第13話 王都本部
逃亡生活三日目の夕方、私たちは王都アマルティアに到着しました。
途中、大勢の馬に乗った兵士とすれ違いましたが何かあったのでしょうか?
王都は城壁に囲まれていて、城門では兵士により検問が行われていました。
ここでも黒髪の身元不明者を探していましたが、魔法で茶髪にした私たちは、偽造したギルドカードを提示して、何事もなく王都に入ることができました。
城門の兵士に、すれ違った兵士のことを聞いてみましたが、兵士でなく聖騎士だったそうです。
聖騎士は教会の騎士です。それが、あんなに急いで何があったのでしょう?
城門の兵士も詳しい事は知らないようでした。
「ふー。無事に入れてよかったな」
「そんなに心配しなくってもよかったのに、私の偽造は完璧よ。
むしろマーサルが緊張し過ぎて怪しまれないか心配だったわ」
「ハハハ」
マーサルはきまり悪そうに照れ笑いをします。
「それで、これからどうするんだ。先ずは宿を探すのか?」
「いいえ、冒険者ギルドに行って、新しいギルドカードを手に入れるわ。
いつまでも偽造カードのままでは、偽造が完璧だとしても心配だもの」
「それは、新たにギルドに登録するということかな?
ギルドには誰でも登録できるのかい?」
「ギルドの登録には紹介状なりが必要ね。
今回の場合は、この偽造カードで身元を証明して、王都のギルドで冒険者として再登録してもらうわ」
「誰でもなれるわけではないんだ……。でも、偽名で登録するんだろ? 嘘で嘘を塗り固めた感じだね」
「今は逃亡者だもの仕方ないわ。
それに本名と違う名前で登録することはよくあるのよ。
仕事とプライベートは分けたいとか、単にかっこいい名前で有名になりたいとかで」
「芸名みたいなもんか。
でもそうなると、身分証として意味があるのかな?」
「あはは、何もないよりはいいんじゃないの?」
「そんなものか……」
王都のギルド本部は大きな三階建ての建物でした。
人が引っ切り無しに出入りをしています。
入り口から入ると正面の壁に案内が書かれていて、用件によって窓口が分かれていているようです。
私のいたミマスのギルドでは受付嬢が全ての用件を受けていたので、少し勝手が違います。
新規の登録は二階のようなので、私たちはそのまま二階に上がります。
二階に上がって目に付いたのは、登録や相談、ギルドへの依頼受付の窓口でした。
他に二階には、講習室、会議室、資料室などがあるようです。
私たちは登録窓口のお姉さんに声をかけます。
「すみません!」
「登録ですか?」
「はい」
「何か紹介状か身元を証明する物をお持ちでしょうか?」
「これでいいでしょうか?」
私は偽造したカードを出します。
「他のギルドで発行されたカードですね。
EランクとFランクですか……。
Dランク以下ですと再登録となり、新しくカードが発行されることになります。
前の実績は引き継がれませんから、またFランクの最初からとなりますが構いませんか?」
「はい、構いません。それでお願いします!」
ギルドでは、Dランク以下の冒険者がギルドを跨いで活動することを想定していません。
そのため、その活動実績は拠点となるギルドのみで記録管理されています。
Cランク以上になるとギルドを跨いだ活動が可能となり、活動実績はカードにも記録されるようになり、どこのギルドでも確認できるようになります。
Cランク以上のカードにのみ、そのような活動実績を記録する機能が付いているのです。
私を王都まで護送していた「暁の明星」はDランクでしたが、これはBランクの「ブラッククロウ」が一緒だったため請け負うことができたのであって、「暁の明星」単独では請け負うことができませんでした。
「わかりました。それでは確認しますね。
マーサルさん、男性、十八歳、パーティ加入なし、ランクはEランクでしたがFランクからやり直しになります。
よろしいですか?」
「はい」
「ちょっと待って下さい!」
マーサルがそのままOKを出そうとしたところを私が遮ります。
「はい、なんでしょう?」
「パーティなんですが、新しく二人で作ります」
「えーと、二人はご兄妹なのかしら?」
「はい。兄妹です」
「マーサルさんもそれでいいですか?」
「はい」
「では、こちらの書類に必要事項を書いてください」
お姉さんにパーティの新規設立申請書を渡されます。
「マーサル、二人のパーティの名前はどうする?」
「二人の名前なら『久千』だろ!」
「私は違うんだけど、まあいいか。じゃあ『クゼン・ファミリア』ということで」
名前が決まれば後は簡単。いつもチェックしていましたからね。
さらさらさらっと書き上げて、お姉さんに渡します。
「書けました」
「随分とて慣れているわね? 中身も問題なしと!」
お姉さんが手際の良さに驚いていました。
「それでは、マーサルさんのパーティ加入はクゼン・ファミリアで」
「はい」
「次に、ミハルさん、女性、十六歳、ん? 十六歳?」
しまった! 年齢のサバを読み過ぎたでしょうか?
受付のお姉さんが怪しんでいます。
流石に二十歳すぎなのに十六歳は無理があったみたいです。
「ミハルさんは十六歳で間違いないのですね? 十代前半かと思いました」
あれ、逆? もっと幼いと疑われた。
「十六歳で間違いありません!!」
「ククククク」
マーサル、そこ、笑わない!!
「失礼しました。十六歳、パーティ加入はクゼン・ファミリア、ランクはFランクで最初からになります。
よろしいですか?」
「はい!」
「確認なのですが、このカードの発行元の『ディスノミア』って、魔物に襲われて壊滅した隣国の開拓村ですよね?
よく無事でしたね?」
「村が魔物に襲われた時、ちょうど他の街に出かけていて、戻ったら村がなくなっていて、その後はあちこちを転々と……」
私が言葉を詰まらせ、目尻に涙を浮かべます。
「そう、大変だったわね……」
お姉さんもしんみりとした表情になります。
これ以上は、突っ込んで聞いてくることはないようです。
「それで、登録の方は大丈夫でしょうか?」
「あ、登録ね。大丈夫よ。今、新しいカードを用意するわね」
そして、お姉さんはいそいそと登録作業とカードの発行を行なってくれました。
「はい、これが新しいカードとギルドの規約ね。
知っていることも多いと思うけど、王都本部ならではの決まりもあるから、一度よく目を通してね」
「わかりました。ありがとうございます」
「それじゃあ頑張ってね」
私たちは、無事、新しいカードを手に入れることができました。
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