるし、毎日のように翼と一緒にいれるから幸せだよ。私は心の中でそう呟いた。
「さ、あと二日も頑張るぞ~」
「お願いします」
「うん!」
翼と話し終わった後、二人の座っているテーブルに向かった。
「なんかいい雰囲気だったわね」
「な、何のこと?」
「ひーちゃん。このシフォンケーキ美味しいよ~!」
「だよね。愛理、ほっぺに生クリームついてるよ」
「どこ~」
「取ってあげる」
私は愛理のほっぺについてる生クリームを紙ナプキンで拭き取ってあげた。
そういえば、私も翼に同じことしてもらったっけ。ふと、そんなことを思い出した。
「ありがと~。て、どうしたのひーちゃん?」
「な、なんでもない」
「変なの~」
愛理は首をかしげて私のことを見ていた。
「私は他のお客様のとこに行ってくるね。帰るときは声かけてね」
「陽彩。頑張ってね」
「ひーちゃん。がんばって!」
「ありがと」
私はその後、二人には目もくれず動き回った。
そして、気が付けば、いつの間にか閉店時間になっていた。
「ひーちゃん。帰るね~」
「また学校で会いましょう」
「うん。今日は来てくれてありがとう。また学校でね~」
「つーちゃんにもよろしく」
七海と愛理が手を見送って、私は片づけ作業に入った。
「陽彩。お疲れ」
「翼。お疲れ様」
「そうだ、ゴールデンウィーク最終日だけど休みだよな?」
「うん」
「じゃあ、お客としてお店に来てよ」
「え、なんで?」
「それは当日のお楽しみ」
「分かった」
なんだかよく分からなかったけど、私はゴールデンウィーク最終日にお客として『蓮』を訪れることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます