世界を敵に回しても君が好き
弱腰ペンギン
世界を敵に回しても君が好き
「好きだ、付き合ってくれ!」
俺は今、一世一代の大勝負に出ている。
「え、えぇ?」
相手は女幹部。えぇ、悪の、女幹部だ。宿敵だよ。
「戸惑っているのもわかる。俺と君とは敵同士だ。何度も命のやり取りをしてもいる。でも、どうしようもなく君が好きなことに気づいてしまったんだ!」
地球を滅ぼしてしまおうと企む悪の組織の、その幹部に惚れてしまった。
毎回きわどい衣装で出てきてるから、そのせいかなとも思った。
最初は、なんでエッジの効いたハイレグなんだろうかとか、胸元をそんなに開けてこぼれないのかとか心配になった。
そのうち、戦闘に巻き込まれそうになっていた子供を助けたり、犬を捨てた飼い主をこっぴどく打ち据えていたり。その犬を散歩させてるところに出くわしたり。そうしているうちに惹かれて行ってしまったのだ。
「こ、困りますぅー!」
「困ってる君もかわいい!」
高飛車な性格を演じていたのはわかってる。プライベートではジャージにメガネだし。
温泉で遭遇したときは長い黒髪をタオルでまとめてて、普段は隠れているうなじがセクシーだなんて思ってた。
「わ、私は敵ですよ!」
「だからってなんだ。それは、愛の障害にはならない!」
スタイルを維持するためにジムに通っているのも知っている。どうしたら女幹部っぽくなれるのか勉強しているのも知っている。
「さぁ、俺の手を取ってくれ!」
彼女の前に跪き、手を伸ばす。
「俺と、結婚してくれ」
「そんなこと言われても……」
「大丈夫。君の覇道を阻む敵は俺が滅ぼした。チームだったからな、一人ずつ後ろから襲撃して倒したよ。スタッフも全員だ。もちろん、苦しまずにいけたと思うよ」
ブルーもイエローもグリーンもあっさりと倒せた。警戒していたレッドは一撃とはいかなかったけど、最初に致命傷を与えられたから、すぐに倒せた。
「これから君の本拠地に乗り込んで、敵の幹部をやろう。そしたら、君がトップさ!」
「でも、私一人で組織を運営なんて出来ないわよ?」
「大丈夫。俺が支えるさ!」
「そうじゃなくて、仕事量が多すぎるの。基地を動かすにも人員がいる。上層部を排除したところで、荒れるだけでどうにもならないわ。せめて基地を守り、維持することが出来る人員がいないと」
それは問題だな。うちのスタッフは全員処理してしまったし、残りの敵幹部を倒してしまうと、あとは末端の人員しか残らない。中枢機能が一時的にマヒしてしまうな。
「必要なのは、新体制に移行できるだけの人員と、そのためのつなぎ、だね!」
「えぇ……」
「じゃあ、俺の能力で一時的に操ろう。能力をきつめにかけると廃人になっちゃうけど、なぁに。どうせ使い捨て出来るからな!」
「そうね!」
「改めて……。俺の手を取ってくれないか?」
「はい、よろこんで!」
こうして、俺は終生のパートナーを得た。もうかわいくてかわいくて仕方がない。
なので、どれだけかわいいかを示すために、まず敵の本拠地を破壊して見せた。
幹部を何人か能力で操り、基地の運営が出来るだけの人員を残しておき、本拠地を一気に襲撃したのだ。
なんかボスとかいう奴がいたけど、フグ毒にあたってくたばった。楽勝だった。
あまりにあっけなかったので爆破して帰ってきたら喜んでくれた。
もちろん使えそうなものは回収したぞ!
そして次に地球を俺たちの家にするべく、侵攻を開始した。
といっても表立ってやると一気に滅ぼされかねない。なので、一週間ほどかけて世界中を飛び回り、各国の首脳だけを操ることに成功した。
戦闘員でもないタダのおっさんたちだから、楽勝だった。
そして。
「いよいよ、新しい基地の運営開始ね!」
「あぁ!」
一か月後。彼女と、俺の城が出来上がった。
と言ってもリフォームしただけだし、基地の内部はほとんど流用だけど。
ただ、戦闘で壊れたモニター類を取り替えたりとかはしている。この指令室も、ゴツイ骸骨とか尖った椅子とか無駄な奴は処分した。
そうそう、旧幹部はすでに処分済みだ。組織の人員は刷新完了している。
後は、コントロール下にある首脳陣に、俺たちの支持をさせれば——。
「大変です!」
指令室にアラートが響き渡った。
「各国のミサイルが、一斉に発射されました。目標は——」
「聞かなくてもわかる。ここだろ」
焦る観測員を落ち着かせると。
「迎撃に、出るの?」
「あぁ」
彼女と、少しの間お別れとなるな。
「さみしいよ」
「すぐに終わるんでしょ?」
「あぁ」
彼女からの信頼が嬉しい。
「行ってくるよ!」
指令室を飛び出し、迎撃の準備に向かう。
それにしても、思ったより首脳陣の洗脳が解けるのが早かったな。
まぁ、多少予定が早まっただけだ。問題はない。
基地の火器管制室にたどり着くと、そこには。
「なんの真似だ?」
下級戦闘員が俺に対して銃を向けていた。
「少しの間、おとなしくしていただきます」
はぁ、なめられたものだな。
「俺をそんな銃で拘束うぐっ」
撃たれた……だと!?
「っふ。多少の訓練ぐはぁ! おいやめろ、一斉に撃つんじゃげふぅ」
銃弾の雨が、俺を襲っている。ここ、火器管制室だぞ? 壊滅したらミサイルが……まさか!?
「う、裏切ったのか! 彼女が!」
戦闘員どもは何も答えない。それもそうか。俺は彼女の敵。そいつに情報を渡すわけがない。そういう優秀な奴を雇ったんだからな。
だが!
「この程度、どうということはないわぁ!」
彼女への愛に比べれば、この程度、障害にもならないぜ!
「ただいま!」
「おかえりなさい」
指令室に戻ると、彼女が出迎えてくれた。アラートも止んでいる。やはり偽のアラートだったか。
「ずいぶんと早かったわね。刺客、迎撃したのね」
「あぁ、手こずったよ!」
今は管制室で全員ノビてるがな!
「それで、どうするの?」
「どうもしないさ! 引き続き、世界を手に入れるために頑張ろうじゃないか!」
指令室の椅子に座る彼女に、あの時と同じように手を差し伸べる。
「でも、私、また同じようなことするわよ?」
「構わないさ。それが君の愛なんだろう?」
「……不安だったの。刺客送ったら、きっと嫌われるって。あなたは猪突猛進だから、きっと危険よと注意しても行ってしまう。っていうか行ってた。だから、考えてもらうためにはこうするしかなかったの!」
「知っていたさ。なにせ刺客の銃が電気銃だったからね。殺傷能力が低すぎるよ」
「あぁ、あなた!」
「おぉ、おまえ!」
俺は彼女と熱い抱擁を交わした。しかし、少しだけ罪悪感が残る。彼女を一瞬でも疑ってしまったから。
「俺も、言わなきゃいけないことがあるんだ」
「なぁに?」
「少しだけ、疑ってしまったんだ。裏切られたのかと。許してくれ!」
「いいのよ!」
再び熱い抱擁を交わす。よかった。俺は今、幸せだ!
などと、俺たち下級戦闘員の目の前で、指令ップルが抱擁を交わしている。
「転職しよう」
やってられるか。
世界を敵に回しても君が好き 弱腰ペンギン @kuwentorow
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