第2話:死亡フラグ
『………しょう』
『それは……』
『しかし!…………のことも……』
まどろむ意識の中、声が聞こえてくる。
───男性だろうか。若い声が聞こえるな。
……てかそもそも何だっけ?私、異世界?に来たよね?セツから話聞いたし……。それで疲れて眠くなって……?───はっ!今!私!寝てる!!!
「おはよう」
碧衣が勢いよく目を覚ませば、目の前には3人の男性がいた。
「さて、キミは誰かな。そしてどうしてここにいるのかな」
そういった男性はにっこり笑いながら碧衣の前に目線を合わせるようにして座る。
───はぁ……イケメンとはこういうことを言うのだろうか。深い海のように濃い青の瞳に絹のようにきれいな金髪の男性。顔も彫りが深く、現代だとモデルか、それよりも良い容姿をしていると思う。
「名乗るときは、まず自分から、ではないでしょうか」
「無礼者!!」
碧衣の言葉に、後ろで素早く剣を抜いて彼女が少しでも動けば喉元に刺さりそうな距離で剣を向ける男性。こちらも顔が整っている。
日本でも茶髪に茶色の瞳はよくみてたけど、適度に筋肉が付いてる分、現代ではあまりみない新鮮な容姿に見える。
───おぉ、剣なんてこんな間近で初めてみたわ。
碧衣自身は剣を突きつけられているという状況よりも、初めてこんな間近で見る真剣の方に目が行き、茶髪の男性と突き出す剣を交互にみる。
「……剣を下げなさい。これは失礼。私の名前はクロード・タヴェルニエ。公爵です」
金髪の男性はクロードと名乗り、碧衣にそれはそれはもうものすごくきれいな笑顔を向ける。それと同時にクロード周囲がキラキラして見え、イケメン補正ってすごいな、なんて感心してしまう。
「……テオ・シャペイ」
剣を向けてきたテオはクロードの意見に不服だったのか、碧衣とは一切目を合わせずに名乗る。まぁ、この人の行動は間違ってないと思う。誰だって知らない人がいつの間にか家にいれば不審者と思って警戒するだろうし。
「僕はリュカ・アントワーヌ。よろしく!」
パチっとウインクをしてくるのは銀髪に赤い瞳をしている。……てか、チャラいな、この人。東京とかでナンパしたら誰でも釣れそうな顔はしてるけど、多分この人何股もして最期女性に刺されて人生終わるやつだよ。
「殿下、どこの馬の骨ともわからない人に不用意に近づくものではありません」
テオはキッと碧衣を睨んでくる。いままでみてきたどの目つきよりも怖いし…さすが剣を携帯してる時代なだけある。
───てか殿下!?さっきまで”この人何股もして最期女性に刺されて人生終わるやつだよ。”とか思ってたのこの人はともかく、テオとかに知られたら私の命のほうが先に終わりそうだ!!!
「……で?キミの名前は?」
「姫塚碧衣です」
「ヒメヅカ……?聞いたこと無い名前だね」
とクロード。テオやリュカも首をかしげる。
───そっか。ここは外国も同様。日本や韓国みたいに名字が先じゃないのか。
「あ、いえ。名前が碧衣。姫塚は……名字、いえ、家名ですね」
「へぇ……そんな短い家名も聞いたこと無いな……。それにミドルネームすらないなんて、今の時代平民でも持ってない人が少ないのに……。で、アオイ、キミはどこから来たの?ここは公爵家。しかもクロードの部屋だ。警備は厳重で入るすきなんてどこにもなかったと思うけど」
とリュカは私を探るようにみる。
───まぁ当然だろう。殿下ともなれば危険人物は早々に排除しておくに越したことはない。それに気付いたらここにいました、で信じてくれるのかな。でもそれしか無いよね。
しかもここは公爵家。彼がリュカが言いたいことは王家の次に偉い家にどうして素性も知らない人がいるのか、ということだ。
碧衣自身、海外で神使として仕事をしたこともあるし、そのときに王族と関わったこともあるから爵位はなんとなくわかってる、といっても王家の次に偉いのが公爵、そして侯爵、伯爵、子爵、くらいしか覚えていないのだけれど。
「気付いたらここにいました」
正直に言えば、3人からドン引きな視線を向けられる。
──いや、私もそれ聞けばドン引きするけど!このアウェイ感、いたたまれない。
「おい。お前、バカにしてんのか」
テオに剣を向けられ、とっさにスッと避けようとすれば、碧衣は後ろ手で縛られてることに今気づく。
──何この状況。
「そんな夢物語のようなことは聞いてないんだよ。正直に答えて?じゃないと、キミを拷問して吐かせることになるから、ね?」
ニッコリとした顔を向けるリュカ。
───拷問ね……。3人の容姿から察するに中世ヨーロッパあたりだろう。拷問って、アイアン・メイデンとか?爪剥がすぞ、みたいな?痛いのはいやよ、私。
「別に嘘を付いてるわけではありませんよ」
「……はぁ。テオ」
淡々と答える碧衣にクロードはため息をついてテオに声をかければ、テオは頷いて引き出しからものを持ってくる。
───まぁこんなこと、言っても信じてもらえないのはわかってたけど。……てか名前呼ぶだけでわかるってすごいな。テレパシーとかこの世界に存在してるとか?私はセツたちとの感覚共有くらいしかできないのに。
テオは碧衣の前に机いっぱいの大きさの地図をバサッと広げ、クロードとリュカの間に水晶のようなものを置く。
「ここで、どこから来たのか指してくれ。テオ、拘束を解いてやれ」
クロードに言われ、碧衣はテオに開放された手首を無意識にさすって地図を見るも。
───えぇと?タニフゲイア王国に、アントワーヌ共和国……ツェヴア国?国名は読めるけどどこも知らないとこばっかりだ。日本語の翻訳が間違ってる…とかは無いよね?実際こんな形の大陸がかかれた世界地図の形も見たこと無いし。
「……ここには存在しないですね。こんな世界地図の形も見たことありません」
「……そうか」
───ん?なんか素直に受け取ったな、クロードも、殿下も。……テオは相変わらず不審そうな顔をしてるけど。
「……殿下。もしかしてこの少女は、”精霊の主”ではないでしょうか。黒髪に黒い瞳はここではみたことありませんし、このみたことのない服装もその証明では無いかと。それに水晶の反応もありませんでした。嘘はついてないでしょう」
───その水晶はウソ発見器か。
「そうだねぇ……。でもそれは随分前の話で今は存在しないはず。それにその召喚方法は術者にも召喚者にも危険が伴うからと廃止されたはずだけど……。しかも召喚されたなら城の召喚陣にいるはずだし、辻褄は合わないことだらけだ。でもクロードの言う通り黒髪に黒い瞳はみたことがない……それでもう一度聞くけど、アオイ、キミはどこから来たの?」
「日本ですね。地球にいました」
椅子に座って長い足を組み、その上で頬杖をつくリュカに碧衣は答える。
「ニホンという名も、チキュウという名も聞いたことがない…。ちなみにここはアントワーヌ共和国の首都、アンヌだよ」
───聞いたことのない名前だ。
「そしてアオイ、キミを精霊の主ではないかと思う」
「精霊の主、ですか」
碧衣はリュカの言葉を繰り返す。
「そう。精霊の主。この国、いや世界には魔法があってね」
リュカはそう言いながら右手に火を灯す。
───おぉ、魔法だ。映画でしかみたこと無いものを目の前でみてるってなると少しテンション上がるわ。はぁん……。私の使う力とは違って発動前に術式が発動する仕組みなのか。
「その魔法には基本的に精霊がいて、その精霊からマナという目には見えない粒子をもらってそれを魔法の素として発動し、魔法は確立している。そのマナのおかげで私達は見た目よりも長く生きるんだ。まぁ老化が遅いといったほうがいいかな。そして、キミみたいな精霊の主っていうのは、魔法にマナはいらない。もともと体内にマナを持っている存在、と言われている」
「言われている……?」
最後の言葉が気になり、碧衣はオウム返しのようにリュカの言葉を繰り返す。
「最後に精霊の主がこの国に来たのは何千年も前。だから古い文献しかなくてね。容姿はここではみられない容姿であること、ここには存在しない国や世界から来てることくらいの情報かな。あとは、魔法の話とかは確かでは無いんだ。ただ、来たっていう記録と、大体精霊の主が来るときには、なにか大きな事があるときってことだけ。それ以上のことはわかってないんだ」
リュカは申し訳無さそうにいう。
───魔法って言われても、私は神使だし…、そもそも私、魔法って使えるのかな。
碧衣達の世界では、神使や陰陽系は他の術などとは相性最悪と言われている。そもそも術の起動までの過程が違うし、なにか合わないものがあるんだろう。
特に神の力を借りる彼女が、精霊の力まで使えるようになるのだろうか。神と精霊は当然違う。昔から神は精霊も神の御子として存在を主張しているが、精霊自身は神とは違う存在として主張しており、碧衣のいた時代でも神と精霊は相当仲が悪かった。
「………で、そこで、だ」
ニッコリと笑っていうリュカ。
──もしかしてこの殿下、策士なんじゃないだろうか。
「文献を証明するために、魔法をつかってもらいたい」
「はい?」
にっこり笑ってさらりというリュカに碧衣は素っ頓狂な返事が漏れる。
───はぁ……。殿下から、無茶振り、もらいました。
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