身勝手な肯定

綿麻きぬ

存在の認識

 久しぶりに外へ出た。僕の頭がおかしいのを証明するために。


 なぜそんなことをするのか、多分だが自分のおかしさを認識して自分の存在を認めるためだろう。


 時々、自分の存在が分からなくなる。自分は何者か、自分は存在しているのか、そんなことばかりを気にし始める。


 そんな僕は外で他人の存在を認識する。自分の存在は認識できないのに、他人の存在は認識できる。それは自分自身を否定するのには充分だった。


 いきづらさを感じながら、僕は一歩一歩と歩き出す。


 そんな時、母親と歩いている女の子が目に入った。2人とも信頼し合っている笑顔を浮かべている。


 その光景を見て僕は何を思ったのか、手を女の子の首に伸ばそうとした。


 すぐに気が付いた。僕がしようとしていることは犯罪だということに。


 急いで手をポケットに入れ、理性を呼び戻す。


 例え、この子を手にかけたとしてもその子の存在は消えない。その上、僕の存在は肯定されない。


 それは分かっている。分かってはいるが、その衝動を抑えられなくなってきているのも事実である。


 自分より弱い者を対象としている。それも分かっている。そんなことはしてはいけないと。


 ふと、気が付いた。あぁ、僕は何を悩んでいるのだろうか。悩む必要などないではないか。欲望のままにすれば良いではないか。


 だってその行為をすれば、一瞬でも僕は僕に肯定される。


 一瞬だということは分かっている。でも、それでも、満たされる瞬間がくると思うと僕は手を取り出した。


 ごめん、ごめんね。でもね、僕は僕を肯定したいのだ。

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身勝手な肯定 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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