第2話
「そいやさー、お前ら彼女いんのかよ」なんて面白がって聞いてくるけど、そんなもの俺達のテーブルを見れば見知らぬ人が見ても解る。
そうさ、所謂童貞臭い奴らしかいなかったんだからさ。繰り返すが俺も含めてね。
「いるわけないだろ、見りゃわかるじゃん」なんて無理して明るくおどけながら返したらAは
「なんだよーご無沙汰かよー」なんてニヤニヤしながら俺達に自分のスマホに映った女の子の写真を見せてきた。
特に説明も無く何人か派手なメイクの美人を見せられた。
「へーめっちゃ可愛いね。って彼女? 何人いるんだよー」って嫉妬心を抑え込んで笑って聞いてみたらAは悪気なさそうに「いやセフレ!」と答えた。
俺達は正直それを笑う事もうらやむ事も出来ず、ただ硬直してた。
セフレなんて俺達にとっては量子力学とか黒魔術の専門用語くらいまったく人生において縁遠い単語だったしね。
そんな俺達の反応は無視してAはどんどん写真を見せてくる。
何かまるで最初からそうすることが決まってた感じで、多分Aの目には俺達なんて映ってないんだと思う。
Aは完全に俺達に自慢することで何らかの優越感に浸りたい、ただそれだけの為に喋りに来たんだと思う。
Aはクラスの人気者ではあったけど、一番じゃなかった。だから飲み会の中で陽キャ集団の中でイジられたりもしていた。
そこにAなりに何らかの不満が溜まっていて、その解消相手として選ばれたのが我ら不人気軍団だったと、ただそういう話なんだと思う。
「ほら、どうよこれ。おっぱいすげえだろ」
何人目かの派手な女の子の写真をスライドすると、そこには目元を隠して胸を露出した女の子の写真が出てきた。
口元に特徴的なホクロがあったし一枚前の綺麗な女の子だと直ぐに解った。
Aは俺達の反応をみてニヤニヤとしている。
どうやら自分がハメた女の子をアルバムにして記念にしているらしい。
すごいね、としか言いようが無い。
誰もやめろよ、とは言わなかった。
惨めだった。男として圧倒的に上位ランクの相手から一方的に馬鹿にされているんだから。
それがわかっていても女の子の裸を見せて貰えるならそれを享受してしまうんだから悲しいよね。
そんな俺達を余所にAは次々と女の子の顔と裸をスマホに表示して俺達に自慢していった。
中には自分の一部が映った物もあったけどAは全然気にしてないみたいだった。
そんな中、Aが見せてくる写真の中で一人明らかに雰囲気の違う女の子がいた。
黒髪でちょっと病的な感じ。地味だし化粧っ気もないしこう言っちゃ悪いけど、Aには明らかに釣り合ってない感じだった。
なんだかんだ言ってAは芸能人みたいな派手な髪型をしていたし、服装も整っていたからね。
「なんかこの子だけ雰囲気違うね」ってつい口に出してしまった。
「……あーこいつはメンヘラだからさー、セフレっつーか、まぁ○○○だよ」ってとても言えないような酷い単語を口にした。
何やら他の連中とは出来ないような酷い事をするため専用なんだという。
いくつか彼女とした行為の一部を写真を交えて見せられたけど、相手の人間性を踏みにじるような本当に酷いものだった。
Aのむき出しの欲望をそのままぶつけられているかのような。
余りに異次元過ぎて俺達誰もが全く話について行けていなかった。
「こいつさー、俺が初めてだったらしくてさー。最初はすっげー下手クソだったの。
血もいっぱい出るしぴーぴー痛がって泣いてもう二度と会うことはねーなーって思ってぶっちしようとしたんだけどさ、何でもするからもう一回あって欲しいって言われちゃってさー。
だからほんと言葉通りやりてーこと全部やってやった。
地味っちゃ地味だけど物覚えスゲー良いからそれなりに使ってたわ。
ま、妊娠しちゃったらしいからそれ以後はブロックしてっからもう知らないけど(笑)
俺もしかしたら知らないうちにパパになってっかもしんねーわ(笑)」
いくら酒の席とはいえ悪びれずに言うような話じゃないと思う。
本当は怒りたかったけど事なかれ主義が災いして結局みんな笑うだけだった。
「ま、俺の話はこんなもんか。お前ら彼女いねえんだろ? 欲しくねえの?」
「欲しくないわけじゃ無いけどさ……」
にやけて誤魔化しながらそう答えるとAは
「なんだよ! ならいいもん教えてやるよ! ほらお前らもやれよ、マッチングアプリ! 教えてやるから全員スマホ出せよ!」
酔っ払って悪のりしたAに逆らえるはずも無く俺達は全員スマホをだして、その場でAが使ってるアプリをダウンロードさせられた。
そのアプリは短い紹介文と顔写真を設定して登録するタイプの物らしい。
GPSを使っているらしく相手との距離が表示されて、相手を気に入れば右に、気に入らなければ左にスワイプする事で利用していく。
そして男女お互いが「気に入った」を選択した場合だけ連絡が取れる仕様になってる。
勿論最初はどんなアプリかなんて解らなかったから写真を設定する段になって漸く自分の写真が必要なんだって解った。
自分の容姿に自信なんて無いし、むしろ嫌いな俺達がそんな写真持ってるはずも無い。
「無いの? 一枚も? 悲しすぎんだろ(笑)仕方ねぇなあ、んじゃ一緒に撮ろうぜ!」
その場で爆笑するAに肩を組まれてよく解らないツーショット写真を撮影され、その写真で半ば無理矢理アカウントを作った。
俺達が登録したことに満足したAは元の席に帰って「なぁ聞いてくれよ! あいつらマッチングアプリに登録してやったぜ!」とか言って大笑いしてた。
結局何処まで行っても俺達はAのネタかオモチャだったんだ。
……あの黒髪の女の子みたいに。
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