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 悶々と考えている俺の耳に、そこかしこからクラスメートたちの声が聞こえてくる。



「やだ、ため息ついてらっしゃる…」

「何か嫌なことでもあったのかな…?」

「お声かけてみる…?」

「あの憂いを帯びたお顔がまたステキ…っ!」

「すげぇ、あの方の周りだけキラキラしてる…」

「俺、この写真ありゃ抜けるわ…写真部よろしく…」

「カメラのレンズ越しですら神々しい…!」

「太陽の光に照らされて本当に女神みたいだ、美しい…」



 ……はい、聞こえてますよー。

 この声は全て俺に向けられたもの。

 3年間、ずっと持ち上がりのクラスなので、去年からずっとこんな感じだ。


 こそこそと噂話するならもっと聞こえないように注意して欲しいもんだ。まぁ、悪口じゃないんだけどさ。

 でも、オカズにされてるのが分かるのはあまり良い気分では無いんですよねぇ。せめてもう少しオブラートにくるくるしてください。


 初めはどう対処すべきか悩んだけど、今となっては聞こえていないフリをするのが一番。

 クラスメートとしては普通に接してくれるし、なんだかんだ良い子たちなので今のところ大きな支障はない。

 まぁ、多少特別扱いされている気はするけれど。


 これで分かるかもしれないが、俺も一部には人気があったりする。

 今年のランキングでは、抱きたいランキングの3位に入賞した。本当にもう、投票したやつ名乗り出てくれそして一発殴らせろ。

 何で俺に投票したんだ。もっと可愛い男の娘なんてその辺にいっぱいいるというのに!


 こんな可愛らしくない性格のせいか、抱かれたいランキングでもそれなりの位置にいたらしい。

 でも、順位を掲載されるのは10位まで。だから、見た限り名前はなかった。どうせならそっちに入りたかった。

 ちなみに情報源は、あの陽希だから間違いない。


 俺の顔は欧州の血を引いた美人な母さんに似て、自分で言うのもなんだが綺麗な方だ。

 しかも、その欧州の血を俺も色濃く引いたらしく、髪は甘栗色で瞳は水色。兄妹はそこまでではないのだが、俺はかなり日本人離れした外見になっている。

 だからここに来ることが決まった時も、まぁ王道学園だという噂だし、それが事実ならそれなりにちやほやされるかもしれないなぁとは予想していた。だって俺美人だし。

 でも、まさかランキング入賞までするとは。

 しかもよりによって抱きたいランキング。つまり受け側。ネコちゃん。突っ込まれる方。いやありえねぇし。

 一体どこをどう見て抱きたいとか思ったんだ、みなさん。どっちかっていうと笑顔振りまく系じゃない。ころころ表情が変わるわけでもない、はず。話し方も男っぽいと思うし、身長も男性平均を上回っている。

 あー、どれだけ考えても謎だわ。


 そんな入学以来の仰天ニュースを上回ることなんてないと思っていたのに、昨日のニュースはそれを上回る勢いで衝撃を受けた。まだ4月だというのに。ついでに寿命も何年か縮んだ気がする。

 本当に巻き込まれ腐男子にはなりたくない。それだけは阻止したい。いや、阻止する。じゃないと、俺の学園生活破綻する気がする。アンチ系転入生だとしたらさらに悲惨なことに…。



「……おい」

「蓮。来てくれた。待ってたぞ」



 チワワくんたちが可愛らしくきゃっきゃしている中、低い短い声が上から降ってきた。

 そのまま前の席にカバンを叩きつける、目つきの悪い男。

 こいつは、クラスメートの城ヶ崎じょうがさきれん。無口で仏頂面な男だが、去年度はルームメイトでもあったためか、俺とはそれなりに話す間柄だ。

 ってかお前、そのカバン何も入ってねぇだろ。びっくりするくらい軽い音してたぞ。


 蓮の突然の登場に、2-A内に妙な緊張感が広がる。

 なんせ彼はクラス1…いや、学園でも一目置かれている不良だ。つまり、一匹狼。それはすなわち、王道転入生くんの取り巻き1号。

 意味、分かりますよね。



「…話って?」



 俺の前の席の蓮は、椅子に座り、背を壁に預けた状態で俺に視線を投げる。


 この男、こんなに恐れられているにも関わらず、顔がすこぶるいいから人気がある。

 俺が入りたかった、抱かれたいランキングにも7位に名前があった。羨ましいぞくそ。


 “城ヶ崎”だなんて綺麗な苗字でお家柄も良いはずの蓮がAクラスな理由は、想像通り生活態度だ。

 なんせ、すぐにサボる。部屋で寝ていることも多いし、校舎に来たとしてもすーぐサボる。教室滞在時間は平均5分。そして出没時間は基本午後。

 だからこんな朝早くにちゃんと教室に来て、しかも自席に着くなんて、珍しすぎて怖いらしい。視線が痛い。横にいる俺まで痛い。


 まぁ、この珍獣を呼んだのは俺なんですけどね。

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