舞台裏1 マリーとギルマス

 プランタニエをクビにした夜、受付嬢のマリーとギルマスのキールは、ラブホにしけ込んでいた。


「サブマスの所為でプランタニエを犯罪奴隷にし損ねたそうね?」

 事後、ベッドに寝たまま、マリーはキールを問い詰める。


「ギルドをクビにして、借金奴隷にしたんだ。十分じゃないか」

 キールはマリーの髪を撫でながら、答えた。


 マリーはその手を払い除け、声を荒げる。

「そんなわけないでしょ! 借金奴隷だと、借金を返し終わったら帰って来るかもしれないわ!!」

「白金貨十枚だぞ! そう簡単に返し終わるわけないだろう!」

 キールの口調も厳しいものとなった。


「彼女を甘く見ては駄目よ。何をしでかすかわからないわ」

「ははははは。『閉じた本』に何ができるというんだ?」

 マリーは真剣だが、キールはまともに取り合わない。


「何をいっているの! 今まで誰にもバレなかったネコババを見つけたのは彼女なのよ。

 見つかったのが、受付での不正だけだからよかったものの、領主に納める税金の使い込みがバレていたら、今回のようには誤魔化せなかったわよ?」

「確かに、税金の使い込みを領主にタレ込まれたら一巻の終わりだからな……」

 税金の使い込みがばれれば極刑だ、キールは落ち着いて考え直すことにした。


「そうよ。だからこそ、彼女は後腐れないように始末する必要があるのよ」

 マリーはプランタニエが犯罪奴隷になるとしても、初めから殺す気であった。


 犯罪奴隷にするならば、きちんとした調査が必要になる。

 そうなると、自分たちがしてきた不正が発覚する可能性がでてくる。

 そうなる前に、自殺に見せかけて殺してしまおうと考えていた。


「そう言われてもな。既に借金奴隷にすると決まってしまったしな……」

 なぜか、サブマスのリーザが、プランタニエを借金奴隷にしようと意気込んでいる。

 キールはギルマスであるが、何事にも厳しい彼女には命令し難い。


「でも、これから王都の奴隷商まで護送するんでしょ? いくらでもやりようがあるわよ」

「護送中に始末するつもりか? 危険すぎないか?」


「おあつらえ向きのパーティがいるのよ。そいつらに護送を担当させるわ」

「ブラッククロウか……。周りから評判が良くないぞ」

 ブラッククロウはマリーがキールに頼んで、最近Bランクにしたパーティだ。


「わかってるわ。ついでだから、そいつらに罪を全て被せてしまうのよ」

「ひでえ女だな!」


「だって、あいつら、女を見ると見境ないんだもの。

 きっと護送を担当させれば、こちらが指示しなくても、見て、見ないふりするだけで、犯して殺しちゃうんじゃないかしら?」

 Bランクになってから、ブラッククロウは調子づいて、マリーの手に負えなくなっていた。


「まさにクズだな」

「問題の種が二つ一遍に片づけられるのだから、一石二鳥じゃない」

「それもそうか……」


「警備隊長にも話を通しておくわね」

「おい、余りアイツに近付きすぎるなよ!」

「もー。そんなんじゃないわよ」

 マリーは警備隊長とも親密な関係だ。


「ならいいがな……」


「それから、邪魔してくれたサブマスはどうするの?」

「どうすると言われてもな。本部からの肝煎りでこっちにきているから、俺も強くは出れないな」


「何よ。情けない。男ならビシッとやっちゃいなさいよ!」

「やっちゃいなさいよと言われてもな。隙がないんだよな。何か、弱味か、つけ込む隙を見つけられないか?」


「はあー。仕方ないわね。探って見るけど、期待しないでね」

「ああ、よろしく頼む」


 そう言って、キールはマリーを抱き寄せるのだった。


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