第5話 暴行

 借金奴隷として売られる私を護送していた「ブラッククロウ」と「暁の明星」の二つの冒険者パーティでしたが、柄の悪いブラッククロウのロバートが、暁の明星のイケメン少年ケリー君の腹をいきなり剣で突き刺しました。


 一体何が起こったの?

 檻の中に入れられている私には様子を窺うことしかできません。


「な、何で?」

 ケリー君が痛みに耐えながら声を上げます。

「かわい子ちゃんを二人も連れて、前から気に入らなかったんだよ!」

 ロバートがニヤニヤしながら答えます。


「そんな……」

「二人は俺たちが可愛がってやるから成仏しな!!」


 ロバートは剣に力を入れて、ケリー君を馬車の下にそのまま突き落としました。


「キャー!」

「ケリー!」

 ケリー君が斬られて馬車から落とされたのに気付いた、リリーは悲鳴をあげて座り込み、ローズはケリー君の名前を叫んで走っている馬車から飛び降りました。


「おい、馬車を止めろ! 女が一人飛び降りた!」

「何だって。ヘマしやがって!」


 御者をしていたクラークが急いで馬車を止めました。

 ロバートとウドが飛び降りたローズを捕まえに走っていきます。

 残ったクラークは、座り込んでいるリリーを捕まえます。


「ヘヘヘへへ」

「いや、やめて!」

「お前たち、何てことをしているの! こんなことして、ただでは済まないわよ!!」

 リリーに襲いかかるクラーク対して私は叫びます。


「お前もこの後ゆっくり可愛がってやるから大人しく待ってろ。まあ、お前には楽しんだ後死んでもらうわけだがな」


「どういいことよ?」

「お前を殺すように頼まれたのさ」


「誰に頼まれたの?」

「依頼人の名前を明かす訳ないだろう」


 クラークは私と話しながらもリリーを襲う手を止めません。


「今ここで私を殺したらギルドのクエストを失敗したことになるわよ。折角Bランクに上がったのにCランクに落ちるわよ!」

「へ。その辺は言い出したマリーが上手くやってくれるさ。マリーにはギルマスも首っ丈だからな。どうにでもなるさ」


「やっぱり依頼人はマリーだったのね。しかもギルマスまで抱きこんでいたなんて……」

 つまり、横領していたのはやっぱりマリー。それも、ギルマスまで加担していたとなると、ギルマスが私を犯人扱いするのも当然ですね。


「おっと。余計なことを喋っちまったか。まあ、どうせここで死ぬんだからかまわねえか」


 クラークはついにリリーの服を剥ぎ取ってしまいました。


「ちょっと。私を殺すのとリリーたちは関係ないじゃない。手をつけるのをやめなさい!」

「うううう。そうです。やめてください……」

「そう言われてもな。恨むなら余計なことしたサブマスを恨みな」

「サブマスが何をしたというのよ?!」


「そうだな。まず、お前を借金奴隷にしたこと」

「それの何処が余計なことなの? 確かに警備隊に突き出されれば、無実が証明できたかも知れないけど……」


「警備隊で訴えれば無実が証明されると思っていたのか?」

 クラークが嘲るように笑います。

 私は少なからずその可能性を考えていました。


「ククク。甘いな。警備隊長もマリーと懇ろだ」

 クラークは可笑しくて仕方がない様子です。


「何ですって!!」

 私も流石にそこまでは考えていませんでした。


「それに、お前は近いうちに自殺に見せかけて殺す予定だったのさ。無実を訴えながらも、自責の念に耐えかねて自ら命を断つといった具合さ」

「そんな……」


「だが、それが借金奴隷になったらそうもいかなくなる。奴隷は自殺できないからな。おかげでこんな森の奥まで来なければならない羽目になっちまた」


 サブマスは私を守ってくれるつもりだったの?


「しかも、今回は余計な監視まで付けてくれた! いや、ご褒美だったか。ヘヘヘへへ」


 クラークは遂にリリーに襲いかかります。


「いやーー!!!」

 リリーが叫びますが、私はそれ以上に気になる気配を感じました。


「そんなことしている場合じゃないわ! 早く後ろの二人を呼び戻して、馬車でここから離れなさい!!」


 私はクラークに警告します。


「急に何言ってんだ?」

 クラークは怪訝な顔で私の方を確認します。


「シルバーウルフが近付いているわ!!」


 シルバーウルフが、ケリー君の血の臭いに誘われて集まってきていました。


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