第5話 毒殺ハートフル

「太一、どうしよう。なんか黒い塊ができちゃった。」


「お前、まさか。」


キッチンのフライパンにはどす黒い硬いものがあった。それからは異様な匂いがしてくる。


「皐月、これはなんだ。」


「ハンバーグだよ?」


「疑問形になってるじゃないか。」


これはなんだ。確かに外側は焦げた肉だが仲は異様に柔らかい。


「中はなんだ?」


「ハンバーグって玉ねぎ入れるんでしょ?大きい方がいいかなって思って半分入れてみたの。」


さすがにやばいだろ。これはまるごと玉ねぎか。まあそれはまだ食えないことはないだろう。しかしゴミが見当たらないな。


「おい、皐月、玉ねぎの皮ってどうした?」


「栄養になるかなーってそのまま入れたよ。」


おっおい。やべえこれはそれにしてもなんでこんなに黒いんだ?


「ほかに何を入れた?」


「んーっとね、醤油、砂糖、塩コショウ、味噌、マヨネーズ、ケチャップ、オイスターソース、とりあえず今ある調味料全部と甘いの好きって言ってたじゃん?だから隠し味にバニラエッセンス。」


こいつやべぇ。


「あっそういえばつなぎって言って卵使うんだよね。」


「そうだが、お前、殻はどうした。」


「栄養あるんじゃないの?」


ああ、終わった。これは食っても食わなくても死ぬやつだな。とりあえずフォローを入れとかないと。


「なあ皐月、これから俺が作ってやるからゆっくり上手くなっていこうな。」


「なにそのあきらめた表情は。頑張ったんだもん。」


俺は泣きそうになっている皐月の頭を撫でてやる。


「よく頑張ったな。じゃあ一口いただこうかな。」


「駄目だよ。太一、死んじゃう。」


俺は箸を取り出しかぶりつく。


ガリっ


あっ終わった。


パタンッ


「太一ぃぃぃぃぃぃぃ。」



気が付くと川の前にいた。老人が、俺の爆破してきたリア充たちが手をこまねいている。


「……ち。…いち。太一ってば。」


目が覚めると幸せな感触を頭に感じる。目の前には泣きそうな顔の皐月。これは膝枕ではないか。夢にまで見た膝枕。ああ最高。このままもっと楽しみたいところだが皐月が泣きそうなので起きあがる。


「大丈夫?ごめんね、太一。」


「ん?なんのことだ?」


俺にはなんでこうなったかの記憶がなかった。皐月と家に帰ってきて、なにしたっけな。しかし俺にはまだ膝枕の感触が抜けずにそんなことどうでもいいと思ってしまっていた。


「ならいいんだけど。ねえ太一、今度料理教えて。」


皐月から料理という単語を聞くとなぜか身が震える。なぜだろう?


「ああ。全然いいぞ。」


「やった。じゃあ私そろそろ帰るね。今日はありがとう。」


「ああ。また明日な。」


「また明日。」


彼女は花のような笑顔をして逃げるように帰っていった。少しその笑顔が引きつっていたのは気のせいだろうか。そして彼女は俺に幸せな膝枕という記憶を与えるとともに俺の部屋によくわからない異臭を残していった。まるで毒のように。あっ思いだした。


「さつきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。」


二度と皐月に一人で料理させないと誓った太一であった。

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