第33話 夢の話3
前を向いて椅子に座る私の正面で、教室の机を挟んで、後ろ向きに椅子に跨がって座っている朱莉さんと、机の右側に立っている衣織さんが何か話をしています。
これは、私はまた「学園」の夢を見ているようです。
これで、三夜連続になるでしょうか。
今日は、ギルドにいた時から寝るまで、夢のことを考えていましたから「学園」の夢を見るのも仕方ないかもしれません。
考えていたことというのは、マーサルと夢に出てくる、まー兄さまがそっくりだということです。
マーサルに聞く日本の様子は、夢の中の「学園」と変わりがありません。
これはただの偶然なのでしょうか?
マーサルによると、私は美春さんにそっくりで、夢の中に登場する私も美春でした。
これが、ただの偶然と言えるでしょうか?
いろいろな可能性を考えてみました。
そのうちの一つが、実は私はマーサルと一緒に暮らしていた美春さんで、マーサルと同じようにこの国に転移してしまった。
そして、幼い時の記憶は、夢だと思っている日本の生活が現実で、現実だと思っているこの国の記憶が夢である。というものです。
そう考えると、今見ている夢は本当に夢なのでしょうか。今が現実で、冒険者をしているミハルの方が夢という可能性も……。
「美春様。聞いてましたか?!」
朱莉さんに声をかけられて、意識を引き戻されます。
「ごめんなさい。考え事をしていたわ」
「もう、仕方ないですね。ですから、旧校舎にオバケが出るらしいんですよ」
「オバケですか?」
「正体不明の何かですね。光っているらしいですが――」
衣織さんが詳しく教えてくれます。
「オバケなんているわけがないじゃないですか。そんなのはプラズマに決まってるですよ」
私たちの話が聞こえたのでしょう。白衣を着た女生徒が、聞き捨てならないといった剣幕で、目の前の机の左側に寄ってきます。
確か彼女は、科学部に所属していた、自称マッドサイエンティストの賀十ショコラさん。
何故か教室でも、いつも白衣を着ています。
ですが、それ以上に金色の髪が目を引きます。
どうやらハーフであるらしく、喋り方も外国訛りです。
自分のことをマッドサイエンティストというなんて、世界征服でも目指しているのでしょうか?
しかし、ガトーショコラなんて、美味しそうな名前ですね。
「そんなの、確かめてみなければわからないじゃない!」
「わかったです。なら今夜確かめに行きましょうじゃないですか!」
何か、私が考え事に浸っている内に、朱莉さんと賀十さんはオバケの真相を確かめに行くことになったようです。
「ということで、美春様、旧校舎前に今夜七時集合ですからね」
「そう、余り遅くならないように、気を付けてね」
「何言ってるんですか! 美春様も行くんですからね!」
「え。私も行くのですか?」
「当然です。勿論、衣織もよ」
「まあ、美春様が行くとなればついて行きますが――」
「二人とも、七時だからね。遅れないでよ!」
そんなわけで、午後七時前、私が旧校舎前に着くと、既に朱莉さんと衣織さんは集まっていました。
「賀十さんはまだのようですね?」
「あいつ、怖くなって逃げたんじゃないでしょうね!」
「でも、夜の校舎なんて物騒よ」
私はこのまま帰りたい気分です。賀十さんが来なければこのまま帰れるでしょうか。
「そうですよね。何が出るかわかりませんし……。ですので、美春様。これをどうぞ」
そう言って、衣織さんは私に棒のような長い物を渡してきました。
私は、それを確認します。
「これは、神薙の薙刀!! よく神薙のお爺さまが貸してくださいましたね!」
「美春様がお使いになるとお願いしましたら、快く貸してくださいましたよ」
「以前は門外不出などと言って、ろくに触らせてももらえませんでしたが――」
私は薙刀の感触を確かめます。
「しかし、依織さんは用心深いですね。こんな武器を用意するなんて。それとも臆病なのかしら?」
「あら、美春様こそ、瞳が黒いですよ。いつものカラコンはどうしたのですか?」
「あれは、夜は見難いから……」
薙刀を振りながら、依織さんを少しいじったら、反撃を食らってしまいました。依織さんには勝てませんね。
私の目は特殊で、人に威圧を与えたり、霊などを遠ざける力があるとされています。
日頃は、その力を抑えるために、特殊なカラーコンタクトをしています。
今夜は念のため、それを外してきました。そう、あくまで念のためです!
「お待たせです。随分と物騒な物を用意したようですね」
「あ、賀十さん!」
「賀十さんこそ、その手に持っている機械は何ですか?」
「これですか。これは秘密兵器のプラズマ検知器ですよ!!」
「そんなもん役に立つのか?」
「私が作った物ですよ。役に立つに決まってるじゃないですか!」
また、朱莉さんと賀十さんが言い合いを始めてしまいます。
二人の言い合いも気になりますが、それ以上に気になることがあります。
「あの、後ろの方は?」
「あ、私の助手を頼んだ拓真君です。同じクラスだから知ってるですよね?」
あれ? この人、確かに同じクラスの生徒なのですが、百瀬先輩にヒロユキと呼ばれてなかったでしょうか?
「女の子ばかりじゃ危ないかと思って来てみたんだけど。余計なお世話だったかな?」
彼は私の方を見て確認します。
薙刀を構えている人がいたらそう思いますよね。
「そんなことありませんよ。男の方がいらっしゃれば心強いですよ」
「そう言ってもらえてよかったよ」
「じゃあ、全員揃ったなら行ってみようか!」
朱莉さんが声をかけて全員で旧校舎に入ります。
先ずは、一階を見て回りますが、変わったものは何も見つかりませんでした。
続いて、階段を上がって二階に行きます。
二階に上がると、何やら怪しい気配を感じます。
「プラズマ検知器に反応があるですわ。こっちです!」
賀十さんに言われ、階段のロビー部分から廊下の奥を覗き込むと、そこには何かがいました。
それは、虎程の大きさで、体全体が燃えるように光っていました。
「何あれ!」
「バスカヴィルの魔犬?」
「どちらかと言うと化け猫ですね!!」
その化け猫は、こちらに気付くと勢いよく襲いかかってきました。
「こっちに来ますわ!」
「キャァ!!」
「危ない!」
私は薙刀で、そのよくわからない化け猫を薙ぎ払います。
確かに捉えた感はありましたが、化け猫は掻き消すように消えてしまいました。
「なに? 化け猫はどこ?」
「消えてしまったようですね」
「倒したということですか?」
「手応えはあったけどよくわからないわ――」
「これはきっとあれですよ。プロジェクションマッピング!」
「えー。誰かの悪戯だと言うの? プロジェクションマッピングだと言うなら、プロジェクターはどこよ!」
「どこかに隠してあるのですよ!」
こんな状況でも、朱莉さんと賀十さんが言い合いを始めてしまいます。
ある意味いいコンビです。
「また、何かあるといけないから、とりあえず外に出ようか」
そんな二人を見て、タクマ君が提案してくれます。
「そうね。その方がいいかもしれないわ」
こんな時、冷静に状況判断できる人がいるのは助かります。
そういえば、こんな時、子供の頃見た夢では必ず、まー兄さまが側にいてくれたのですが。
最近の夢には全く出てきませんね?
あれほど私にべったりだったのに、不思議なことです。
そういえば、マーサルはこちらの国に来てしまったのですよね。そのせいかしら?
そんなことを考えている内に、段々と私の意識は薄れていきました。
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