第4話 鬼と嫁は紙一重


 季節は春、今日は暖かい日だ。何度でも寝れるような日差しでまた眠気が襲ってくる。学校にはすでに登校している生徒がちらほらいて朝練終わりの奏多に話しかけた。


「おはよう奏多。」


「おはようさん。太一。あ、そういえば今日皐月がやばいかもな。」


「どうゆうことだ?」


「昨日お前マイン既読無視したろ。」


 マインとは国民的連絡アプリで大体の人が使っている。大抵の人はみんなそれで連絡することが多い。


「えっそんなはずは。俺ちゃんと長押ししたぞ。嘘、既読になっている…だと。」


「ありがちだな。それで皐月が怒っているということだね。」


「うわ、どうしよう。」


 すると


「おはよう奏多。」


「おはよう。太一ならここだぞ。」


 おい、奏多裏切りやがったな。これはまずい。逃亡しようと思い佐々木は後ろを向く。


「どこへいくのかなぁ?太一?」


「いえ。トイレに。」


「太一はそうやって逃げるよねぇ。知ってるよぉ。私。」


 皐月の笑顔が怖い。後ろには鬼が見える気がする。俺じゃなくてこいつこそ鬼神だろ。


「ん、誰が鬼だって。」


「口に出てた?あっ。」


「思ってたんだ。太一。」


 キーンコーンカーンコーン


 チャイムだ。なんとか救われた。


「救われてないから。あとで覚えといてね♡」


 放課後


 俺はダッシュするように帰ろうとする。しかし首をつかまれ止められた。


「どこへいこうというの?太一に逃げ場なんてないから。」


 あっ終わった。


 この後彼を見るものは誰もいなかった、わけではなくいつもの通り皐月と二人で帰っていた。いろいろ問い詰められた。


「なんで無視するの。悲しかったんだからね。嫌われたかと思ったの。」


「皐月を嫌うわけないじゃん。長い仲だろ?」


「でも、不安になるの。いつか離れ離れになるんじゃないかって。」


「大丈夫だ。俺が皐月を嫌うことなんてないし、皐月こそ俺を置いていきそうだよ。」


「私はどこにも行かないよ。ずっと太一のそばにいる。」


 ドキッとした。まるで俺と皐月が付き合っているみたいで今すぐに抱きしめたい衝動に駆られる。


「今、ドキッてしたでしょ。」


「そ、そんなのするわけない。」


「ふーん。そうなんだー。」


 下を向く俺の顔を皐月はのぞき込む。長いまつげ、大きな瞳に吸い寄せられてしまう。ああ、駄目だ。何してんだ俺。


「なあ皐月、好きでもない奴にこんなことすんなよ。」


「太一だからしたんだけどな。」


 舞い上がってしまってはダメだ。この勘違い男め。それで痛い目にあったのを忘れたのか。皐月は好きな人がいる。それに皐月と俺じゃあ釣り合わない。よしっ大丈夫だ。


「からかうのはやめろ。俺は帰る。」


「ええー。家行ってもいい?」


「なんで来るんだ。帰れ。」


「だって心配になったんだもん。」


 なにそのだもん。破壊力高すぎだろ。可愛すぎだっつーの。


 嘘、これでも気づかないの?私、今日頑張ったよね。頑張った。恥ずかしいのに。絶対顔真っ赤だよ。やっぱりキスかなぁ。でも照れてくれてたし。大丈夫だよね。痴女とか軽い女とか思われてないよね。


「上がったらすぐ帰れよ。」


「やったぁ。」


 彼女はぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ。ポニーテールも連動して跳ねる。それが少女のようで可愛かった。


 そんなこんなで家に着いた。


「ねね。先に私が入ってもいい?」


「まあ特に汚してないし大丈夫だが。」


「ちょっと待ってて。」


 どうしたのだろうか。まさかやましいものチェックか。残念だったなそれは俺の手の中だ。ふふふふふふ。


「いいよー。」


「ただいま。」


「おかえりなさいっ。」


 そこには天使がいた。俺は思わず膝をつき、


「ここが天国か。」


「なに死んでんのよ。たかがエプロンぐらいで。」


 そう、エプロンを着ていたのだ。制服×エプロンは似合わないはずもなく彼女の可愛さを引き立てていた。なぜか結婚する人はいいなと思ってしまいこう言ってしまった。


「皐月の好きな人は幸せ者だな。こんなに可愛くて良い子から好かれてて。」


「そ、そう。そうね。幸せものね。」


「どうしたんだ?顔赤いぞ。」


「そんなことないもん。いいから座ってて。私が料理する。」


「俺がやる。お客様は休んでいてください。」


「いいの。どーせ栄養取ってないんでしょ。」


「いや俺料理できるよ?」


「そうだった。まあいいからいいから。」


 俺はこのとき忘れていた。皐月の料理を。あの悪夢を。

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