舞台裏2 久千勝

 少し時間は遡る。


 久千勝が目を覚ますと、そこは深い森の中だった。


「ここはどこだ?」


 周りを見回しても木しか見えない。獣道さえない状態だ。


 彼は意識がなくなる直前の記憶を確かめる。

「確か学園の裏庭を歩いていて、急に足元に穴が開いて落ちたんだ……。それで意識を失った?」


 マンホールの蓋が開いていたのか、地盤崩落か、はたまた、落とし穴か、理由はわからないが落ちたのは覚えていた。

 なら、今いるのは、穴の底か、助けられて医務室のベッドの上か、運がよければ美女に膝枕をされているはずである。

 ところが、実際は深い森の中であった。


「となると、落とし穴に落ちて、意識を失っている間に誰かに拐われて、山奥に捨てられたということか?」


 しかし、その考えは現実的でないと考えを改める。


「大体、人を拐おうとして、落とし穴を掘るのは効率的ではないな。それに、僕を拐うとしたら営利目的だろう。なら、どこかに閉じ込めておくか、殺して埋めてしまうはずだ。生きたまま森に放置するとは考えられない」


 いろいろ理由を考えてみたが、ここが深い森の中であることに変わりはなかった。


「助けが来るとはとても思えないし、仕方がない、歩くか……」


 歩くと行っても道などない。ただ闇雲に歩いていても、同じ場所をぐるぐる回っていることになりかねない。


「何か目標になる物が有ればいいんだが」


 と、いっても周りには木が鬱蒼と生い茂っていた。遠くに建物が見えていたり、山が見えていたりもしなかった。かろうじて陽の光が漏れていたので、それで大まかな方角がわかる程度だ。


「こんな時スマホがあればな」

 彼が目を覚ました時に、スマホなどの荷物が入ったカバンは手元になかった。

 ポケットに入っていた財布はあったが、この状況では、現金もカードも役にはたたない。


「スマホのマップが使えれば迷うこともないのにな」

 彼がそう言った途端、目の前に半透明の地図が映し出された。


「何だこれ?!」


 手に取ってみようと手を伸ばしたが、するりとすり抜けた。


「VRなのか?」

 彼は自分の目の周りを触って確認する。当然、ゴーグルなどは着けていない。


「もしかして、僕はまだ意識が戻らず、夢を見ているのかな?」


 頬をつねってみるが、ちゃんと痛い。


「夢ではないのか。でも、夢の中でも痛いかもしれないしな。まあ、夢だろうと夢でなかろうと進んでいくしかないか……」


 彼はマップに意識を戻す。

 マップの操作は、タップや音声認識ではなく、考えるだけでことが足りた。

 機能はスマホのアプリに似ていたが、表示されるエリアは、今まで通ったところだけだった。

 それでも、一直線に進んでいることを確認できるだけでもありがたかった。


 かなり歩いて、陽も傾き始めた頃、マップの隅に何かが表示された。

 そちらの方を注意深く確認すると、そこには石でできた祠のような物があった。


「明らかに人造物だよな。ということは人里が近くにあるのか?」


 見回したが、それらしい建物も、祠から続く道も確認できなかった。

 マップにも、祠がぽつんと表示されるだけだった。


 仕方なくその日はそこで休むことにした。

 陽も傾いていたし、何より歩き通しで疲れていた。


 祠で休みながら、彼はマップについて考えていた。

「これは何なんだろうな? ゲームみたいなものか? なら、他にもできることがあるかもしれないな……」


 彼は試しにステータスと念じると、ステータスが空中に表示された。


「おお、できた。やっぱりゲームか? となると、スキルはっと」

 ステータスのスキル欄には、鑑定、マップ、アイテムボックス、など様々なスキルが並んでいた。


 二日目、人里が近いことを期待して注意して歩いたが、一日歩いても人が通った後すら見つけられず、森を抜けることはできなかった。

 この日は、たまたま見つけた樹洞に入り込み夜を明かした。


 そして、三日目、今日も森を抜けようと歩いていると、遠くから叫び声が聞こえた。


「あれは女の人の叫び声だよな。急いで行かないと」


 彼は叫び声がする方に急いだが、到着したのは二時間後だった。


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