2020年2月21日 物語病

――和歌山県 和歌山市 市立図書館――


▶バレンタインも終わり春休みに突入した小学生、深川風花は図書館で本を読んでいました。そこに、白いワンピースに麦わら帽子のとても綺麗なお姉さんが隣に座って話しかけてきますね


お姉さん「その本、面白い?」


深川「えっ?は、はい……。なんですか?」


姉さん「そう。いいわよね、本。前時代的だけど、保存性は良くて、物語への没入性が高くて、何より世界が詰まってる。本、好き?」


深川「あー……。本は好きだよ、私は物語よりも科学の本をよく読んでるけど」


お姉さん「勉強熱心なのはいいことよ。ねえ、この図書館よりも本がいっぱいあるうちに来ない?親御さんには私が電話してあげるから」


深川「この図書館より……!?あっでも、どうして私を?」


お姉さん「そうね……。あなたなら、私の病気。治してくれるかなって」


深川「お医者さんにはいかないの?私ができることってそんなないと思うけど……」


お姉さん「――大丈夫。あなたにしかできないから。お母さんの電話番号、教えてもらえる?」


深川「私にしか……うん、いいよ」


▶深川が家の電話番号を教えると、すぐにお姉さんはスマホで着信をかけますね


お姉さん「突然失礼します。私、花染結羽はなぞめ ゆいはと申します。そちらの娘さんを私の実家の書庫に案内しようと思っておりまして、はい。和歌山のかつらぎの方で、はい。暗くなる前にはお返ししようと思ってますので、はい。ありがとうございます」

花染「お母さんにも連絡したから、いこっか。車あっちだよ」


深川「この図書館よりかぁ……どんなふうなんだろう」


――和歌山県 かつらぎ町 花染邸:玄関前――


▶少し市街から離れたところにある、小さめの山の一番上。見るからに豪邸だな、とわかるほどの洋式の家ですね。少し古いな、と感じれますが、薔薇のアーチや庭の広さなどでそんな思いをどこかに飛んでいってしまいます


花染「ここが私の家だよ。大丈夫?酔ってない?」


深川「大丈夫!凄いね山の上にこんな豪邸があったんだ」


花染「いらっしゃい。私の家へ」


▶屋敷に入ると、玄関の時点で既に壁一面に大量の本が並んでいます。本のことを無視するなら普通の家で、細かやかな調度品がセンスを感じさせますが、家中の壁にある本棚や大量に積み上げられた本がそれをかき消すかのようですね


深川「えと、おじゃまします。本当に本だらけだぁ……」


花染「あなたに読んでほしい本があるの。おいで」


深川「はーい」


――かつらぎ町 花染邸:書斎――


▶木造建築の木目調が目に優しい部屋の奥、花染は本があまりない小さい部屋に案内します。奥の本棚に分厚い本が大量に挟まっており、小さな書斎机があるだけの部屋ですね


花染「あなたに読んでほしいのはこの3つ。どれか1つでもいいよ」


▶そう言って、花染は本革をなめしたと思われる丁寧なカバーの本を3冊出してきます


花染「ごめんね。最近作ったばかりで表紙がないの。中身なら話せるけど……聞きたい?」


深川「お姉さんが作った本なの?ううん、まず読んでみる」


▶深川 日本語

 失敗

▶漢字が多すぎて、小学生には読めませんでした


深川「難しい漢字ばっかり……読めない……」

花染「あら……。気が回ってなかったわね。もう一度、その本、読んでみて」


▶深川 日本語

 失敗

▶やはり、読めませんでした


花染「活字は苦手?」


深川「そんなはず……いっぱい本読んできたもん」


花染「ふふふ……。しょうがないわ。私でもちょっと難しいな、って思うような言い回しだもの」


▶花染はそう言い、白熱灯が切れそうな程のぎこちない笑みを浮かべます


花染「仕方ないわ……。仕方ないわよね。咀嚼反芻に時間がかかるものを小学生の子に読ませるのはちょっと難しかったわ。――私もヤキが回ったかしら。ごめんね、お嬢ちゃん。このメガネ、かけてくれる?」


▶花染は自問自答のように呟きながら、書斎の上にあるレンズの入っていないメガネを渡してきます


深川「えっ?なんでメガネ……それにこれ、レンズもないけど」


花染「それはね……賢くなるメガネなの。全能感を味わうのに最適だから私もちょっと浸りたいときにかけるんだけど、正しい意味で使ってもらえる日が来るなんてね」


深川「えーそんなメガネあるわけないじゃん」


花染「どうでしょう。――この本はもういいわ。充分仕事をしたもの」


▶そう言い、先程まで読もうとしていた本を書斎に仕舞いこみました


花染「残り2つ、どっちから読んでみる?」


深川「えー?まだ一ページも読んでないのに……。変なお姉さん。じゃあこっち」


▶深川 図書館 

 成功

▶深川 精神抵抗

 失敗

▶本を読んでいるとだんだん眠たくなってきます


花染「その本のタイトルを私がつけるなら……奇しソフィア、かしらね。――思い出に名前をつけるなんて、罪な人ね。我ながら思うわ」


▶そう呟くお姉さんの声を聞きながら、本を読んでいると気づけば周りの風景が変わっていきます。学校のようですね。自分より大きなお兄さんお姉さんが通っているようです


――学校――


▶自分の体に靡く風、肌を焼いてるようなひりひりとした陽射し、校庭から聞こえる煩雑な掛け声。そのどれもがリアリティを感じ、五感が今この場所に立っている、ということを痛感させてきます


深川「あれ……?さっきまで本読んでたのに……」


▶そうこうしていると、窓から女性の生首が飛んできます。風花ちゃんを見ると、優しい顔で微笑んでくれます


▶深川 正気度判定

 失敗

▶飛ばされた首が微笑むはずがない、とわかっていてもその首が微笑んでいるのは今、事実として目の前にありますね。恐怖を感じたのも束の間、気づけば生首はなくなっていました。そのことが余計に恐怖心を煽ってきます


深川 「きゃーーーーー!!!!なんでなんでこんな……あ、あれ、無い……?」


???「おいおい、どうした?えーっと……、きみ、1人か?」


▶深川の悲鳴を聞いて、高校生程のお兄さんが声をかけてきます


深川「首、首が飛んできて……!」

???「首が飛ぶくらい普通だよ。消えたんだろ?泡を吐いて口をパクパクするような死体じゃないだけマシだって」

深川「だって首だよ!?首がいきなり……え?何じゃないだけましって……?」

???「死体だよ死体。……見る?今から掃除しにいくんだけど」

深川「そんなの見ない!見ないから早く掃除しにいって!」

???「怒らせちゃったかなぁ……。女の子、苦手なんだよなぁ」


▶ちょっと肩を落として、お兄さんは校舎に入っていきました


深川「こんなの夢に決まってる……うぅ、変なの見る前に早く起きないと」


▶深川は学校の外に出ようとしますが、何か分厚いもので遮られているのか途中から壁のように外に出れません


深川「出れない……。でも学校には入りたくないな、どうしたらいいんだろう」


▶周りをよく見ると校庭なんだな、と思いました。ただ、庭の中央の大きな木の上に、木造の家のようなものが立っており、学校かどうか自信がなくなってきますね


深川「校庭に、あれはツリーハウス?気になる、けど……」


▶何も出来ず立ちすくんでいると、制服を着崩したヤンキーのような人がこちらに歩いてきます。ふらふらとしており、しきりに「涼しい所……涼しい所……」と、呟いています


▶深川 生命抵抗

 成功

▶何処かに強く惹かれますがなんとか気合で耐えます。耐えれなかったと思われるヤンキーのような人はふらふらと何処かに行ってしまいました。それを見ていたと思われる黒い布を纏い、とんがり帽子をかぶったとても怪しい女の子が近づいてきますね


???「あなた……。ここでどうしたの?」


深川「知らない、気が付いたらここにいたの」


??「そう……。焼却炉にはいっちゃダメ。食べられちゃうわ。常識も揺らぐような場所だけど……、正しいからと言ってそれが正しい選択だとは限らないわ。焼却炉に行きたくて行きたくてたまらないと思うけど、絶対行っちゃダメだからね」


深川「は、はぁ……。ありがとうございます?食べられるっていったい何に」


???「――知りたい?」


深川「うーん……知らないほうが怖いかなぁ、教えて」


???「勇敢ね……。蜘蛛よ。氷漬けにして、頭から啜るように食べるんだって。星がそう言っていたわ……。焼却炉にはいっちゃダメだからね……」


深川「クモかぁ、会わないといいな……焼却炉に行かなきゃ大丈夫かな」


▶怪しいお姉さんは校舎の方に戻っていきました


▶深川 生命抵抗

 失敗

▶とてもとても惹かれます。気づけば、ふらふらと庭の裏の方角に歩き出しています


深川「こっちのほうがすごく気になる……あれ、さっきお姉さんなにか言ってなかったっけ」


――学校 グラウンド――


▶グラウンドのようですね。怪しい女の子たちが地面に魔法陣のようなものを書いていたり、普通に部活をしている運動部などがいます。ですが、何かに惹かれるように校舎裏に行く人間がそこそこいるようです。7人くらいの集団で、男女混合です


▶深川 世間話

 失敗

▶ソフトテニスをやっていたと思われる女生徒が話しかけてきます


女の子「あれ?どうしたの?小学生だよね?お兄ちゃんかお姉ちゃん待ち?」


深川「えーと、私この学校初めてで!あっちのほうって何かあるんですか?」


女の子「あっちー……?ああ焼却炉があるよ。なんか涼しいところがあるんだって。私も行きたいけどなー……、せんせーが許してくれないんだよ」


深川「涼しいところって、さっきも聞いたような……」


女の子「あっついよねー。ポカリ飲む?熱中症になったら危ないよー?」


深川「ありがとうお姉さん。あっちが焼却炉ならなるべく離れなきゃかな……でもどこに」


女の子「あーミステリ部がなんか焼却炉行ってたし、実は死体とかあるんじゃない?行ったら死んでたかもね~」


深川「ミステリ部?そんな危険そうな部活があるんだ……。大丈夫なの?この学校」


女の子「大丈夫大丈夫。死体とか最近よく見るし、ミステリ部がなんか解決してくれるから。もちろん、迷子でもね」


深川「そうだった。最初から大丈夫じゃないんだったここ……」


女の子「大丈夫……?顔色悪いけど、熱中症?ポカリ飲む?」


深川「じゃあ、いただきます。そのミステリ部は解決して回ってるの?」


女の子「らしいよー。生徒会とつるんでるし、そうなんだと思う。顧問の先生は頭おかしいんだけど、死体とかの処理も綺麗だし、腐臭も消してくれるからいい先生だよ」


深川「それはいい先生なの……?うーん……どこに行ったら会える、会えますか?」


女の子「あっちの綺麗な校舎の方入って、3階。まあ床とか壁に返り血とかあって汚いけど、踏まなきゃいいから」


深川「どうして学校がそんな状態で普通に部活やってるの!?」


女の子「どうして……?どうしてだっけ……?あれ……、なんでだろうね。――それが普通だからじゃないかな。うん、普通だよ。どこの学校でもそうなんじゃない?普通普通!まあでも今日は暑いよね、暑いのになんで部活やってるんだろう……。今日くらい休ませてほしいよね。あっ……、こうやってサボってるのは内緒だよ?」


深川「あっ……。はい、あの、ありがとうございました」


▶挙動がおかしくなった女の子を尻目に、周りを見渡します。言われた通り、確かに校舎は2つあるようです。片方は木造の古そうな2階建ての校舎です。もう片方は壁が白く、3階建ての明らかに新しい校舎のようですね


深川 「綺麗な方の、三階。校舎の中やだなぁ……」


――学校 新しい校舎:3F――


▶階段を登り、廊下を歩いていると色んな場所に血痕、破壊痕、鼻に抜けるような消毒の匂いを見たり感じたりします。3Fに来た途端、奥の方にピンクでどでかく

[ミステリ部!!!!]と書かれたネームプレートが見えます。血痕を避けつつ歩き始めます


深川「なんてわかりやすい……けど、ここ大丈夫なの」


▶後ろから、ぽんぽんと深川の肩を叩く人がいます。振り向くと、女の先生と思われる人がこちらを心配そうに見ています。胸を大胆に開けており、まるでコスプレのように感じます


???「君、大丈夫?ずっと顔色悪いけど……」


深川「きゃっ!び、びっくりした……。大丈夫です」


先生「驚かせちゃった?うーん、記憶操作、うまくいってないのかなぁ……」


深川「えっ記憶操作……じゃなくて、あなたがミステリ部の先生ですか!」


先生「うわ……」

先生「あっごめんね!?そういう意図はなかったというか……、まさかミステリ部の先生と間違われるなんて思ってなかったっていうか……」

先生「悪い人じゃないのよ!?でもね、でもねちょっと、ちょーっと頭がこう、ね?だからね、君が悪いわけじゃないの、ごめんね……」


深川 「えぇー……。なんか、ごめんなさい……私知らなくて……」


先生「ミステリ部ならこれから行くから、一緒にいこっか。私と一緒なら、まあ……そこそこは安心、かも?」


深川「普通に会話ができる……お願いします!」


――学校 新しい校舎:ミステリ部――


▶ピンクのネームプレートがかかっていた教室に入ると、とても怪しい部屋ですね。中心に謎の魔法陣が書かれています。先生と思われる女性が茶髪の長めの髪を振り乱し、自分の背丈よりも大きいハサミで、自分の腕を斬り落としていますね


▶深川 正気度判定

 成功[人間振り直し]

▶まあ、そういうのもあるのか……と、なんとか状況を受け入れることはできました


茶髪の先生「いってー……。ま、しょうがないか。ん?あれ?お客さん?」


深川「ミステリ部の先生……、なんですよね」


茶髪の先生「そそ、夏期講習も終わってもー疲れた疲れたってしてるところにやってきた迷子チャンってわけ。あっ青葉ちゃんって呼んでね」


深川「青葉ちゃん?えっと、ミステリ部なら何でも解決するって聞いて、それで、えー……」

青葉「あーこの腕?取敢えず見学する??」

深川「ち、違うのでしまってください!」


▶青葉は斬り落とした自分の腕で深川の肌を撫でます


青葉「なーんだ。まあ見学してもらうけどね!」


▶部屋の中心にある怪しい魔法陣の中に、自分の腕をぽいっと投げ入れます


青葉「ひゃーーーはっはっはっはっはぁーーーーっはっはっっはははははははっっはっははっはっはひょひゃっっははははははゲホッゲホッ」


▶そのうち紫の蒸気が出て、校舎中を包み込むようになります。学校中がかなり煙たくなりますね


深川「ちょっと、こんなに煙出していいんですか?消防車、来ちゃいますよ」

青葉「よし。後は……今でもドキドキするわこれ……。あっ、丁度いいし代わりにやってくれない?」


▶無駄にでかいハサミを深川に渡してきます


青葉「片腕じゃちょっと力の加減怪しいんだよね。私の代わりに私の右足引きちぎってくんない?合意だから犯罪じゃないから、大丈夫だから!」

青葉「先っちょだけだから!ね?ね?いいでしょ??」


深川「えぇ……えっこれ私がやらなきゃダメ?…………先生?」

先生「あはは……、刺激が強いよね……。まあ見てて」


▶胸の開いた先生が代わりに青葉からハサミを受け取り、ハサミを足で挟むように持って、青葉の右足を裁断しました。かなり嫌そうな顔をして、そのまま魔法陣に放り込みます。紫の煙が更に色濃くなります。骨が砕ける音、肉が裂ける音が耳にフラッシュバックしますね


青葉「ちょっとー!痛くないようにしてよねー結構いたいたのまるなんだぜ」

先生「やったことないんだから無理に決まってるじゃないですか……」

深川「うぅ……音が痛い……」


▶気づけば紫の煙が校舎に蔓延していますね


青葉「ほい、常識変換おーわり。変にトラウマ増やしたくないもんね。毎日毎日クラスメイトの葬式とかマジ心が壊れるし」


▶煙で目の前が見えなくなり、気づくと青葉の四肢がもとに戻っています


深川「あ……手と足が生えてる。なんで……!?」


青葉「今更それくらいでビビらないビビらない♪ ――――で、君から私の嫌いな女の匂いがするんだけど……。雪城の子じゃないよね?」


深川「そうだ、そうなんです!気が付いたら校庭にいて、それで……」


青葉「あいつまーだあんなんしてるんか……。いい?あの物語病には関わっちゃダメ?わかった?」


深川 「物語病って、あの白いお姉さん?青葉ちゃん知ってるの?」


青葉「そそ。あいつは物語がないと生きてけないの。本読みすぎて飽きちゃったせいで人の思い出に手出してるわけ。う~~~んそうだな、あれよあれ。――預言者ってやつ」

青葉「何かがある節目の時に、人が頑張ってるのに思い出扱いにして介入させて、預言ってことにするわけ。それを見て楽しむ薄気味悪いやつなの。――今の状況が勝ち確なのは正直安心したけど……、やっぱ趣味悪いし私は好きじゃないわ」


深川「よげん……?はぁ、本当にこの夢は突拍子もないことばかり……」


青葉「ま、いいわ。お嬢ちゃんは巻き込まれただけっぽいし、戻り方を教えてあげる。1つは死ぬこと。1つは、知ってる人にお願いすること。私が戻り方を知ってるから良かったね、死ななくて」


▶青葉は深川に近づいていき、身体をポンポンと触り始めますね。そうして、制服の内側のポケットから栞を取り出します


深川 「栞?いつの間にそんなもの持ってたんだろ」


青葉「あったあった。勝手に仕込んでるのよねー……。この栞を持って、物語の結末を教えて!って心のなかでお願いするといいわ。じゃあ戻れると思う。私が死ぬ気で頑張ってるのに、物語にされて消費されるのは心底ムカつくけど」


深川「ありがとう青葉ちゃん!」


青葉「二度と来るんじゃないわよー。――来るなら思い出じゃなくて、願わくば今の記憶として」


――かつらぎ町 花染邸:書斎――


▶願った後、気づけば寝ていたようですね。目を開けると、花染がニコニコした顔でこちらを見ていますね。満面の笑みです


深川 「んぅ……。あ、おはよう……」


花染「おはよ。いい夢見れた?」


深川「あんまりいい夢じゃなかったし……、変な夢だった」


花染「そう?学園モノとしては王道かつ、メインキャラの退場も少なくて楽しいと思ったんだけどな」

花染「そんな面白い物語に、私の好きな要素をひとつまみ摘まむとそれはそれは楽しい物語になるに決まってるわよね」


深川 「お姉さん……?本当にお姉さんが私に夢を見せたの?」


花染「そんな凄いことはできないわ。ただ、あなたが思い出を覗いただけよ。ほら」


▶本には奇しソフィア、と書かれています。――写真もたくさん貼られており、その中に、先程まで話していた、とんがり帽子の怪しい女の子や露出が妙に多い先生、青葉が写っています


深川「青葉ちゃんだ……!どういうこと?思い出って?」


花染「ここの本棚はね、大事な思い出を本にしてくれるの。英霊の座……はわからないか。うーん……、お嬢ちゃんは預言って信じる?」


深川「信じてない、けど……」


花染「そっか……。これは預言じゃないんだ。これはね、過去の思い出を変換する本棚なの」

花染「プリキュアに、私も出たいなーって思ったことない?私もプリキュアになって~みたいな空虚な物語、――誰しもが思い描くと思うんだけど」

花染「本当に出ちゃった場合、当人以外、本当に空虚な物語になっちゃうの。でも、それが物語じゃなくて現実だったら……。そういうものか、って納得しちゃうわけ」

花染「結果論として思い出を改竄されることで、改竄された当事者達には預言って見えちゃうわけよ。うーん、……私悪い女。お嬢ちゃんはどう思った?あの現実、楽しいと思えた?」


深川「怖いことばっかりだったよ、楽しくなんか……」


花染「それはどうかな?非現実って楽しいと思わない?怖いことだって娯楽にしちゃうでしょ?ホラー映画だって立派な物語よ?」


深川「楽しくないよ。普通に人が死んで、死体があっても普通に暮らしてるような非現実なんて」


花染「そうね。物語と現実をしっかり分けて考えれる子は聡くて好きよ。まあ、受け入れて適応出来ちゃえるのも才能だけど、ね」

花染「でもこれ、――本当に現実だったのよ。だって、物語にしないと受け入れられないじゃない?」


深川「……学校血まみれだったよ?そんなことがあるわけ」


花染「あるんだなぁ、それが。――戦争だってお嬢ちゃんからしたらもう物語よ。まあ、私もだけどね。何処か物語のように聞かないと現実だって受け入れられないじゃない」

花染「事実を事実だって受け入れる為に人は物事の経験、歴史を物語にして纏めるの。その物語が古くなればなるほど、虚構が1つ2つあったとしても、気づけないわ。その分、私が預言者ってことになっていって、その指向性も強くなるんだけど。――関係なかったわね。他の物語も、みたい?」


深川 「同じようなお話なら、もういい……」


花染「あら残念。もう夕方だし、あなたをお家に帰さないといけないから結局無理だったんだけど」

花染「今度来るときは幸せな物語を読んでもらうわ。思い出じゃなく、作り手の世界を。感想を聞いて、初めて本の世界は広がるんだから」


深川「幸せな物語、絶対ね、約束だよ」


花染「ええ。約束は違えないわ。だって、あの時あなたが見て、聞いて、感じたその時の経験……。――それを車の中でゆっくり聞くのが私の幸せなんだから」

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