舞台裏3 女神
「誰よ!! 異界との境界に穴を開けたのは! 人が落ちてきちゃったじゃない!」
プランタニエがギルドで無実の罪を着せられている頃、この世界の管理官、女神アリエスは困り果てていた。
異界との境界に穴が開き、男が一人こちらの世界に落ちてきてしまったのだ。
たとえ女神であっても、異界から落ちてきたものを戻すことはできない。
そんなわけで、この男はこのまま地上に下ろすしかないのだが……。
「一応、地上に下ろしても害がないか確認しておきましょうか」
女神アリエスは男の詳細を調べた。
「これは、なんてことだ! この男、神の左目の眷属じゃないか! それで黒髪なのか。
てことは、落ちてきたのは、偶然じゃなく、召喚されたのか?
いや、待て、そうなるとこの世界に神の左目がいることになる……。
そんな、神の左目が転生しているなんて聞かされていないぞ!」
降って湧いたような事態に女神アリエスは慌てふためいた。
「これは確認が必要だな」
それでも、直ぐに気を取り直して女神アリエスは、神界の転生管理官に連絡を取った。
「リゲルか。お前! 私の世界に神の左目を転生させてないだろうな!」
「何のことかな?」
「とぼけるな! 神の左目の眷属が異界から召喚されて来た。つまり、私の世界に神の左目がいるということだろう」
「眷属を召喚したの?
アリエスの世界なら魔法の仕組みが他と違うから、神の左目でも魔法が使えないだろうと思ったけど、考えが甘かったか……」
実は、ギルドで追い詰められたプランタニエが、助けを求めて無意識に召喚していたのだ。
「やはり、転生させたのだな。なぜ報告しなかった!」
「それが、最初は神の左目だと気付かなくて……」
「誰よりも強力な魔力を持っている神の左目に、気付かないわけないだろう」
「いや、本当に神の左目だとは気づかなくてさ……。逆に、この魔力は危険だと判断して、魔法の仕組みが他とは違うアリエスの世界に転生させたんだ」
「それなら、わかった時点で報告すればいいだろう!」
「そんな、間違って転生させました。なんて報告したら、シリウスみたいに左遷されちゃうよ」
シリウスは、以前同じような失敗をして降格させられた先輩女神である。
「今からじゃあ左遷では済まないな!」
「そんなー」
「神の左目が転生しているなら、こちらはこちらでやれることをやる。じゃあな!」
女神アリエスは一方的に連絡を切った。それだけ、頭にきていた。
ホウレンソウ。報告、連絡、相談、これ大事。
「やれることをやる。といったものの、下手に干渉すると藪蛇になりかねないからな。触らぬ神に祟りなしともいうし、このまま静観が一番かな?
ただな。下手に事故や事件で死なれても責任問題になりかねないからな。
サポート役を付けたいところなのだが……。
そうだ、この眷属をこの世界の魔法が使えるよう強化しておこう。他にも必要な能力を与えて、これで神の左目を完璧にサポートできるだろう!」
女神アリエスは、チートと呼ぶにふさわしい能力を男に与え地上に下ろした。
「それにしても黒髪か……」
この世界で黒は特別な意味を持つ。
何ものにも染まらない強さの象徴。最高神を示す色なのである。
「わかっているだろうが、一応、聖女には伝えておくか。ホウレンソウは大事だからな」
『クロカミノケンゾクガチジョウニアラワレタ、テダシヲシテハイケナイ』
「後は、神の左目が、何事の問題を起こさずに、天寿を全うして、この世界を去ってくれるのを祈るだけか……」
一方、一方的に連絡を切られた女神リゲルはというと。
「もうー、まだ話さなければならないことがあったのにー」
実は、女神リゲルは神の左目がアリエスの世界で亡くなって、自分の所に戻ってこないように、アリエスの世界で、無限に近い寿命を持つ、神話上の存在として設定されていた、古代エルフに転生させていたのである。
「まあ、向こうが勝手に切ったんだし、もういいか」
女神リゲルは、改めて女神アリエスに連絡を取ることはしなかった。
このことにより、女神アリエスは、神の左目が古代エルフであることを、知ることができなかった。
ホウレンソウの大切さを、まだわかっていない女神リゲルであった。
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