第3話 サイラスとリィカとリィカ
IDAスクール。
本来なら若者が勉学と研究に勤しむはずの施設も戦場と化していた。
「ここにも攻め込まれてるのね」
「別の世界といっても恐ろしいな。おっと!」
アルドは上空から襲い掛かる急襲型ドロ-ンを躱し、魔剣で両断した。
学び舎のあちこちから煙が上がり、2人が目指している地点にも同じような煙と戦闘音が発生している。
「サイラスは無事かな?」
「音が聞こえるってことはまだ負けてないわ。あっ!」
エイミは中庭に横たわるハンターを見た。
どうみても死んでいるが、彼女が心を痛めたのは見知った顔だったせいもある。
彼女の顔に悲痛と憎しみの影が差した。
「酷いもんだな」
「私が小さい時も似たような状況になったわ」
「そうなのか?」
「ええ。私の世界だと一時的に劣勢になった後で盛り返したんだけど、この世界はかなりまずい状況みたいね」
「手を貸してやりたいのは山々だけど……」
「仕方ないわよ。私たちが手を出したら本来助かる人が助からなくなるかもしれないんだから」
この世界にはこの世界の歴史がある。部外者が我が物顔で情勢を塗り変えてしまえば彼らが戦ってきた敵と同じになってしまう。また、劣勢を覆したとしても人類を利するとは限らない。彼らが介入することで本来なら活躍するはずだった人物や作戦が変更され、さらに大勢の人間が死ぬ可能性もある。それはすでに起きているかもしれなかった。
「本当なら次元戦艦のことはセバスちゃんにも話しちゃいけなかったんだろうな」
「ええ。あの子、好奇心の塊だもの」
エイミはシャワー中に情報端末機を覗き見ていたことを思い出す。
さらにその直後に起きたことが頭の中に蘇り、恥ずかしさで顔が熱くなった。襲ってくる合成兵士を破壊することで八つ当たりにも似た感情の発散を彼女は行った。
「そろそろ着くわよ!」
「見えた!あれは……サイラスだ!」
彼らの仲間、カエルの姿をした古代の剣士は合成兵士と剣で渡り合っていた。
金属の装甲で覆われた敵を切り裂く剣術は見事なもので周囲には両断された兵士がいくつもころがっている。しかし敵の数は多く、サイラスのカエル顔には疲労の色が濃かった。
「サイラス!」
「加勢するわよ!」
「むむ?おお、アルド殿にエイミ殿!お二人がいれば千人力でござる!」
2人が来たことでサイラスの疲労が一気に回復したように見えた。
実際には肉体の変化は何もないが精神がもたらす影響は強い。肩で息をしていた彼は生き生きと剣を振るい始め、そこにアルドの魔剣とエイミの拳が加わって形勢はすぐに逆転した。
その場にいたハンターと武装した学生たちは兵器も持たずに殺人機械を破壊してゆく彼らに圧倒され、最後の敵を倒した時には敬意の眼差しを送っていた。
「これで最後か?」
「よく来てくれた!今のところはそれで全部だ!」
そう答えたのは通信でセバスに応援要請した男だ。
「セバスちゃんの説明がよくわからなかったが援軍のハンターだよな?」
「え、ああ……」
「そんなところね」
2人はハンターたちに曖昧な返事をし、サイラスと話し合うことにした。
ここは彼らが存在する世界とは異なる世界だと聞かされた彼はううむと唸り出した。
「エイミ殿が存在しない世界……。よくわからんでござるなあ」
「でしょうね」
「だよな」
彼も2人と同じ反応だった。
そもそもサイラスもこの時代に存在しない過去の人間なのだから今更エイミが存在しないと言われてぴんと来ないのも無理はない。
「歴史が改変されたのではござらんのか?」
「それが違うらしい」
「よくわからないんだけど、今はリィカと合流して合成鬼竜を探しましょう。あいつがいないと元の世界に帰れないのよ。リィカはどこにいるのかしら?」
「拙者は見ていないでござる」
「まあ、会ってたら一緒に行動してるよな」
アルドたちは仲間の汎用アンドロイドがどこにいるのか知りたかったが、手がかりもないのでセバスの通信を待っているとハンターたちが彼らのところへお礼を言いに集まってきた。
「助かったよ!」
「あんたたち、強いなあ!」
「そっちの人はハンターだろ?会ったことないが」
「エルジオンの外から来たのか?」
「ええ、まあ……遠い所から来たのは確かね……」
エイミは自分の同僚にそっくりな人々を見て戸惑いながら答えた。
アルドやサイラスはどうなのかといえばこの時代には奇抜な服装やカエルの姿がハードルとなっているのかあまりハンターたちが近づいてこない。もちろんエイミが持て囃されるのは他の理由もある。
「エイミはこっちでも人気者だな」
「拙者たちはこの時代では浮いてるでござるからな。エイミ殿は強さに加えて容姿も良いらしいでござるし」
「容姿?」
アルドはなんのことだという顔をし、今度はサイラスが同じ顔を返した。
「拙者は姿形に対して特に興味はござらんが、エイミ殿は殿方から見れば美人なのでござろう?」
「え?普通だと思うけど」
「むむ?そうでござるか?アルド殿の周りには美人が多いとアルド殿の妹君から聞いたでござるよ」
「フィーネから?」
「うむ。ラディアス殿やディアドラ殿、アルテナ殿やアザミ殿などなど」
彼はアルドに近しい女性たちの名を彼は挙げるがアルドにとって格別に思う所はなかった。いつも水中にいる魚は水に気づいていないのかもしれない。
「よくわからないなあ」
「アルド殿、拙者はこの姿のままでよいし、女人と縁がなくても困らないでござるが……」
サイラスの目が少し心配そうに彼を見た。
「嫁を貰うつもりなら褒めるべき所を褒めないと苦労するそうでござる」
「よ、よくわからないけど、参考にしておくよ……」
サイラスにどんな体験があったのか気になるアルドだが、これ以上踏み込むのはなんとなく躊躇われたので別の事を聞いた。
「じゃあ、エイミにも綺麗って言った方がいいのか?」
「うーむ。急にそんな事を言うとわざとらしいでござるからなあ」
「ちょっと!さっきから全部聞こえてるわよ!」
「うわっ!」
「口は災いの元でござったな……」
エイミにジト目で睨まれた彼らはそれ以上話をしなくなった。
その時、セバスから通信が入った。
「どうしたの?」
「あなたたちの探してるリィカが見つかったわよー」
「ええ!?どこにいるの!?」
「今、2人ともそっちへ向かわせたわ」
「2人……ってどうこと?」
「すぐにわかるわ」
エイミの質問に彼女は答えなかった。
3人が顔を見合わせて程なくすると建物を跳び越えてリィカが現れた。2人のリィカだった。
「え?え?ど、どういうことだ?」
「リィカ、何があったの?」
「姉妹が見つかったでござるか?」
「ある意味デ、正解デスネ」
「同意シマス」
二人のリィカは言った。
そして片方が手を上げる。
「ワタシは皆さんの仲間のリィカ」
次にもう片方のいリィカが手を上げた。
「ワタシも汎用アンドロイドのリィカと申シマス。コノ世界のリィカというコトデス」
「ええ!?つまり……別の世界の同じ存在ってことなの!?」
「ハイ。エイミさんと異ナリ、私はこの世界に存在するヨウデス」
「ごめん、どっちが俺たちの知ってるリィカだっけ?」
アルドがそう言うと右側のリィカが手を上げた。
「ハイ。アチラのリィカさんはこの世界の住人でアリ、エイミさんやアルドさんの情報を一切持ってイマセン」
「存在しないのデスカラ当然デスネ。ソチラのリィカさんから時空移動や未来改変の事情を伺いマシタガ、驚くベキ体験デス」
「外見だけじゃ全然区別できないな……。どこか見分ける所はないか?」
「アリマセン」
「同一の存在デスカラ」
「でも、わかりにくいよ。何かないか?ほくろとか……」
「だからないって言ってるでしょ」
必死に見比べているアルドの頭をエイミがこつんと叩いた。
これで仲間とは合流できたが肝心の合成鬼竜の行方はどうするのか。
それをアルドたちが口にした途端、2人のリィカはすぐに答えを提示した。
「合成鬼竜さんと思われる物体が工業都市廃墟で発見サレマシタ」
「正確ニハ今マデ正体不明デシタガ、皆サンの仲間のリィカさんの情報提供ニヨリ合成鬼竜という存在だと判明シマシタ」
2人のリィカは廃墟を上からとらえた映像をホログラムで映し出した。そこには瓦礫に体が半分埋もれた合成鬼竜がいた。照明やエネルギー流路が機能している様子はなく、生きているかも不明だ。
「こんな所にいたのか!」
「何かと戦ったの!?」
「不明デス」
「すぐに助けに行くでござるよ!」
アルドたちがそう言うとリィカたちが同時に「お待ちクダサイ」と言った。
「この区域は合成兵士が占拠してイマス」
「皆サンだけで潜入スルノハお勧めシマセン」
「やっぱりどっちが仲間のリィカかわからなくなるなあ……」
「そこは別にいいでしょ。でも、私たちは合成鬼竜をどうしても助けなきゃいけないの。何か方法はない?」
「アリマス」
「ワタシたちの作戦に参加シテクダサイ」
それからリィカたちはエルジオンが進めている合成兵士への大規模反攻作戦を説明し始めた。
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