スクープキラー〜お嬢様学校に潜入せよ〜

龍鳥

スクープキラー〜お嬢様学校に潜入せよ〜


 お嬢様学校とは、なんだろうか?


 

 『靴を舐めろ!!』


 『よろしくてよ』


 『高貴な私の手に触れるな』



 というような、ドS発言をかますかもしれない。大多数の人はそう思うだろう。


 つい最近、僕は会社員からお嬢様学校で有名な『抹茶味女学園』に教師として赴任してきた男だ。



 「おう!!目黒先生!!今日もいい天気だね!!」


 「目黒先生!!おっす!!」


 「よう!!良い尻してるな先生!!」



 現在、僕がイメージするお嬢様学校と違って困惑しています。



 何故、僕がこんな汚い学校に先生として来たかというと、会社の上司からの移動命令からである。

 自慢になるが、僕は会社の中では真面目に仕事をこなしてきて、成績を上げていたエリートだ。自称でもしていいくらい自慢できる。


 けど、就職していた会社に問題あったというか……名前でも言うのも恥ずかしいが、僕の会社は様々なゴシップを調査して新聞社にネタを提供するという、言い換えれば産業スパイと呼ばれそうな役職なのだ。

 なら僕は優秀なスパイだから任命された……それは違う。だからあの時、なんで上司に呼び出されたかは最初は分からなかった。



 「君、事務員の癖に真面目に仕事しすぎだよ」



 なにせ、専門学校で選考が事務だけの勉強しかしてないですからね!!悪かったなクソ上司!!事務しか仕事できないんだよ、ちくしょう!!



 「で、人手不足だし、君は実力ありそうだし、ある学校の内部調査を頼むよ」



 どうしてそうなるんだよ!!左遷じゃねえか!!あと、僕は真面目がモットーとして生きてますから!!



 そんで今に至る。しかも、赴任した学校はお嬢様学校のランクでいえば、最低クラスのZ級の柄の悪さだ。そんな場所にスパイして、何の意味があるんだよと聞きたい。上司をボコボコにしながらね。



 この学校に来てから毎日が最悪だ。さっきも尻を触られるや、セクハラ発言されるわ……男はおれ1人しかしないから、面白がってるんすよね。あー!!誰かー助けてくれ!!



 「あっ、先生。おはようございます」



 僕が絶望に思いをふけていた時に、後ろから聞き慣れた声、ミミさんがいた。

 太い眉毛、ゲジ眉毛とか思わないが太い眉毛が見え隠れする超ロングヘアーな黒髪の持ち主は、今日も見てて落ち着く。なにせ、お嬢様らしい生徒は彼女ただ1人しかいないのだ。


 僕は個人的に彼女と仲が良かった。何せ、彼女こそが僕がスパイする相手、ミミさんなのだからね。気軽に挨拶を返せる仲にまで発展したのも、彼女の人柄の良さで、そう時間がかからなかった。

 歳の差10以上も離れた相手と友達になったんだから、誰か褒めてよ、僕のコミュ力を。



 「やぁミミさん。昨日、渡しといた漫画は面白かったろ?」


 「はい!!混浴に入ってた相手が実は女だというオチにはビックリしました!!」



 とまぁ、こんな風に漫画の貸し借りをする程の進展はあるわけだ。すごいでしょ?

 そんな彼女をスパイするんだから、ちょっと心が痛いのがネックなんですがねぇ。



 「この学校には慣れました?」


 「短期間の教育実習生で来たとはいえ、お嬢様学校といえ柄が悪い子ばかりで驚いてばかりだよ」


 「この学校の伝統は、『男に勝るお淑やかさ』を求めているのですもの。長年の教育の成果ですわ」



 廊下で何気ない長話をするのも、これが初めてじゃない。彼女とは、それほど深い関係なんだ。もちろん、これも仕事の一環だ。


 今回の調査依頼は、ある雑誌が見つけたゴシップ、それはミミさんの親が人気ミュージシャンの隠し子であるという事である。

 しかもそのミュージシャンは国民的人気度があるし、今でもおしどり夫婦としても有名だ。その夫が不倫して別の子供を産んでいた人が、ミミさんだ。



 「ミミさんて、親はどんな人なの?」



 有名人が親、それをミミさんなのかは確固たる証拠は未だにない。だから僕がここにいる。

 親の所存を聞いたミミさんは、暗い顔を落としてしまった。まずいなぁ。

 でも悲しませてしまったが、これも僕の仕事だからね。



 「……それは、わかりません。口座に養育費のお金が振り込まれてるのは、わかるのですが」


 「そっか……」



 廊下の奥から端まで、少女たちが自転車レースをしている。廊下で走るのは危ないとは学校では教わらなかったようだ。本当にお嬢様学校なのか……



 「あっはぁ!!へんせい!!」



 げっ!!こいつは!!俺の中で特S級ランクに位置するアホの子!!この子の特徴はなんといっても空気の読めない発言をするアホ加減だ!!



 「へんせいとミミさんて、付き合ってるのですかぁ?」



 ほらそう言うことだよ!!ミミさんが顔まで赤くなってるじゃないか!!お前のせいで!!僕は凶暴な小動物を追い払うよに、ど違う場所へ行かせようとするが。



 「先生!!話す場所を変えましょう!!」


 「えっ?そんな慌てなくても!?」



 ミミさんは強引に僕の手を引っ張って、僕たちが良く住み過ごす、使用されてない用具室の中に走り去ることになる。女の子の手は、柔らかいなぁ……てっ、そんなこと考えてる場合じゃない!!早くミミさんの住所を掴めないと。




 さあ、舞台は変わって用具室。周りには、バナナの着ぐるみや等身大のイケメン人体模型と使うのかわからないものが、散乱してある。



 「……ここなら、ゆっくり話せますね」


 「そうだね、僕たちが付き合ってることバレたら大変なことになるからね」



 実は、僕たち2人は付き合ってます。決して、いやらしい気持ちがあるから好きになったわけではありません。調査のために、ミミさんの甘い香りに惹かれたとは一言も思ってません。



 「今日、ミミさんの家に伺っていいかな?」


 「でも私、1人暮らしだし教師と生徒が一緒に入ったらまずいのでは……」


 「そこはバレなきゃ問題ないさ」



 ふふっ、彼女が1人暮らしなのは調査済み。あとは、証拠となるミュージシャンの写真とか資料を掴めば、それで僕の仕事は終了だ。大丈夫だ、彼女の家に行くのは一回だけだ。




 「先生は、私のこと本当に好きなんですね」


 「えっ?」


 「だって、親なしの悪い噂まみれで汚れた私を、こんなにも愛してくださるもの。他の学校だと、娼婦の子に孕ませらたとか酷いレッテルを貼られて……ようやく落ち着いた学校がここで、先生にも会えて……わたし、幸せです」








 埃まみれの灰色の結晶が、ふわりと舞い上がってる。いまの僕の目には、太陽の季節すら眩しい彼女の存在が、脆く儚い雪化粧のようなものに見えた。

 そうだ、この子は本当の親が誰かまだ知らない。スキャンダルを隠すため孤児院に預けられ、孤独に過ごしてきた彼女には、人から愛されるという感情の温かさが、どれほど欲しかったか。


 はっきり言おう。僕はそんな彼女が好きだ。最初は調査のために近づいてきたが、今では産業スパイなどの仕事など捨てて、私情生活の真っ最中である。

 だから、今日中に上司に良い報告しないと、僕はクビになる。



 会社の昇進をかけて彼女を騙すか、それとも僕のわがままなために彼女を騙すか。既に答えは決まっていた。



 「ミミさん、僕は本当に君が好きだ」


 「知ってます」


 彼女の笑顔が、僕をいつも罪悪感を覚えさせてくれる。



 「実は君が本当の親が誰か、僕は知っている」


 「わかってました」



 軋むような面持ちで見る、クラスで浮いている彼女の姿を見ると、胸が張り裂けそうになっていた。



 「僕はその真相を突き止めるために、君に近づいてきた。今日中に、ミミさんの素性を割れないと僕はクビになる。でもそうはさせない。君を本当に好きだからだ」


 「あなたらしいですね」



 これはギャグで言っていない。僕は……僕は……1人で佇む彼女を放って置けなかった。それを見てる自分が心底と憎かった。愛しい、ミミさんがひたすらに愛しい。



 「だから僕と結婚を前提にお付き合いしてください!!」

 

 「はい、喜んで」



 僕の一喝が、使いはずもない道具が意思を持つかのような、強い言霊を込めるように宣言した。そして彼女はイエスという返事をし……あれ?






 いやいやいや待て待て!!えっ!?、僕が産業スパイだと知ってたの!!というか、口が滑りすぎて結婚まで申し込んじゃったぞおい!!



 「ちょちょっ、い、いつから知ってたの?」


 「だって先生。心の声ダダ漏れですよ?」


 「こ、心の声って?」


 「たとえば、『僕はミミさんの本当の親を知ってるのに、なんで教えてあげないんだ』『こんなに彼女のことが好きなのに、どうして僕はこんな仕事をしているのか』とかね。こんな優しい人、誰だって好きになりますよ。ふふふっ」



 あああああっ!!僕の癖である思った事を口にするのがバレバレじゃないか!!



 「あっ、今もしゃべってますよ?」


 「やめて!!聞かないで!!」



 彼女は僕が焦りまくってる姿を見て、大笑いしている。そうだよな、初めて君に会った時の表情は、まるで戦争を逃れて異国を何ヵ所も移動したような、げっそりしてた顔してたもんな。

 そんな彼女が、こんなにも幸せそうにしてるなんて……もう誰が親なんかでいいじゃないか。


 人には触れたくない過去もあるが、それはいつのまにか氷みたいに解けてなくなることもある。それを満たす条件は、愛する人との交流を持って、初めて方程式が成り立つ魔法の効果がある。



 「先生」



 再び、彼女の柔らかい手が重なる。これからは、この体は僕だけのものになる。両思いだったことも嬉しいし、僕も自分に嘘をつかないで素直に君のことを好きと伝えられる日がことを、本当に嬉しく思う。


 

 「好きです」


 「僕も君が好きだ」



 後日、僕は会社に辞表を提出した。その後の2人は……ハッピーエンドのその先はまだ続く。

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