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 ──王道転入生が、来る。



 驚きのあまり、カメラを取り落としそうになった。危ねぇ、俺の商売道具が。

 ここは3階。もしも落としてしまったなら、目も当てられないことになってしまう。



『おーい! 蒼葉〜!? 藤咲蒼葉くんやーい??』



 近くの机に置いたTSPから俺を呼ぶ声が聞こえる。しかし今は、カメラの安全を確保するのが先決だ。

 手に持っていたカメラを慎重に三脚に取り付ける。

 そして、落ち着くために大きく深呼吸をした。


 ふぅ……。


 TSPを置いた机と対になる椅子に座る。

 俺からの反応がないにもかかわらず、途切れることなく喋り続ける電話の相手。すごいな。


 耳に当てるのはうるさいので、机に置いたまま、ひと言呟いた。



「……なぁ。それ、マジ…?」

『あ! やっと帰ってきた、おかえり!! 当たり前やん!! ほんまやほんま、マジもんや!! ついに来るんやで!!! 黒マリモがっ!!!!』



 電話の相手──相良さがら陽希はるきは俺の腐男子仲間、つまり腐レンドだ。小4まで関西で暮らしていたためか、かなりコテコテの関西弁を使う。

 性格も関西人のイメージ通り明るく気さくで、楽しいことが大好きなお祭り男。

 学園では【残念王子】の愛称で親しまれている。何となく分かるかもしれないが、何が残念なのかというのは、とりあえず今は置いておく。


 直近の問題は、王道転入生が来るというこの情報だ。



「…どこ情報だ?」

『陽希様の情報網、舐めたらあかんで! ちなみに、まだオフレコや』

「別に舐めてねぇけど。そんなオフレコ情報、一体どこから仕入れてんだ…?」

『それは企業ヒミツやでっ』



 楽しそうに、ウインクでもしながら言ってそうな最後のセリフ。聞きやすいイケボなこともあり、これだけ聞けば本当に王子様のよう。

 しかしまったく。つくづく謎なやつだ。まだオフレコ情報だって言うくせに、本当にどうやって調べているんだ?

 だが、今まで陽希が持ってきた情報が、嘘やデマだったことは一度もない。


 来る。


 王道転入生は、必ずこの学園に来る。

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