第七章
第1話
年が明けると始まるのが初売りセールだ。
一月二日の初売りセール初日となるこの日、私はクラスメイトの夏帆ちゃんに誘われて大型ショッピングモールへと向かった。十時開店の十五分前にショッピングモールに到着すると、複数あるショッピングモールへの入り口には既に数十メートルほどの長い列ができていた。
「うわぁ、開店前なのに結構並んでいるね」
「福袋目的の人は、早く来ないと売り切れちゃうからね」
驚く私に対し、夏帆ちゃんは落ち着いている。何度か初売りセールに来たことがあるらしい。
列に並んでいると、ショッピングモールの係りのおじさんがセールの案内チラシを配ってくれた。フロア別にショップ名が並び、その横に『五千円福袋 スタッフおすすめ、あったか冬グッツ』など、目玉となる商品が羅列されている。
夏帆ちゃんは真剣にそれを見て、女子高生に人気のアパレルショップに手持ちのペンで印をつけていく。今日の目的は、可愛い冬物のお洋服のようだ。
私が覗き込むと、「ここ、雑誌に出ていたの」と屈託なく笑う。私も持っていた案内チラシを見たが、いまいちよくわからない。
「夏帆ちゃん、いつも可愛い格好だよね」
温かくて動きやすい格好がいいかと思ってダッフルコートに長ズボンとスニーカーの組み合わせで来た私に対し、夏帆ちゃんは短めのズボンにブーツ、クリーム色の可愛らしいコートを合わせた流行を意識した格好だ。
「えへへ、ありがとう。聡に可愛いって思ってほしいじゃん?」
褒められた夏帆ちゃんは、照れ臭そうに笑う。
(可愛いって、思ってほしいかぁ。)
誰か特定の人に可愛いと思ってもらいたいなんて、あまり思ったことがなかった。
およそ十分後、ようやく開いた扉の向こうはまさに戦争だった。人の波に乗るようにショッピングモール内に入ると、皆が一斉に四方八方に走り出す。夏帆ちゃんも「雫ちゃん、後で連絡するから!」と言い残して一瞬で消えてしまった。恐らく、先ほどマークしていたアパレルショップに向かったのだろう。
私は呆気に取られてしまい、ひとりショッピングモール内を歩くことにした。
開店してから数分しか経っていないのに、人気のショップの福袋が置かれたカートは早くも『完売』の札が立っている。代わりに、今度はレジに人の列ができていた。
(どこがいいかなぁ。)
歩きながらきょろきょろと辺りを見渡す。
せっかく大きなショッピングモールに来たので、今日、侑希にクリスマスプレゼントのお返しを買えたらいいなと思ったのだ。
しばらく歩いているとお財布や小物入れを扱うお店を見つけ、中に入った。端から順番に手に取ってみたが、やっぱり何がいいかわからない。そうこうするうちに、店員さんが寄ってきた。
「彼氏さんにプレゼントですか?」
「え? 違いますっ」
明らかに男子向けの商品を熱心に見る私を見て、勘違いしたようだ。ぶんぶんと手を振ると、なんとなく気恥ずかしくなってしまい店を後にする。
彼氏なんていたことがないけれど、みんな誕生日やクリスマスのプレゼントを選ぶときはこんなやり取りを乗り越えて(?)プレゼントを購入するのだろうか。だいぶハードルが高い。
(お母さんに頼んで、ネットで買おうかな……。)
そんな妥協案が脳裏を過る。
とりあえず、今の店で買うのは無理だ。なんとなく、気恥ずかしすぎる。
そのままショッピングモール内を歩いていると、キッチン用品屋さんを見つけた。
おしゃれなキッチン用品が揃っているそのお店では、お正月用の重箱や祝い箸などと共に、早くもバレンタイン向けの商品が出始めていた。なんとなく店に入り、ピンク色の箱や、ハートの形をしたケーキ型、製菓用チョコレートなどを眺めてゆく。
一月七日までは期間限定で全商品三十パーセントオフとなっていて、だいぶお得だ。せっかくだから、クッキング部で作ってみたい。
いくつか商品を籠に入れていると、水筒のコーナーが目に入った。保温機能付きの軽量水筒も三十パーセントオフ。そう言えば、年末に侑希が水筒の口が壊れたとぼやいていたことを思い出す。
「これにしようかな」
手に取った黒色を基調とする五百ミリリットル入りの保温機能付き軽量水筒は、セール価格で二千円ちょっとだった。毛糸の手袋のお返しとしては、値段的にもちょうどいい気がする。
(喜んでくれるといいな。)
商品を籠に入れ、私は口元を綻ばせた。
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