第3話:精霊の主?
結局、殿下の言葉で、碧衣が精霊の主かどうかを確認するため、碧衣、クロード、テオ、リュカは公爵領にある広大な草原に来ていた。
「ここなら魔法をいくら使っても何も被害はないし誰かに知れることもないでしょう」
広い草原をみながらしれっというクロード。
───てかこの広い草原も公爵領って……。どんだけ広いのよ。ここ開拓すれば街の1つや2つ、簡単にできるんじゃない?
「じゃあ魔法について教えるね」
リュカは碧衣の前に立つ。
───座ってても足が長いのはわかってたけど、立つと外国人特有っていうの?筋肉の付き方とかやっぱ私とは違うのね。足も長いし。
「この世界での魔法は結果論なんだ」
「結果論、ですか」
碧衣が繰り返せば、リュカは”そう”といって空中に何かを描いていき、その直後に空中に字が浮かびでる。
──おぉ、なんか、すごい。
「火を出すなら燃えているところをイメージすればいい。基本的に無詠唱で成立するから、頭の中で燃焼のイメージをしっかりつければあとはこんなふうに」
リュカの手のひらに魔法陣が描かれ、ボッと小さな火が現れる。
「火が出るってわけ。慣れるまでは詠唱もいいけど、詠唱に慣れちゃうと森でモンスターとかと遭遇したときに攻撃や防御が間に合わなくなるから、詠唱はおすすめしないよ」
リュカは苦笑いでアドバイスしてくれる。
───確かに、強いのとあたったときにとか、暗殺者とあたったときにアニメみたく”風よ、なんとかかんとか~”とかいちいち詠唱してたら、殺されるのが先よね。
「とりあえず、魔法の説明は以上かな…。あとは魔力を感じることかな。それは僕よりクロードのほうがうまいから、説明はクロードに任せるよ」
ほぼ投げやりのようなリュカにクロードはため息をつきながらリュカと交代するように碧衣の前に立ち、優しく手を取る。
「魔力とは力の根源です。この世界は何事も魔力が干渉してますが、使えるのは貴族や王族です。そして極稀にですが平民からも生まれるときがあります。そして精霊の主にも、世界を通過するときに加護として魔力は与えられます。精霊の主の魔力は加護である分私達よりも多く、数倍からときにはその力で世界を治められるような魔力を持つものもいます。アオイ、あなたにはその魔力というものを体感してもらいます」
といったクロードは碧衣の両手をギュッと掴んで静かに目を閉じる。すると。
しばらくすると体が少し暖かくなったように感じ、そしてそれが循環しているように感じる。
「体を循環しているように感じるのが魔力です」
クロードは目を閉じたままいう。
「お、さすが、勘がいいね」
「……」
リュカやテオには円滑に魔力が循環しているのが見えており、さらに碧衣とクロードの間で流れる魔力は段々と増えていくのが2人には見えていた。
───でもこれ、なんか………。
「き、気持ち悪い……」
碧衣はとっさにクロードの手をぱっと離して距離を取る。
───やっぱり、魔力は合わないのかもしれない。体に入ってきた直後はまだ良かったけど、段々と体が拒否し始めている感じがしたし。最終的には、例えるなら……そう、ひどいバス酔いのような感覚に陥った。
「気持ち悪いって…大丈夫ですか?」
クロードは心配そうに碧衣の顔を覗き込む。
「でも魔力を感じて気持ち悪いって……聞いたこと無いけど。慣れてないってだけかな」
とリュカ。
───いえ。私の体が魔力を受け付けないだけです。
「もう一度、してみたらどうでしょう?今体験した分改善してるかもしれません」
とテオ。
───おい、騎士!余計なこと言うな!やめろ!
「そうだね、その手があった。次は僕がするよ。クロードよりは魔力少ないし」
──テオが余計なことをいうから……!
リュカは彼女の手をとって魔力を流す。……が。
「で、殿下、気持ち悪いです」
数秒でギブアップ。
「その言い方!僕が気持ち悪いみたいじゃない……か……ってアオイ」
リュカは碧衣の後ろをみて驚いた……否、恐怖を感じたような表情を浮かべる。それとほぼ同時にクロードはリュカの横に付き、テオは2人を守るようにして剣を向ける。
[碧衣!!!大丈夫か!?]
後ろから聞き慣れた声が聞こえ、その瞬間、碧衣はとっさに後ろを振り返る。
「フ、フウガ!?何してるの!?」
後ろには、緑の髪、緑の瞳をしたフウガが宙に浮いた状態で碧衣の肩を掴んで心配そうに顔を覗き込んでいた。ちなみにフウガは風の神だ。
[俺が防御してたからいいものの、碧衣、さっきのそのまま受け続けてたら死んでたぞ]
フウガの言葉にすぅっと碧衣の背筋が凍る。
───この世界に行ってすぐ死にました、なんてたまったもんじゃない。
「アオイ」
クロードが碧衣に恐る恐る、といった感じで話しかけてくる。多分言葉がわからない、否、言葉自体聞こえないはずなのに彼女が平気な顔で話していることが不思議、というか不気味でしょうがないのだろう。
「その人は、誰ですか?というか、人なのですか?」
とクロード。まぁ正直フウガが人間では無いのは明白だろう。どの世界に宙に浮いて過ごしている人間がいるのだろう。否、どこにもいないと思う。
「彼は……ってちょっと、フウガ!何してるの!」
碧衣はフウガの紹介をしようとフウガの方を見ようとすれば、フウガはクロードたちの方に近寄っていた。もちろんクロードたちは驚いている、というよりも警戒を一層強めたようだった。テオはフウガを思い切り睨んで剣を構えている。
そんなテオたちの様子をみたフウガはフンと鼻で笑う。
[だってこいつら、碧衣を傷つけようとした。敵、だろ]
フウガは明らかに殺意のこもった目でクロードたちをみると、懐から翡翠色の鮮やかな扇子を取り出し、開いてそこに描かれた、天に昇る龍をクロードたちにみせたかと思えば、勢いよく扇子を閉じようとしていた。
───まずい。これは、止めないと。
碧衣はとっさにリュカたちとフウガの前に立ち、フウガをジッと見つめる。
[碧衣!なんで止めんだよ]
フウガは扇子を勢いよく閉じきるすんでのところで手を止め、ゆっくりと、でも優雅に扇子を開いて扇ぎ、不満そうに自身を止めた主をみる。
「フウガ、聞いて。ここのことはセツに聞いた?」
[聞いたよ。セツには碧衣のことをしばらくみてろって言われたし。……で?こいつら、なんなの]
興味なさそうに宙であぐらをかいて顎でリュカたちを指すフウガ。
「では改めまして」
怪訝そうにフウガをみるテオ、それとは反面、ありえないものをみているかのような顔をするリュカとクロードに、碧衣は軽くせきばらいをする。
「彼はこの国の皇太子、リュカ・アントワーヌ様です。そして、公爵であるクロード・タヴェルニエ様、公爵様の騎士であるテオ・シャペイ様。そして彼は」
碧衣は一人一人紹介し、フウガの紹介をしようとフウガを指すと、フウガは、フンッと偉そうな顔つきで宙に立ち上げる。
───いや、偉そうというか、神だし、本当は偉いのだけれど。
[フウガ。風の神]
神使である碧衣以外には言葉の理解はできるわけがないのに、フウガは自分で自己紹介をする。
「風の神……?」
………理解できないはずなのに、リュカはフウガの言葉を繰り返す。
「殿下、言葉がわかるのですか?」
「え?うん。クロードたちは聞こえた?」
リュカは当然のような顔をしてクロードたちを見れば、縦に首を振るクロードとテオ。
「なんで理解できてるのよ」
碧衣は怪訝そうな顔で宙に浮いたフウガを見上げて聞けば、
[風の力を利用して言葉の共鳴力を上げたんだよ。声ってのは空気の震えを利用してるだろ?それにこの世界は今までいたとこにはなかった力が強くあるせいか、俺の力も発揮しやすいんだよ。日本でも同じことをやってみたけど、俺らの言葉を理解できてたのはほとんど0に等しかったしな]
とサラリと答える。───てか、フウガ、空気の震えとか共鳴力とかそういう難しいこと、考えてたんだ。いつもお酒を飲んで隠り世の遊郭に入り浸っているフウガをみてると想像がつかないんだけど。
[碧衣、お前相当失礼なこと考えてるだろ]
フウガは碧衣の額を長くきれいな指先で軽くつつく。
──バレたか。
「………いや、そんなことは…」
───フウガの顔が見れない。碧衣は顔をしきりに覗き込んでくるフウガとは目を合わせないように視線をそらす。
[………まぁ、いいけど。とりあえず何もなくてよかったわ。それと]
優しかった顔とは一変、フウガは怖い顔でリュカたちを上から見下すようにみる。──殿下を見下ろすなんて普通できないわよ。
[今回は碧衣を守れたからいいけど。この先碧衣を傷つけてみろ。次はないから]
そういったフウガは冷たい風を上げたとともにフッと最初からそこにいなかったかのように静かに消えた。
フウガが消えたあと、リュカたち3人は安心したのか力が抜けたようにして近くの木に寄り掛かる。
「アオイ、彼は何者なんだい?風の神、とか名乗っていたけれど」
リュカは気が抜けたような笑顔を浮かべて聞いてくる。
「フウガのいったように、風の神ですよ。それ以上でも、それ以下でもありません」
「そう……じゃあ質問を変えよう。キミは何者なんだい?」
リュカは真剣な顔つきで碧衣を見れば、テオは警戒するように碧衣とクロードとの間に立つ。
「私は………、私は神との間に契約を結び、神を使い、現し世と隠り世の均衡を保つ存在、
「カミツカイ……?」
とクロードは繰り返す。
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