第6話 シルバーウルフ

 シルバーウルフは森に住む魔物で、単体ならCランクの冒険者、Dランクのパーティでも討伐できます。

 ですが、シルバーウルフは大抵の場合複数で行動します。四、五匹ならCランクパーティ、十匹以上の群れとなるとBランクパーティでないと討伐は難しいでしょう。


 ブラッククロウはBランクパーティですが、女の子を守りながら戦える実力があるとは思えません。

 というか、こいつらなら平気で女の子を囮にしそうです。


「シルバーウルフだあ? シルバーウルフの五、六匹どうってことねえ。俺らはBランクパーティだぞ!!」

「集まってきているのは十匹以上の群れよ!」


「あぁ? そんなこと『閉じられた本』にわかるのか」

「わかるのよ。いいから早くしなさい!!」


 私は、魔力量は少ないですが、魔力操作はSSSです。

 身体強化魔法も、筋力を上げて、重いものを持ち上げたり、速く走ったりは魔力量が足りず使えませんが、「知覚強化」は重い物を動かすわけでも、無から有を生み出すわけでもないので、魔力量が少ない私でも使えるのです。

 むしろ、得意です。森に入ってから常に知覚強化状態でいる程です。


 そんなことをすれば、すぐに少ない魔力が枯渇してしまいそうですが、魔力操作SSSの私は、初級魔法程度であれば、魔力消費量より回復量の方が多いのです。

 つまり、私は初級魔法もまともに使えませんが、逆に使える魔法は、魔力の枯渇を心配することなく使い続けることができるのです。


「わかった。信じよう」

 私の剣幕に押されてクラークが飛び降りた二人に声を掛けます。


「おい!シルバーウルフの群が迫っている。逃げるぞ!」


 しかし後ろの二人はそれどころではないようです。

 二人係でローズを押さえ込んでいるものの、ローズは発狂していて、血だらけになりながらも、激しく抵抗して暴れまわっています。


 これはまずいです。とても揃って逃げられる状態ではありません。


「そんなやつ置いていけ!」


「クソ! この暴れ馬が!!」

「チッ。まったく手がつけられないぜ!!」


 二人が諦めて馬車に戻ってきます。


「ケリー!」

 ローズはケリー君に駆け寄って行きました。

 ケリー君はまだ生きているでしょうか? ここからでは確認できません。


「ローズさん! シルバーウルフがくるわ。逃げて!!」


 ローズさんはケリー君に縋り付いて泣きじゃくっています。

 とてもこちらの声が聞こえているようには思えません。


「本当に出やがった。急いで逃げるぞ!」

 クラークが森の中にシルバーウルフを確認したようです。

 急いで馬車を走らせます。


「ローズさん!!」

 私が叫びますがクラークはお構いなしに馬車を走らせます。


「どうだ逃げ切れそうか」

「奴ら追ってくるぞ」

「クソ!!」


「どうする」

「やっちまおう」


 ロバートとウドは頷き合うと、裸のリリーに目をつけます。


「いや、こないで!」

「あんた達、何考えてるの。やめなさい!」


「ああ、勿体ない。一発やり損ねたぜ」

「本当にな」

「いやー。やめて!」


 ロバートとウドは、裸のリリーを走る馬車から放り落としました。


「クズが!!」

 くそう!! 二人とも助けられなかった。


「何とでも言え。シルバーウルフから逃げ切っても、お前は死ぬ運命だ!」


 馬車は速度を上げて森の奥に進みます。

 道の状態はどんどん悪くなっていきます。

 馬車は大きく揺れています。

 私は檻の鉄格子にしがみついてそれに耐えます。


「どうだ諦めたか?」

「いや、まだ追ってくる」


「クソ。諦めの悪い奴らだ!!」


「もっと飛ばせないのか」

「これ以上は無理だ。道がーーー!!!」


 ガタン! ガラガラガラ! ガシャーン!!


 クラークが全てを言い終わる前に、馬車の右前輪が外れ、勢いよくそのまま横転します。


 私を入れていた檻は投げ出されて、森の木に叩きつけられます。

「いっー!」


 クラークとロバートは投げ出されるも、何とか剣を構えてシルバーウルフに対峙します。

 ウドは馬車の下敷きになったようです。


 ですが、あれは駄目ですね。こいつら本当にBランクか?

 明らかに腰が引けています。あれでは剣を振ってもかすりもしないでしょう。


 案の定、二人でシルバーウルフに立ち向かうも、シルバーウルフに一太刀も入れることなく噛み殺されてしまいました。


 さて、檻の中の私はどうなってしまうのでしょう?


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