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現在地、天照学園高等部2-A教室、窓際最後尾の自分の席。
現在時刻、朝8:10。
窓の外の天気は良好。気候も良く、素晴らしい撮影日和。
それとは裏腹に、俺の心は今にも雨が降りそうな、どんより重い曇り空。体に錘がついたかのようにだる重い。
理由はただひとつ。
王道転入生が、俺のクラスに、来る。
「はぁ…」
マジでないわぁ…。何で2-Aなんだよ。王道転入生って理事長の甥なんだろ? 編入テスト、リアルで満点取っちゃうくらい頭良いんだろ? 見た目は変装のせいでアレだとしても、家柄も成績も良いならお前はSクラスだろ。それが妥当だろう。なのに何でよりにもよってAクラスなんだよ。そして何で同い年なんだよ。顔か。見た目のせいなのか。でもお前、変装の下は絶世の美人なんだろ。理事長特権使えよクソ!
「はあ…」
昨日、あんな爆弾発言をした陽希がいるのは2-Sだ。
Sクラスは家柄、成績、容姿まで完璧な人たちが集まっている、いわゆるエリートクラス。そのため、その他ABCDの4クラスとは離れた場所に位置している。
俺たちのいる校舎と繋がってはいるし入場制限があるわけではないが、渡り廊下を通らないと行けない場所にあったり、廊下に赤い絨毯が敷かれていたり、教室の中もなんだか綺麗だったりと目に見えて特別扱いされているので、通称”S棟”と呼ばれている。
S棟にあるのは1階に風紀室、2〜4階に各学年のSクラスの教室、5階に生徒会室があるのみなので、Sクラスの人たちは移動教室大変だななんて思っている。それもこれも、出席日数優遇されたりするからなせる待遇ですね、わかっていますよ。
そんなSクラスに在籍している相良陽希くん。“残念”と付いていながらも“王子”と評されるだけのことはあり、容姿はかなり上位に位置する。抱かれたいランキングでは5位になるほどのイケてるメンズなのである。
成績も何だかんだで良い上、特に関西では名の通った御家柄の子息なので、ぎゃーぎゃーうるさい中にも、ふとした仕草に育ちの良さが窺える。
まぁ、王子と呼ばれる理由はそれだけではないけど。
その時、机に置いていたプライベートのスマホが通知を知らせる。メッセージを受け取った通知だ。
陽希はただ今、副会長イベをリアルで鑑賞中らしい。つまり、正門の前にいるということ。
こういう時、Sクラスの出席日数待遇はちょっぴり羨ましい。まぁ、そんなのあんまり俺も気にしてないけど。
さっきの通知を皮切りに、止まることなく鳴り続ける通知音。クラスメートたちに注目され始めたので、通知オフにした。
とはいえ気にはなるので、グループを開く。そこは、ライブ中継の如く送られてくる陽希からのメッセージと、同じ種族のメンバーたちの歓喜と興奮の言葉で溢れていた。
学園の全生徒の2割はいると言われている、“腐男子”という属性。その中の、陽希が把握している23人で作られたチャットグループ。もちろん非公式なので、プライベートで作られているものだ。
俺は例の如く匿名というか、”藤咲蒼葉”だとバレないような名前だが、陽希はもちろんオープン。まあ俺だけでなく、ほとんどのメンバーはニックネームだから気にならないが。
むしろ陽希の潔さに、逆に感服させられる。
そんなことを思いながら、勝手に更新されていく画面をぼーっと見ていると、遂に王道転入生の写真が送られてきた。
それはもう思い描いていた通りのもさもさ黒いマリモ頭に、目が見えないほどのぐるぐる渦巻きの瓶底眼鏡。素晴らしい。期待を1ミリも裏切らないオタクスタイルだ。
それを見たグループの腐男子たちは、目に見えて騒がしくなった。通知音はオフなため聴覚的には静かだが、もう視覚的にうるさい。
何はともあれ、副会長イベは着々と進行しているようで。
遂に、「気に入りました」発言をいただいた模様。
マジですか。本当に気に入ったの。マジですか。どこをどう気に入ったのか原稿用1枚にまとめて提出して欲しい。
写真がなかったところを見ると、どうやらキスはなかったようだ。それに関してはちょっと残念。その写真は欲しかったな。
“王道転入生”っていちいち長ったらしいので、”マリモ”と命名。だって、本当に、マリモだったから!
副会長様がマリモくんを伴って校舎内へ入っていくまで見届けたらしい陽希。「ほんなら教室戻りまーす!」と高らかに宣言して、ライブ中継は終了した。
相変わらず、グループは興奮冷めやらぬ状態だが。
「はあぁ…」
またため息が出た。もう何度目だろう。
俺だって、曲がりなりにも腐男子だ。王道転入生という存在は、この1年間、待ちに待った存在だった。
きっと、転入先がうちのクラスじゃなかったら、画面の向こうの腐レンドたちと同じように騒いでいた。
それどころか、テンションMAXで陽希と一緒にリアル鑑賞してた。もう間違いなく。
だがしかし。転入先がうちのクラスとなれば、話は180度変わってくる。
俺は、巻き込まれるのだけはごめんだ。
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