第34話 休日 工房
昨日は初めて森に入って魔獣を狩ったのですが、最初は苦戦したものの、レベルアップしてからは、危なげなく、順調に狩を行うことができました。
そのため、稼ぎは金貨十枚近くなりました!
冤罪で押し付けられた借金が白金貨十枚あるものの、この調子でいけばなんとかなりそうです。
ここまで、調子良く稼いでいるので、今日は狩や採取をお休みにして、二人で買い物をして周ることにしました。
この際ですから、マーサル用の剣も良い物にしたいですし、王都の街もゆっくり見てみたいところです。
でも、その前に、工房に寄って、クーラーとかの進捗状況を確認します。
「こんにちは、モーリスさん」
「こんにちは」
「いらっしゃい。よくきてくれたね。まあ、座って」
私たちが訪ねると、モーリスさんが歓待してくれました。
「クーラーとかの進捗状況を確認しにきたのですが、どうですか?」
「順調と言いたいとこだけど、少し頭を悩ませていることがあるわ――」
「何か問題がありましたか?」
「問題というほどではないけど、先ずは試作機を見てくれるかい」
モーリスさんはテーブルの上に乗るほどの試作機を持ってきました。
「ちゃんと稼働はしているのだけどね。思ったより冷えていなくてね。圧縮して高温になった空気を冷やすのに、もっと効率的な方法はないかと思って――」
「今は、空気の通るパイプに風を当てているだけですよね。なら、そのパイプに羽根のようなものを何枚も付ければ効率良く冷えますよ」
「成る程……。知っているなら最初から教えておいてくれよ」
「いえ、それくらいは知っているかと思いまして。早く冷まそうと思ったら風の当たる面積を増やしますよね?」
マーサルが当然のことのように話します。
「そう言われればそうだね」
「それなら一層のこと、水をかけたらどう。
私は水魔法が使えないから、風で冷やしたけど、水が使えるならその方が早いわよね」
私は、思いついたことを提案します。
「確かに、それもそうだな――」
「空冷式でなく、水冷式か!」
マーサルも感心してくれましたが、どうやら、マーサルの国にはその方法があるようですね。
「それに、使った水がお湯になるだろうから、給湯や暖房に使えるんじゃないかしら?」
「それはいいわね!」
「一石二鳥だな!」
結局、水冷式にして、給湯と暖房にも使えるようにすることになりました。
「ところで、今更なんだが」
「どうしたのマーサル?」
話が一段落してお茶をいただいていたら、マーサルが何か言いたいようです。
「その、単に物の温度を上げたり、下げたりする魔法はないのか?」
「そんなこと可能なのか? 温度を上げるには火を生み出し、下げるには風を当てるか水をかける。もっと下げる場合は、氷を生み出すのが今までの常識だ」
「そうよ。風魔法で温度を上げたり、氷ができるほど温度を下げるだけで、常識外れなのに、今度は何を言い出したわけ」
「実は、温度は簡単にいうと分子の運動のことなんだ。だから、魔法で分子の運動を活発にしたり、抑えたりできれば、その物の温度を上げたり下げたりできるかと思ったんだが――」
「分子って何かしら?」
モーリスさんは分子を知らないようです。
私は、夢の中の「学園」で習いました。
「分子ってあれでしょ。物の素になっている粒の、原子とか陽子とか遺伝子とかいう……」
「遺伝子はちょっと違うんだけど――」
「そうだっけ? まあ、兎に角、そんな小さな物動かすなんて、流石に魔力操作SSSあっても難しいと思うわ――」
「よくわからないけど、目に見えないほどの小さい物ってことよね。確かに難しいと思うわよ――」
「そうか。でも、動かすものは小さいから凄く軽いぞ。ミハルならできるんじゃないか?」
「無理だと思うけど、マーサルがそこまで言うならやってみるね」
私は飲みかけのお茶に分子が振動するイメージで魔法をかけてみました。
すると、どうでしょう。冷めかけたお茶が煮立っています。
「何か、できちゃったみたい!」
「おお、できるじゃないか!」
「凄い、凄い!! 私にもできるかしら?」
モーリスさんも見よう見まねでやってみますが、うまくいかないようです。
「冷やす方もできるかい?」
「やってみるね」
私は、熱々のお茶に、今度は分子が動かないようにイメージして魔法をかけます。
今度は、お茶が、みるみる凍っていきます。
「これもできたわね――」
「流石だね――」
「どういう魔力操作してるのよ!!」
マーサルは感心して、モーリスさんはそれを通り越して呆れ返っています。
「でも、この魔法を道具に組み込むのは難しいと思うわ。少なくとも私には無理だわ。ミハルさんはできる?」
「私は魔力量が少ないですから。組み込み術式なんて生み出せませんよ!」
「ああ、そうだったわね。魔力量は少なかったのよね――」
魔道具を生み出すにも魔力量は必要です。
複雑な物になれば、それだけ魔力量が必要になります。
折角新しい魔法を覚えましたが、前回のようには、お金になりそうにありませんね。
凄い魔法なのでしょうが、残念です。
クーラーとかの状況を確認し、お茶もいただいたので、そろそろお暇しようと席を立つと、モーリスさんがそれを制します。
「少し待って! 前回約束したお金を渡すから」
前回私たちは、クーラーとかの販売権をモーリスさんに、白金貨七枚と利益の二割で、譲ることにしました。それのことですね。
モーリスさんがテーブルの上に白金貨を並べていきます。
ひ、ふ、み。あれ?
「それでは、お約束通り、今回は白金貨十二枚です。お確かめください」
モーリスさんの言う通り、テーブルには、白金貨二枚と大白金貨一枚が置かれています。
約束は白金貨七枚だったはずです?
「随分と多いようですが?」
「間違いありませんよ。お約束通り、前金の白金貨七枚と、利益の二割の白金貨五枚です」
「ちょっと待ってください! まだ製品もできていないのに売れたのですか?」
「そうよ。お得意様にお話ししたら、早速、予約していったわよ」
「それにしたって、利益の二割で白金貨五枚って、白金貨二十五枚も利益が出たのですか?」
「私の人脈があってこそよ。普通ならこうはいかないわ!」
「それにしたって、いったいどこに売ったのですか?」
「それは内緒よ。でも、そのうち噂に登るんじゃないかしら。それからが、売り上げの本番よ」
「本番って……」
私は絶句します。
「勿論、次からはそんなに高くは売れないから、そのつもりでいてね」
どうも、今回は設置箇所が多いのと、全くの新商品ということで、特別に高額だったらしいです。
それにしても、借金の白金貨十枚。返そうと思えば返せる状況になってしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます