舞台裏4 聖女

 ジュピタニア王国の王都にある大教会で、聖女アマリリスは女神様の御神託について考えていた。


『クロカミノケンゾクガチジョウニアラワレタ、テダシヲシテハイケナイ』


「メヤリー。この御神託。あなたなら、どう考えますか?」

「黒い髪をした眷属様が降臨されたので、静かに見守るように。ということでしょうか?」

 聖女アマリリスの付き人であるメヤリーは、御神託を素直に解釈して聖女に伝えた。


「素直に読めばそうね。でも、黒い髪をした眷属なんて変じゃない?」

「それは、確かに、黒い髪の人なんて見たことないですが?」


 別に黒髪の眷属がいても不思議ではない。聖女が知らないだけだ。

 そもそも、神の左目の眷属は、神の左目をその名の通り「目」に例えるなら、眷属は「睫毛」である。

 目にゴミが入るのを防ぐ、睫毛の一本にすぎないのだ。

 当然その能力も限られているし、たかが睫毛の一本である。抜け落ちようがまた生えてくるし、全く問題ない。そんな存在なのだ。

 そうはいっても、同じ体の一部である。神の左目が黒髪なら、眷属も黒髪となるのである。


「それはそうよ。黒髪の人なんて畏れ多い」

「そうですよね。恐れ多いですよね」


 メヤリーは聖女が使った「畏れ多い」の意味を正しく理解していなかった。

 黒髪が、黒神で、最高神のことで、原初の神であり、古の神を表していると知っているのは、教会の上層部の一部だけだった。

 それこそ、畏れ多くて、下々の者には伝えていなかったのだ。


 そのことが、教会は黒髪の話を避けている。黒髪は忌避される者。と誤って広がっていった。

 だからといって、今までは、黒髪の者など誰もいなかったので問題になることはなかったのである。


「そうなると、前半部分は『黒神の剣、俗が痴情に洗われた』であるかもしれないじゃない!」

「意味がわかりませんが?」


「解説するわね。先ず、黒神は最高神のことよ」

「そうなのですか!」


「あ、このことはメヤリーは知らなかったか……。余り喋っては駄目よ。畏れ多いから」

「はい。畏れ多いのですね」

 メヤリーは認識を改めたようだ。


「それで、剣というのは男性に象徴よ」

「男性の象徴ですか?」


「わかるでしょ。男性の股間にある。あれよ。あれ」

「聖女様、そんな、はしたない」


「つまり、最高神のチンチンを俗世界で、男女の間柄で洗うということよ」

「折角さっきはぼかしたのに、ストレートにチンチン言わないでください!」


「そうなると、後半の『手出しをしてはいけない』は、手コキで絶頂させてはいけないということ。つまり、本番中出しをしろということよ!」

「少しは聖女であることを自覚して、言葉を選んでください!!」


「総合的に考えて、私に、最高神の子供を授かれ。ということだと思うの?」

「流石に、曲解が過ぎると思います……」

 その通り、曲解にしても無理があり過ぎる。


「えー。もうこんな禁欲生活我慢の限界よ! 私も男の人に抱かれてみたいのよ!!」

 聖女はぶっちゃけた。


「今の言葉は聞かなかったことにいたしますので、どうか、落ち着いてください」

「落ち着いてなんていられないわよ! こんなチャンス二度とないわよ!」


「でも、その聖女様の解釈が間違いだったらどうするのですか? 神罰が当たりますよ!」

「神罰か……。それはそれで楽しめるかもウェヘヘへ」

「聖女様! しっかりしてください!」


 聖女は長い禁欲生活で、完全に刺激に飢えていた。


「この際、御神託の解釈なんてどうでもいいわ! 黒髪の男を見つけて、ズッコンバッコンやりまくるわよ!」


 こうして、女神アリエスの思惑に反して、大教会は黒髪の身元不明者を探すことになった。


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