幕間

第44話 湯船に浸かって

 イルゼがふにゃ〜と頬を緩ませて湯船の中に浸かっていた。その近くではリリスが、二つの果実をぷかぷかと浮かばせて背泳ぎをしている。


 そんな美少女二人に洗い場から不埒な視線を送る者がいた。

 ミラである。


「可愛い。可愛いです! ウチの天使様はなんて可愛いいのでしょうか!?」


「あーもう。お二人はあんたのじゃないから。いつかイルゼちゃんに斬られるわよ」


「天使様に斬られるのなら本望です!!」


「うわー。だめだこりゃ」


 普段は纏めている薄茶色の髪をほどき、腰の長さまで伸ばしたロゼは、同僚のミラから見ても整った顔立ちをしていた。リリスには胸は劣るものの、その双丘は確かな大きさを誇っている。


「ねえ、ロゼ。毎度言わしてもらうけど写真集を出す気はない? たぶんオーナーも喜ぶと思うわよ」


「私は嫌って言ってるでしょ。目立つのは嫌いなの。あんたこそどうなのよ」


「私? 私は天使様を見ていられれば、それでーぐへへ」


 再び、イルゼとリリスの方にだらりとよだれを垂らしながら目を向けるミラを見て、ロゼは「だめだなこれ」とため息をつく。


「あ、そうだ! 天使様達に看板娘になって貰えば……」


「他人を巻き込むのはやめなさい。イルゼちゃん達は明日にはこの街から出ていくんだから。そうよねイルゼちゃん?」


 会話がイルゼに飛び火し、「ふわぁ?」とイルゼが眠そうに反応する。


「うにゅ……そう、明日には出て行くー」


 イルゼは程よい温度に、うとうとと眠りこけていた。


「イルゼちゃん。そろそろ上がったらどうかしら? のぼせちゃうわよ」


「ん。そうする」


 勢いよく立ち上がるイルゼ。彼女の白い裸体がよく見え、ミラが「ほぉぉー!」と、はしたない声を上げ、そこをすかさず、ロゼがミラを目隠しする。


「イルゼちゃん。タオルで隠して隠して。この子が見ちゃうから」


「ん」


 イルゼは言われた通りタオルで前を隠す。


「あれリリスはどこ?」


 イルゼが周りを見渡すが、リリスの姿がどこにも見当たらない。


 先に出てしまったのかと、湯船から出ようとすると何者かに足を掴まれ、イルゼは大きな水飛沫を上げて転倒した。


「わぷっ! あぷっ、え、リリス!?」


 水底ではリリスがいつの間にか沈んでおり、ぶくぶくと泡を吐いていた。


 急いでリリスを引き上げ、床に寝転がせると大事な所が色々と見えてしまう。


「おおー! 天使様のあ……ふぐふぐふぐ」


「あんたは少し黙ってなさい。イルゼちゃん。リリスちゃんのお腹を押して飲み込んじゃった水を出してあげて」


「ん」


 イルゼは言われた通り、リリスのお腹に手を添えて押す。


 するとリリスは口からピューと水を噴き上げた。


「ぐふっ。死ぬかと思ったぞ」


 げほげほと咳き込むリリス。もう大丈夫だと立ち上がろうとした所で、ミラがロゼの拘束を振りほどく。


「天使様まだです! 人工呼吸を……合法的にキスしてもらうのです!!」


「だからあんたは何言ってるの!」


「うああ! ロゼ早まら……」


 すぱこーん! とロゼに突き飛ばされ、ミラは大きな音を立てて湯船の中に沈む。


「はぁはぁ……リリスさんは」


 ロゼが振り返ると、リリスが一芝居打っている所だった。


「なんじゃ、急に体が重く……」


 リリスが肢体をだらしなく広げ、ぐったりとする。気持ち頬も赤い。


 そして、ふぅふぅと言いながら声を途切れ途切れに出す。


「イル……ゼ……余に、人工呼吸を……しておくれ」


「リリス……」


 イルゼがリリスの唇に顔を近付ける。イルゼの顔も湯気のせいか、ほんのり上気しているように見えた。


(もう、どうするのよこれー!)



――一方脱衣所では。


「あれなんだか中は騒がしいですね。どうしたんでしょうか」


 脱衣所では三人の女性が衣服を脱いでいた。


 栗色髪の女性が司書の制服を脱ぎ下着姿になると、男も女も魅了する大きな果実がサラの前に現れた。


「うわー! 分かってはいましたけれど、リーゼさんって胸めっちゃ大きいんですね! 私もそれくらい欲しいです」


 感嘆の声を上げ、サラもそそくさとギルドの制服を脱ぐ。


「サラちゃんそんな事はないですよ。あっても肩が凝るだけですし、それにサラちゃんも十分大きいじゃないですか」


 きゃいきゃいと胸の話で盛り上がる二人。それを冷めた目で見つめる女性がいた。


「ねえ、それ以上話続けるなら私帰ってもいい?」


「エルサ、三年前から成長がないからって妬むのはよくないよ! 女の子はまだまだ成長期なんだから!! それに私がいないとエルサ帰れないもん」


 自分の胸に手を当てるエルサ。彼女は三年前から不思議と胸の発育が止まってしまっていた。


 その間にも小さかったサラの胸はエルサを胸を小馬鹿にする様にぐんぐんと成長し、今では受付嬢の中で一番胸の大きい嬢となっていた。


 魔導人形のエルナは、まだ手続きが済んでいない為、家でお留守番だ。そしてエルナの方が、オリジナルであるエルサよりも胸が少し大きかった。彼女の想いが影響したのかもしれない。


「まあまあ、エルサちゃん大丈夫ですよ。女の子は胸じゃありませんから、真心が大事なんですよ。サラちゃんもあんまり虐めていると嫌われちゃいますよ」


「そうだね。エルサごめんね。代わりに私が胸を大きくしてあげる」


「え、いいわよ。そんな事頼んでな……やめ、やめてきゃぁぁぁぁああ」


 サラがエルサの手のひらに収まるサイズの双丘を鷲掴み、揉み揉みと揉む。


「100回揉むと大きくなるらしいよ」


 サラは多少の下心がありながらも、親切心で揉んでいく。


「やめてーやめてーおかしくなっちゃうからー!」


 エルサは床に膝をつき、「ひいひい」と叫ぶ。サラは構わず揉んでいく。


 脱衣所でいい大人の女性が下着姿のままイチャついてる事に、リーゼは「もうその辺にしといたら」と止める。


 やっとサラから解放されたエルサは、「サラなんて嫌いっ!」と言ってそっぽを向いてしまう。


「ごめんごめん。やりすぎちゃった……わっ、本気で泣いてる。ごめんって」


 リーゼはそれじゃあお先にと言って、タオルで前を隠しながら扉を開けると、湯気が一気にもあっと立ち込める。


「なんだが妙に熱いですね」


 リーゼは湯気の晴れたり先を目を凝らして見てみると、イルゼがリリスに口づけをしようとしている所だった。ロゼが「あ」と声を上げる。


「ひゃい!? イルゼさんとリリスさん!? 二人がお先にいらっしゃたのですね。ごごご、ごめんなさい。私はお邪魔でしたね。少しサウナに行ってきますー」


 そう言って、リーゼはサウナ室へと行ってしまった。


「ん。リーゼどうしたんだろう……まあいいや、リリス」


 イルゼがリリスに顔を近づけ……リリスはそっと目を閉じた。


 そして……。



「そういう嘘は良くない」


 イルゼはめっとリリスを叱った。リリスは「ほえ?」と呆気に取られる。


「イルゼ……余の期待を返せーー!!」


「え、リリス何怒ってるの!?」


 ぬあー!! と裸体のまま抱きつき、じゃれ合う二人。それを見て鼻血を流すミラ。サウナで何やら黙祷するリーゼに。脱衣所で下着姿のまま乱れた下着姿のエルサを宥めるサラ。


 どこを見ても混沌としていた。


「あはは…………全部見なかった事にしよう」


 もうこれは駄目だと、ロゼは一人帰路に就いた。

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