死は救済ではない、希望だ
綿麻きぬ
深夜のコンビニで
深夜、僕は会社の帰りにコンビニに寄った。カゴには酒とつまみが入っていて、レジに持っていくとどこかで見覚えのあるような顔に接客をされた。
そこでいつもと同じように買い物を終えるはずだった。だが、自分の名前を呼ばれ、外で5分ほど待っていてくれと言われた。
そして現在、僕は何故かコンビニの前で待っている。そしてさっき僕を接客した店員はやってきた。
「俺のこと覚えている?」
いいや、覚えがない。ただ、どこかで見たことがあるような気がする。
「そうだよなぁ、覚えてなくてもしょうがないよ。小学校の同級生の○○だよ」
名前のところが聞き取れなかったが、懐かしい人であることだけは分かった。そしてなぜか公園で呑むことになった。
僕らは公園のブランコに座りながら、話をしている。最初は他愛のない昔話だ。あんな子がいた、今はこうらしい。そういや担任は死んだらしい、とかとか。
そして僕はふと言葉を漏らしてしまった。
「ねぇ、僕は生きているのかな」
「うん、生きているよ」
同級生は当たり前のように言った。だけども僕は生きていることを否定したい。その理由を僕はポツリポツリと話し始めた。
「生きている実感が湧かないのだよ。昔みたいに知識の探求をやめた、生き抜くためにロボットになった、考えなくなった、やりたいことがなくなった、家に帰っても寝るだけの日々。それを僕は生きていると言えるかと問われたら答えられない」
「それでも君は生きているよ」
同級生は言い切った。『それでも君は生きている』と。僕はそれに心がざわついた。同級生は手にもった缶ビールを一口飲んで、ブランコを漕ぎ始めた。
「生きていることの反対って死んでいることだと思うよ。でもね、死って救済じゃないと俺は思うんだよね。ただの希望だって。君が求めているのは救済だろ? この人生からの救いを求めている」
僕はこの同級生が何を言いたいか、分からずにブランコに座ったままだ。
「君はまだ救いを求めているから、まだ生きているよ。大丈夫。死に希望を求めたら他の人間に救いを求めてくれ」
そう言って同級生はブランコから飛び降りた。そして僕の手を引っ張り立たせた。
そうして僕らはそれぞれ帰途についた。そして家では寝るだけの生活がまた始まった。会社に行き、ロボットになり、心は捨て、探求心は消え去った。そんな日常が戻ってきた。
いきなり携帯電話が鳴る。別の同級生からだ。同級生が自殺したと。
あいつは死に希望を持ち、僕に救いを求めていたのだろうか。
死は救済ではない、希望だ 綿麻きぬ @wataasa_kinu
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