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『あああ遂にこの時が来た…っ! 6年も待ったんや。おもろい展開にならな、承知せんでえ!!』
陽希は既に臨戦態勢だ。電話越しに、カチャカチャと機械を触っている音が聞こえる。
おそらく、あのどでかい正門に仕掛けるカメラや盗聴器などを用意しているんだろう。王道転入生と言えば、門をチート的な運動神経で飛び越えて、副会長イベに突入するのだから。
腐に関してのこいつの行動力には、本当にいつも驚かされる。
お迎えに行くのが、王道展開と同じ生徒会役員の腹黒副会長様であることも、すでに調査済みなんだろうな。
その後も、陽希はブツブツと何か言いながら電話の向こうで用意をしていたので、やっと気持ちが落ち着いてきた俺も当初の活動を再開することにした。
三脚に取り付けていたカメラを取り外し、手で構える。レンズ越しに、桜の木の下に佇む2人を見つけた。
よかった、まだそんなに進んでいないみたいだ。
頬を赤らめた受けの先輩が、攻めの爽やか先輩を見上げている。
何それ最高なシチュエーション。上目遣い桜の木を背にしているところがさらに最高。桜ドンですね、今しかできないやつですね、わかります。
見つめ合う2人。そしてそのままゆっくりと唇が重なる。
あぁ、なんて素晴らしい光景。先輩方が笑顔で何よりです。幸せそうなオーラが、遠く離れた校舎の屋上の俺にまで届いています。この半年、お2人をずっと見守っていた甲斐がありました、ありがとうございましたご馳走様です。
照れ臭そうに手を繋いで、ゆっくりと寮に向かって歩いていく2人。
見えなくなるまで思う存分撮影して、背中すら見えなくなった頃、ようやくカメラを下ろした。
あぁ、よかった。最高に綺麗な恋愛だった。ありがとう先輩方、これで俺の筆も捗ります。お2人の恋の軌跡は、きちんと1冊の本にして残しますね。もちろんプライバシーは守ります。安心してください。
なんて、そもそも俺がこんなふうに2人の恋路を見守っていたとは露ほども知らないであろう先輩方に、心の中で連絡をしておく。
そう、俺は漫画研究部の部員だ。自分で執筆したBL本を校内で時々販売している。もちろん部活なので学園公認。グルチャはTSP経由だ。
販売会は月1。売れるものは個人を特定できないもの、及びフィクションに限るけど。
ちなみに、写真部員でもある。ただ、こんなにがっつり恋愛している写真はいろんな意味で売っちゃダメなので、今回は見送り。
写真部として売れるのは、天照学園伝統のランキング──抱きたいランキング&抱かれたいランキング入賞メンバーの、セクシーショットやオフショット。そんなものはここでは撮れない。
部活を掛け持ちしている活動的な俺だが、ワケあって、どちらの部活も”藤咲蒼葉”という生徒が在籍しているのを知っているのは、それぞれの部長のみだったりする。
まぁ漫画研究部も写真部も、趣味の延長でバイト感覚でしている程度だ。部活自体に思い入れがあるわけではない。
さて、用事も終わったし帰ろう。
カメラを片付け出した時、繋げっぱなしだったTSPから、俺へ向けた声が発せられた。
『あ、そうや蒼葉』
「何だよ?」
それは、この後の運命を変える、衝撃的な一言だった。
『そいつが来るん、蒼葉とおんなじ2-Aやってさ』
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