第36話 休日 買い物

 昨日は魔獣を狩ってかなり稼いだので、今日は狩や採取を休みにして、街に来ています。

 工房と武器屋で用事を済ませ、今はぶらぶらお店を見て回っています。


「この辺は古道具さんが多いのかな?」

「そうみたいだな。しかし、日本では見かけない不思議な物ばかりだな」

「そうかしら? そう言われれば、夢の中では見かけなかった気もするけど。国が違うとそんなに違うものかしらね――」


「国の違いというか、魔法があるかないかの違いが大きいと思うよ」

「そうかしら? 夢の中には魔法のような機械がいっぱいあったわよ」

「魔法のようでも、それらは科学によるものだから」

「私には違いがよく理解できないけど――。まあ、私は、便利に使えれば中身なんか何でもいいのだけどね。あれ、これは?」


 店先の物を見ていると、こちらの国では見たことがない物が目に留まりました。


「そこのお嬢さん、それに目を留めるとはお目が高いね。これはダンジョンで見つかったお宝だ! 貴重な品だけど、今ならお安くしておくよ!」

 私がそれに目を留めたのを見て、店主が出てきて売り込みをかけてきました。


「ダンジョンから出た物なのですか? これ使えるの?」

「鑑定してみたところ、充電が切れてるようだけど?」


 マーサルの鑑定はそんなことまでわかるのですか! 便利ですね。


「これは、このようにこの台に乗せて、飾って置く物なんですよ。このガラス面が黒光して綺麗でしょ。触れると何か知恵がつきそうな気がしますよね! ね!」


「えー。充電がないんじゃ、役に立たないじゃない! それこそ、置物なのね!」


 役に立たない物を買う気はないのだが、店長は諦めずに売り込んできます。

「しかも、これ、落としても割れないんですよ。凄いでしょ!」

「え、そうなの? それは凄いわね!」


「これ、防水、防塵は勿論、象が踏んでも壊れない、工事現場なんかで利用されてたやつだね」

「へー。そんなのあるんだ」


「あのー。随分とこれについて詳しそうですが、これが何かご存知で?」

 店長が尋ねてきました。


「もしかして、これが何か知らないで売ってたの!」

「いえ、ダンジョンのお宝だというのは本当ですよ。

 ただ、研究所で調査しても使い道がわからず、廃棄される物を引き取ったものですから……」


「スマホという情報端末なんだけど、充電できないことには使えないからね――」

「スマホというのですか? 魔力を込めてみても変化がありませんでしたから、壊れているのかと思ってましたが、壊れているわけではないのですね?」


「ちょっと! 壊れている物を売りつけようとしたの!!」

「え、いや、それは……」

 店長は気まずそうに頭をかきます。


「もしかして、ダンジョンって、ガラクタ置き場のこと?」

「なんだい、ガラクタ置き場って?」


「王都の近くにあるダンジョンの通称でね。そのダンジョンからはガラクタしか出てこないの」


「でも、これ、明らかに日本の物だよね? 充電台もあるし、充電できれば使えるかもしれないぞ」

「この国に電気は通ってないのよ。充電できるわけがないでしょ!」

「ミハルならできるかもしれないだろ。試しに買っていってみようよ」


「でもこれ、一台だけじゃ意味ないし――」

「それなら在庫が三十箱あります!」


「箱入りなの。新品?」

「箱には傷や汚れがありますが、中身は新品ですよ!」


「不良在庫か――」

「……。実はそうなんです。ですから、三十箱、まとめて買っていただけませんか」


 マーサルが言った「不良在庫か」は、元の日本での扱いを言ったのであって、この店のことを言ったわけではなかったようだが、店長は勘違いしたようです。


「買っていただけるなら、こちらの三箱もお付けします!」


 それは、やはり夢の中で見たことのある、平べったい、円筒形をしたあれでした。


「これも、ガラクタ置き場の物ね。でも、これが使えたら役立つわね――」

 ミーヤさんにいいお土産ができました。まあ、充電できればの話ですが。


 結局、全てを買い取って、私は「ルンルン」気分で白銀亭に帰ったのでした。


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