第42話 コメットさん

 冒険者ギルドで、明日からの護衛依頼の手続きを済ませた私たちは、一階の奥にある買取窓口に向かいます。


 Cランクに推薦してくれた、ガイ部長にお礼を言うためです。


 買取窓口に着くと、いました。おやっさんと呼ばれているガイ部長が。

 私は近付いていき話しかけます。


「あの、おかげでCランクに昇格できました。ありがとうございます」

「おう、嬢ちゃん。Cランクになったのか。そりゃあすげーな。おめでとう!」

「これもガイ部長が推薦してくださったおかげです。本当にありがとうございました」

「そうか、ガイ部長が推薦したのか。まあ、嬢ちゃんの実力なら当然か」


「あれ、失礼ですが、ガイ部長ですよね?」

「いや、俺はハドルトだ。ガイ部長なら彼女だ」

 ハドルトさんが指差す先には、私たちが最初に薬草を持って来た時に対応してくれ、今日も薬草を買い取ってくれた、窓口のお姉さんがこちらに向けて手を振っていました。


 やらかしてしまいました! よく確かめもせずに、思い込みで決めつけていました――。


「すみません。間違いました!」

「いいって、いいって」

 私は、ハドルトさんに何度も頭を下げます。

 ハドルトさんは、笑って許してくださいました。


 そして、私は、改めて、ガイ部長に近付くと頭を下げました。

「すみませんでした! ガイ部長! そして、Cランクに推薦していただきありがとうございました」

「まあ、部長に見られないことはよくあるから、気にしないで、ライラ・ガイよ。よろしくね」


 そうか。ガイは名字でしたか。それで、あの若さで部長なのですね。

 この国では身分が高い者しか名字がありません。


「あ。余りかしこまらないでね。ガイ部長でなく、ライラと呼んでくれていいのよ」


「はい、それではライラさん。推薦していただけるのはありがたいのですが、なぜ、いきなりCランクなのですか?」


「それは、シルバーウルフやワイバーンを、二人で狩ってくるようなパーティを低ランクにして置けないでしょ。

 どうせ二月もしないうちにCランクに昇格するのだから、サッサと昇格させて、それに見合った仕事をしてもらう方がいいに決まっているわ」

「そうですか。わかりました。期待に添えるように頑張りますね」


「そうよ。頑張って、明日からも貴重な薬草を持って来てね」

「あー。すみません。明日からはしばらく護衛依頼で、王都を離れます」


「えー! さっきCランクに昇格して、もう護衛依頼を受けたの。

 それじゃあ、採取は? 貴重な薬草は? やっぱりDランクに留めておくべきだったかしら――」


「来週にはまた、薬草を持って来ますよ」

「来週ね。絶対よ! 約束したからね!!」


 ライラさんに念を押されて、約束をさせられてから、私たちはギルドを出ました。

 しかし、ライラさんは、なぜあんなに薬草にこだわっていたんでしょう。


 ギルドを出て、白銀亭に着くと、今度はミーヤさんが泣きついて来ました。


「ミハルさん、大変です! 助けてください。コメットさんが――、コメットさんが動かないんです!!」

「どうしたの。コメットさんって誰? どこにいるの?」

「コメットさんは、これです!」


 ミーヤさんはロボット掃除機を突き出しました。


 どうやら、ミーヤさんはロボット掃除機に名前を付けたようです。

 確かに、ロボット掃除機では呼びにくいですからね。名前を付けるのはいいでしょう。

 コメット、彗星は、ホウキ星ともいいますしね。掃除機に付ける名前としてはいいでしょう。

 だけど、コメットさんは、大丈夫でしょうか? 流石にさん付けはまずいのではないでしょうか――。

 まあ、ルンちゃんやバーさんよりはいいかもしれませんが――。


「ミーヤさん、名前を付けるのはいいけど、流石にさん付けで呼ぶのは、まずいのではないかしら――」

「何かまずいのですか。コメットいち、コメットに、コメットさん、なのですが?」

「ああ、一二三の番号なのね――。それなら構わないのよ」

 人の名前でなければ全然大丈夫です。


「そんなことより、コメットさんが動かなくなっちゃたんです」

「これは充電切れだな」

 マーサルは鑑定で充電切れがわかります。


「充電切れ?」

「私が充電すれば、また動くようになるわ」


「よかったです。このまま動かなくなったら、私、どうしようかと思いました」

「そんなに心配してくれたのね」


「そうですよ。コメットさんが動かなかったら、その分、私が掃除しなければならないじゃないですか!」

 あれ、何か、思っていたのと答えが違います。もっと、こう、愛着が湧いて心配したのかと思ったのですが。でも、それが普通ですかね。機械を人間扱いしないですよね。


「それじゃあ、貸してくれる。充電するから。他の二台も充電しておくからね」


「良かったですね。コメットさん。これで、また奴隷のように、ビシバシ働いてもらいますよ!」


 あれ? あれあれ?


 そういえば、護衛依頼中の充電はどうしましょう――。


 その後、ミーヤさんに護衛依頼で、明日から五日間王都を離れると伝えたら、コメットさんを抱えて、泣き崩れてしまいました。


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