2019年8月22日 魂魄と概念と観念

――雪城市 雪城高校3F:ミステリ部部室――


青葉「てーてれれれってててててーてれってれーてれれれっててってててー!甲子園の空にかっとばすのだー!」

青葉「俊足巧打が光る我が祓川高校の運命の4番!青葉様の御成ですよ!!」


▶青葉が室内でバットをブンブン素振りしていますね


叶琉 「うーんいつもどおりな感じで安心感がある」

エイリオ「こちゃちゃーっす、ぅお!ナル居るじゃん!わりかし久しぶりなんじゃない!?」


青葉「あーやっと来た。それでどうだった?甲子園」


叶琉「暑かったイメージが強くて、試合の様子はあんまり……。あっリオ!やっほー!」

エイリオ「甲子園っていったらあのかき氷もどきみたいなやつが有名なんじゃないっけ!食べた?食べた?」

叶琉 「食べたよー、ひんやりしてて美味しかった!」


青葉「あーあー青春してて羨ましいこと。まあ私は????そんなカポーを?????地獄にご招待しないといけないんですけどね。ロウハちゃん」

ロウハ「ご主人様は雑草じゃなくてリオ様なんですが?」

青葉「あーんひどいよーかなえもーん!!!ロウハちゃんがいじめる~~~~」


エイリオ「そーだ!ローハちゃん!ナルは見るの初めてだっけ!?」

叶琉「かなえもんって誰のこと……?あっうん、そうだね。初めまして、叶琉っていいます」


ロウハ「叶琉様、ですか。ご主人様からいつも聞いております。コンゴトモヨロシク」

叶琉「ヨロシクヨロシク」


青葉「くっそー一番偉いのは私なんだぞー!支部長様なんだぞー!」


エイリオ「それでー?しぶちょーせんせーは地獄に連れてってくれるってどういうことー?ここから出たら確かに地獄みたいな暑さだけどさー」


ロウハ「はい叶琉様。先程、伊良原様から緊急の依頼が電子メールで届きまして。こちらになります」

エイリオ「先生から、ナルに?」

ロウハ「ごめん、ユイ……」


▶ロウハの首の部分が90度に折れた後、首から代わりに小さめの液晶が首から出てきますね。伊良原が映像に映っています


エイリオ「ヒョッ!?」

叶琉「えっえっ……えっ?」


『早速で申し訳ない。別動隊の戸田が新潟の皇分家であるものを発見した。詳細は省くが、それによると千葉県の湘南に専門の施設があるらしい。使える人材を使ってほしい』

『また、エクレールの子供、サイジョウを解析していた所、突然変異が発生した。度重なるクローン生成により遺伝子劣勢が起こっている。併せてそちらも確認してくれ』


▶液晶が吸い込まれるように脊髄に納まり、一回転してロウハの頭が戻ってきます


ロウハ「――とのことです」


エイリオ「ブッピガァン……」

叶琉「何事もなかったかのように……湘南に施設、突然変異ですか」

エイリオ 「エクレアさんの息子……、ゲノム兵かなにか……?」


青葉「うーん。確かに今、岡山に人材取られちゃってるのよね。エイリオ、叶琉。どっちも行ってもらえる?私とロウハも一緒に行くから」

ロウハ「私の決定権はご主人様だけです!!!」


エイリオ「ワープシステムで移動は楽ちん!乗り心地は改善の余地ありだけどね!」


青葉「いえ、サイジョウに会いに行くから車よ。伊良原のラボに行くわ」


叶琉「あのマッドなお人の所ですか」


青葉「ええ。アレが私に頼るなんてロクなことがないわ。ついてきてほしいの」


エイリオ「おっけー!じゃあせんせーは運転席でー、ナルとオレは後部座席!ローハちゃん!一緒に来てー」

ロウハ「わかりましたご主人様」


――南あわじ市 沼島:伊良原ラボ――


▶車ごとフェリーに乗り、伊良原ラボに辿り着くと結凪が出迎えてくれます


結凪「あっお待ちしてました皆さん!エイリオさん!叶琉さん!久しぶりです!」


エイリオ「待 た せ た な ! ……?雰囲気変わった?――髪切ったとか?」


結凪「ええちょっと。吸血鬼と淫魔と猫又になっちゃってまして。ほら」


▶結凪の頭からぴょこっと猫耳を出します。人間の耳もついているままですね


叶琉「結構混ざってるぅ……あっかわいい」

エイリオ「Vtuberだってそこまで混ぜないよ!?サイジョウさん……、会うのは初めてのはずだけど。どういうことだろ」


結凪「私はもう慣れちゃったので……。お兄ちゃんの報告と、サイジョウさんを見ていってください」

青葉「はいはい」


――伊良原ラボ:実験室――


▶カプセルが立ち並んでいたり、ワープする為の装置が大量に周りにバラされていたりする雑多な部屋ですね


伊良原「よく来たな。エクレールは今、避難させる為に病院だ。流石にサイジョウを見せるのは私でも良心が痛む」

青葉「良……心……?」


エイリオ「それってオレら直視しちゃいけない奴じゃないの……?」

叶琉「クトゥルー的な?SCP的な?」


▶奥の部屋で悲鳴のような声が聞こえます。見ると先に台所を借り、お茶を出そうとしているロウハがスカートの裾を掴んで抵抗しているようですね。エクレアにそっくりの6歳くらいの小さい女の子に大量に絡まれているようです


ロウハ「あっ重たい……。乗らないで……4人も5人も無理です!あっやめてくださいスカート引っ張らないで」


結凪「シトラス!リューン!レナ!セスタヴォカーレ!こら!そのお姉ちゃんはお母さんじゃないですよ!!」


エイリオ「え?なに?」


伊良原「まあ今、ここは託児所と変わらないのだが……。こいつらはともかく、サイジョウはちょっと特別でな。ついてきてくれ」


ロウハ「あっちょっと……た、助けてご主人様……。えっやめてやめてあっ」


青葉「尊い犠牲だった……行くわよエイリオ」

叶琉「あーロウハさんが、あーでも伊良原さん行っちゃうし……頑張って!」

エイリオ 「もうちょっと遊んでてあげててー」


ロウハ「そ、そんなぁ……」


――伊良原ラボ:奥の部屋――


伊良原「これだ」


▶奥の部屋はカプセルしかおいてない物悲しい部屋ですね。カプセルの中に一見すると、普通の少女が眠っています。先程見たミニエクレアよりかは大きいなと感じます


伊良原「これだ」

青葉「ん?正直バイオハザードとかOutlastとかイメージしてたんだけど」


叶琉「この子が、えーっとそのー……突然変異?の子なんですか?」

エイリオ「え?息子って言ってなかった?女の子じゃないの?」


伊良原「息子とは言ってないはずだ。――起こすぞ」


▶伊良原はカプセルの出力を上げ、サイジョウと呼ばれた少女が目を開けます。それは一見エクレアに見えますが、何処となく見覚えがあるような気がしますね


エイリオ「名前からして勝手に息子だと思っていたエイリオ君-15」


青葉「うーん?」


▶エイリオ 縁故[理解させる]

 成功

▶叶琉 縁故[理解させる]

 失敗

▶青葉 縁故

 成功

▶青葉とエイリオは気づきます。エクレアにそっくりな顔ですが、面影が夏乃や秋斗の顔にも見えます。三人の顔のちょうど間のように感じますね


青葉「んー?エクレアちゃん搾り取った?いやでもそうなるとなつのん感は出ないしなぁ」


エイリオ「うぅぅーーーん???エクレアさん基準だけど……鈴倉先輩にも見えるし……、パイセンの顔もチラつく……。気のせいかぁ?」

叶琉「頭からハテナマークが消えない」

エイリオ「ほらほら、小鼻あたりとかパイセンっぽいし、目元もエクレアさんっていうより鈴倉先輩みたいな!?」


伊良原「誓って言っていいが、私はエクレールのDNAしか分解をしていない。――仮に他の素材が勝手に混ざったのか?と思い、結凪で試して見たが、特徴は顕現するが顔立ちに変化は見られなかった」

青葉「あーだからあの尻尾と猫耳ね」


エイリオ「……そこにツッコみだしたらキリがないからほっとくけど、顔立ちが変わったってだけでなにが問題なの?」


伊良原「やはりわからんか。まあ仕方ないが。本人に直接聞くといい。サイジョウ、喋ってやれ」

サイジョウ「ウィッス」


エイリオ「顔立ちだけじゃないな」


サイジョウ「えっとその……何処から話していいか。お母さんってすごい吸血鬼だよね?うんすごいすごい」


青葉「情緒大丈夫かおい」

叶琉「うーん……。とりあえず、初めましてから始めません?」


サイジョウ「あっはじめましてサイジョウです。後3日らしいですよ。まあでも少なくとも歴史に載るらしいので満足だけど」

サイジョウ「でねでね、そのーお母さんを見て、知り合いを思い浮かべる人がいたみたいなの」


叶琉「うんうん、続けて?」

エイリオ「知り合いを……」


サイジョウ「でーあれなんすよ。あー……はぁ。疲れた。お父さん、私もう寝るね」

伊良原「お父さんと呼ぶな……。博士と呼べって言ってるだろ……」


▶サイジョウは自分からカプセルに戻っていき、目を閉じました


青葉「子持ち早いっすね」

エイリオ「お父さん先生じゃん」


伊良原「まあ聞いてのとおりだ。私も知らなかったのだが、どうやら妖怪と呼ばれる生命体はDNAの配列が可変らしい」


青葉「は?」

エイリオ「コーディネーター?」

叶琉「変幻自在?」


伊良原「いや、実際その傾向が出ている。エクレールにホラー映画を見せると、ゾンビのような娘が。夏目友人帳を見せるとにゃんこ先生のような娘が発生した」


エイリオ「そんな影響を受けやすい絵描きみたいな」


伊良原「実際絵柄のブレが激しい絵師のようなものだ。信仰や当人に対するイメージが変化するとそれに伴ったDNAに自動で切り替わる」

伊良原「エクレールがこっそり萩原と鈴倉、両方と知り合いの人間に合ったのだろう。顔を見て当人らを思い出したせいでエクレールの信仰対象に変化が起きたらしい」

伊良原「――イメージの変化だ。恐らくそんなに考えてなかったのか、微妙にしか遺伝しなかった」


青葉「お、おう……。まあ妖怪のDNA調べようって思う文系はまあおらんわな。理屈もふわふわしすぎてて理系じゃ無理だわ」

エイリオ 「面白い!のかもしれない!」


伊良原「これを応用するとある現象を意図的に引き起こすことが出来る」


エイリオ「もう応用……。悪い事してるんだ……」

叶琉「具体的に、どのような?」


伊良原「人間のクローンだ。人間を素体にして、妖怪の血を混ぜて信仰やイメージを注ぎ込むことで任意の人間の見た目や記憶を任意に作成することが出来る」


青葉「んー?なんかそんな報告受けたような……」

叶琉「人間のクローン……。怖い、な」

エイリオ「そっくりな 誰か を作ることができる……。なにそれこわい……」


青葉「あーロウハちゃん!」

伊良原「そうだ。お前達、あのアンドロイド。何処で拾った?」


エイリオ「なんか殺風景な研究所みたいなとこだった!」


伊良原「研究所か。……なるほど。更にクローンを応用してこういうことも出来る」


▶と言って、伊良原は眼鏡をかけて青葉を見つめます。そのうち、伊良原は固まるように動かなくなりますが、青葉がぎこちない動きで肩を回したり拳を握ったりし始めますね


青葉「……。ふん。結凪では楽勝だったが割と誰でもいけるのだな」


エイリオ「せんせーは不倫相手にはオススメしないよ」


青葉「誰がこんな小娘に色目を使う必要があるんだ。わかってるとは思うが青葉の思考と身体の動きを奪い取り、操ることが出来るのだ」

青葉「俺自身は全く動けないが、仮にこれを使えば完全犯罪が可能になる。戻ってみるぞ」


エイリオ「待って、怖すぎ」

叶琉「応用する手段を用意するの早すぎませんか」


▶青葉が伊良原から眼鏡を奪い取り、しばらくすると伊良原が動き始めます。青葉はキョロキョロと周りを見渡してますね


青葉「……え?ちょっと待って時間飛んでるんだけど???え???」


叶琉「ちょっとキングクリムゾンが通りかかっただけですよ」

エイリオ「あーこの時期キンクリしょっちゅう通るよねー」


伊良原「これは悪鬼に立ち向かう夜叉の本質をいじっているわけだ。お前達、そもそもキノの旅はなんの為に置くのかわかっているか?」


エイリオ「えーっと、悪鬼ていうフワフワ空間から現実に帰ってくるなんとかのなんとかかんとかっていう」

叶琉「元の場所に戻るための道標、くらいの感覚です」


伊良原「まあいい。悪鬼という虚構の存在で、結局想いの力で夜叉が適当に暴れてる、暴れるための原料が夢のようなものなのはわかるな?キノはそれを現実に引き戻し、夢は夢だと割り切るものなのだ」

伊良原「そして、この眼鏡は純血で濃い妖怪の血、正確には怪物だが……。エクレールの血を1日だけ浸したただの度無しレンズだ」


エイリオ「それがなんでそんなチート能力になるの?」


伊良原「現実……、今ここにいる空間で想いの力の高純度を人間に当てることで、一時的にだが人間の本質をいじることが出来る」

伊良原「それがその人間のイメージを変質させている。青葉はうるさい小娘だが、私のイメージを上から一時的に上書き保存することで、乗っ取ることが出来る」


青葉「は??????????????」


伊良原「私は祓川青葉であると自己暗示のようなものをかけることで私が祓川青葉の操作権を獲得出来たのだ。理論はともかく、実際に出来るかどうかは今見ただろう?」

伊良原「人間が死ぬときは誰からも忘れ去られた時だ……と、言うが実際そのとおりだ。これを使えば、例えば死人の意識をクローンに移植することが出来る」


エイリオ「うひー、ぶっ飛んでるなぁ……」


伊良原「意識、というか記憶を植え付けているわけだ。結局人間もイメージで生きている。他人からの印象を大事にするだろう?」


叶琉「……ええ、はい。そうですね」

エイリオ「好きな人には好かれたい!」


伊良原「取敢えずここまでは脳に入れてほしかったわけだ。――千葉の湘南でこの技術が悪用されている。皇という、田舎者が各所でこっそりと実験しているわけだな」


叶琉 「ああ、ここでそこと繋がるんですか」

エイリオ「なるほどねー、これからやっつけに行く悪事のお勉強会ってわけだー」


伊良原「そうだ。何があっても心構えがあるとないとは差がある。ワープを湘南の紅葉につないでいる。そこから車を借りていけ」


エイリオ「心構えの重要性」

青葉「いやいいんだけど私に対する許可は??????????後千葉と湘南って全然場所違うくない????????」


伊良原「――ああ。パスタなお前の方ではない。沼に南と書くほうだ」


青葉「くっそー詐欺かよ。口頭で伝えるならもうちょっとアクセント気にしろっての!!!はー行くよエイリオ!叶琉!」


エイリオ「イーッ!」

叶琉「え?沼?スワンプ?あっちょっとまってあー」


――千葉県 柏市:沼南紅葉――


▶車で紅葉に到着し、中に入ると、軍服ワンピースを着たお姉さんが接客してくれます


軍服「待ってたわ。あんたらが雪城の英雄様御一行ね」


青葉「まった濃いマスターが出てきましたよ奥様」

叶琉「え……、軍人さん?」

エイリオ「ある意味軍隊みたいなもんだし」


青葉「どうやらまともな経営者は私しかいないらしい……。おーよよよよよ……」


軍服「コスプレよ。強さのイメージの確立の為に、紅葉だとマスターは奇抜であるべきって教育を受けるのよ。それで、大体の人はコスプレに落ち着くわけ。コスプレじゃない人間はだいたい頭のネジぶっ飛んでるのよ。幹部とかだいたいそうね」


青葉「ドッッッッッッドッドドヤァァァァァァァァ」


叶琉「凄く強い圧が飛んできている……。なるほど、そういう理由で」

エイリオ「あれ?じゃあせんせーキャラ薄いのってマスターとして弱いのでは!?」


青葉「薄くないですーーーーー!!!!!!!!濃いですーーーーーー!!!!先輩にもこんなうるさい後輩二度と見ることはないよって褒めてもらったくらい濃いですーーーーーー!!!!」


軍服「噂通りね……、うーんまあいいわ。うちの紅葉でも調査をしたんだけど、2人死者が出たわ。……ってなると、うちの戦力を浪費させるより強い夜叉を呼んでくるのが筋でしょ?」


エイリオ「え、あ、うん。あー……褒められてるんだろうけど素直に喜べない状況だ……」


軍服「命からがら帰ってきたのから話を聞いたら、皇というのが作った人工悪鬼だというのがわかった」


叶琉「ああ、さっき伊良原さんから聞いたあの」


軍服「――申し訳ないけど、私達の代わりに頼むわね」


エイリオ「……任せて」


青葉「今日はあのいらたんにいいように使われすぎてるのよ!もうほーんとおっこおこですよ」


叶琉「あー落ち着いてください落ち着いてください」

エイリオ「ローハちゃん!行くよー!」

青葉「伊良原んとこのメスガキと一緒に置いてきたでしょー。放し飼いはだめなんだよー」

エイリオ「うそー!ちょっとせんせーとってきてよー!?」

青葉「ムリムリ。ワープにもチャージタイムがあるのよ。ほら車に乗る」

叶琉「後で迎えに行こう。行こっか、リオ」

エイリオ「なにが心構えだよー!戦力削減してんじゃんかー!バカー!ウアアア……」


――千葉県 柏市:柏神社――


▶車で近くに神社がありますね。街中にあるせいか、近くにビルも見えますね


青葉「さーってと。ここは合祀社なのよ。まあ一緒にセットっていうイメージとしては正しいっちゃ正しいかもね」


エイリオ「ほえー……。それでー、目的のブツはどこかなー?」


▶社の片隅、奥の方にマゼンタピンク色の悪鬼があるのがわかります


青葉「おーおーおー。流石に初めて見たぞこんなん」


叶琉「なんか特殊な色ですね」

エイリオ「なんだか可愛いじゃーん」


青葉「まあ人工の白に、危険度の赤だろうけど……。やばいよなぁこれ」


エイリオ「全然可愛くないじゃーん」


青葉「正気を保ってればなんとでもなるわ。いざ鎌倉」


叶琉「キノ置いといて、れっつごー」

エイリオ「倒幕じゃ!」


――蠱毒の庭――


▶中に入ると、白を基調としたはずのそこそこ広めの真っ赤な空間のようですね。大きめのカプセルが何十体も並んでおり、周りには同じ顔をした少女がたくさんいるのがわかりますね


少女「あっこんにちわ。今日は見学ですか?」

少女2「案内とかいります?」


青葉「お、おおう……」

叶琉「案内?えーっと、はい、お願いします……?」

エイリオ「ここではどういったことをなさっているんですかー?」


少女2「あ、自己紹介が先でしたね。私達は桔梗といいます。どの個体も桔梗です。こちらはキキョウプロジェクトの開発施設になります」

少女3「好きな桔梗をお持ち帰りしていただいて、お好きに楽しんでもらっています」


叶琉「倫理という言葉が霞んで消えた」

青葉「おっとこれは……うーん……。シスターズとか金持ちのペットとかが浮かんで消えるやつ」


少女41「では、部屋に案内しますね。お持ち帰りするには100ベルです。100ベルに心当たりがない場合は、宝石などでも結構ですよ」


エイリオ「その、キキョウ……さんのお得意様って主にどういった方ですかねー?」


少女41「さぁ?私は初めてのお客様ですので」


――蠱毒の庭:控室――


▶質素な部屋です。明らかに安物のプラスチックの机の上に、カタログのようなものが置いてあります。しばらくすると、案内してくれた"桔梗"より一回り小さい少女が入ってきます


叶琉「あれが、お持ち帰り用のカタログってことになるのかな」

エイリオ「お部屋に案内されちゃったけど、ここで……、2人やられたんだよね……?ただのクローン販売所ってわけじゃないよね」


少女101「いらっしゃいませ。こちらのルールはご存知ですか?」


叶琉「えーっと、知りません、教えて下さい」

エイリオ「さぁ?オレは初めてのお客様ですのでー」


少女101「では、キキョウプロジェクトにはこの顔以外ございません。ですが、各種オプションを付与することが出来ます」

少女101「人気どころで言うならこの……メス奴隷オプション、従順無垢オプション、年齢変化-5歳オプション、食用オプションあたりでしょうか」


エイリオ 「うーん、聞きたくなかった!」

叶琉「人気なんだ、最初と最後の……」

青葉「うーん……。廃棄ってどうしてるの?」


少女101「ああそれですか。2週間買い手がつかなく廃棄されたり、たまに連れて行かれたりして、一番奥の扉に行きますよ」


青葉「ああ……そういう趣味……」

叶琉「関係者以外立入禁止感のある所ですね」

エイリオ「あー……。行きたくないけどそこ見学してもいい?」


少女101「私にはわかりません。ですが行きたいのであればこの部屋を出て奥ですよ」


叶琉「行っていいんだ……。じゃあ、向かいます?」

エイリオ「せんせー、他に聞きたいことはー?このまま工場案内終わらせて帰るってのだと手ぶらになるけど」


青葉「うーん……私はサポートに回るわ。これちょっと気味が悪いし、他に調べることも出来たから」


叶琉「ははは……。リオ、ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」

エイリオ「オレだって気味悪いよー……ぅ?なに?」

叶琉「少しの間でいいから、手を握ってほしいんだけど……駄目かな?」


▶叶琉は控えめ気味に右手を差し出します。それをエイリオはぶんどるように握り、指を絡めますね


エイリオ「……ぉう!」

叶琉「んなぅっ、もうちょっと優しくー……。ありがとう」

エイリオ「じゃー最後に!キキョウちゃん、ここの創設者……、責任者って誰かなー」


少女101「知りません」


エイリオ「やっぱか!じゃあ行くね!」


少女101「良き出会いを」


――蟲毒の庭:奥の扉前――


青葉「いややばいなぁ……。6歳くらいから20超えてるようなのまでいるけど全部同じ顔とか……。気狂いそうになるな。並の夜叉なら錯乱してるよ」


エイリオ「うぁー……。あたまおかしなるでー……廃棄はここって言ってたけど、どうなってるんだろう」

叶琉「うーんゲシュタルト崩壊起こしそう……。なにか目にとまるようなものはっと……」

エイリオ「覚悟しといたほうがいいね。ナル。行くよ……?」

叶琉「うん……気をつけようね」


青葉「頼んだわよ。いざとなったら頼ってね」


▶エイリオと叶琉は手をつないだまま扉に手をかけ、二人でゆっくりと扉を開けます


――蠱毒の庭:プレス機――


▶部屋の入口に簡素な更衣室と、ベルトコンベアがありますね。その奥にはガシャンガシャンとプレス機が上下しています。同じ顔をした少女が順番にベルトコンベアに乗り込み、奥の少女から悲鳴も上げず肉塊に変わっていきますね


青葉「うーん予想通りというかダンガンロンパというか……」


エイリオ「はー……。こういう趣味の人ってほんとどういう生き方してるんだろう」

叶琉「……見たくない、けど解決しないと」


青葉「――――ねえ。」


▶青葉はベルトコンベアに乗るために全裸になった少女に問いかけます


廃棄少女「なんですか?」


叶琉「……君は、君たちは、悲しかったり、怖かったりしないの?」


廃棄少女「悲しいですし、怖いですよ」

廃棄少女「でもそれが、運命ですから」


叶琉「自分で、自分の人生を歩んでいきたいって、思わない?」


廃棄少女「思いませんね。あなたはどうしてここにいるんですか?誰かに言われたからじゃなく自分でここに来たんですか?でもそれって自分の意志って必ずしも言えないのじゃないですか?」


叶琉「ただ機械のように、玩具のように、人形のように何もかもをされるがままじゃない。僕は今ここにいる。いつだって抜け出せた、いつだって逃げ出せた。だけどしなかった」


廃棄少女「そうですか。それで私にどう関係するんですか?生きるの死ぬのも。自分で、自分の人生ってそういうものですよね。人形になるのも玩具になるのも自由じゃないですか」


叶琉「楽しくないじゃないか。考えを放棄して、怖さと悲しさを抑え込んでって、そんなの……。おかしいよ、おかしいよ……」


廃棄少女「こうやって話してる間にも食用になってる私がいるじゃないですか。放棄してませんよ。してるなら逃げ出してるはずじゃないですか」


叶琉「運命だと言い訳してるのを、考えを放棄していないというのか」


廃棄少女「では言い訳だったとしましょう。仮に私を無理に外に連れ出したとして、今ここにいる私はどうなるんですか?――あなた達の自己満足風情の為に私の意志と人生は足蹴にされてしまうんですか」


叶琉「既に運命は決まっていると勘違いしたまま固めた意志なんて捨ててしまえばいい。ただ自分で生きるという、シンプルだけど、難しいことを選んでほしいだけなのに……」


廃棄少女「私の願いを言いましょう」

廃棄少女「賞味期限が切れて寿命で身体の動かなくなった私の行く末ってご存知ですか?」


叶琉「……」


▶叶琉は静かに首を振ります。全裸の、少し大人びた少女はベルトコンベアに首を向けます


廃棄少女「ああやって処理された後、私達を集めて再構成するんです。リサイクルですよ」

廃棄少女「買われなかった時点で私の運命は決まっていたんです。買われた私はその後どうなろうとも幸せだと思いますよ。クスリを射たれても、殴られてもです」


叶琉「っ――――、なんで、こんなに。なんで、なんで……っ!」


▶泣き崩れた叶琉を静かに見下ろし、エイリオに向き直ります


廃棄少女「彼氏さん。こいつ泣き始めましたよ」


叶琉「わかってたはずなのに……。伊良原さんが言ってたこと、わかってた、はずなのにっ……!」

エイリオ「うー……あー……。オレは馬鹿だからーいちいち自分が自分の意志でここにいるだとか考えた事もないけどさ。目の前の誰かを、自分の手の届く範囲の誰かを助けようって思うナルを、間違ってるなんて思えないし、思いたくない」

エイリオ「ここがある限り、君が、君達が苦しくて悲しくて辛い目に合い続けるというのなら、この地獄を終わらせるのが、オレ達のすることなんじゃないかって思うんだ」


廃棄少女「わかってるじゃないですか。そこで理想論だけ語って倒れてる彼女さんより物分りいいじゃないですか」

廃棄少女「でも、本当に壊したいんですか?覚悟は?」


叶琉「……やる、やってみせる。僕たちの仕事だから」

エイリオ「――人間は、たくさんの選択をしてここに立ってる、正しいことをしたり、間違っていることをしたりして今に立ってる。間違ってるかどうかは選択をした後の結果からしかわからないんだ」


廃棄少女「そうですか。じゃあ私達全員、食べてください。ここの羅刹、私なんです」

廃棄少女「死んでも勝手に再生されちゃうので、私の生きた証。血肉にしてくださいよ」

廃棄少女「全員食べてしまえば、ここも消えますし。私達キキョウプロジェクトのイメージも取り込めて強くなれますよ?お得でしょう?理想論を夢のように語る正義の味方をしたいってのなら、出来ますよね」


青葉「――叶琉くん。いいの?」

エイリオ「ナル……。選択だよ」

叶琉 「僕は……僕は、君たちを食べて地獄が終わるというのなら、喜んで」


廃棄少女「ええ。ありがとう。勇者ってのはあなたのことを言うのね」


▶そう言って、大人びた少女は初めて朗らかに笑います


叶琉「僕、はただのお節介焼きが過ぎるだけの人間ですよ。勇者なんて――夢物語です」

青葉「エイリオくん。私達は見ておくだけになるわ。食べるのは叶琉くんだけよ」

エイリオ「ナルの選んだ選択に、オレは手を出せないよ」


廃棄少女「あら、詳しいのね」


青葉「悪鬼の羅刹を倒すのって、どうやるか知ってる?」

青葉「羅刹を潰すのって想いの力を当てればいいんだけど、だから殴るんだけどね。こういうミニオンズみたいにいっぱいいる時っていうのは、概念を纏める必要があるの」

青葉「多分、特にこの子たちはキキョウ、後はキキョウプロジェクトっていう概念に縛られてるの。話の口振りからすると幸せな最期を寿命で迎えた後、ここに再び呼び戻されているわ」


廃棄少女「……そうね」


青葉「だからこそ食べるっていう選択なんだけど、仮に私やエイリオくんが一口でも食べたら、概念が一つにならないのよ。纏まったっていう概念を邪魔しちゃうわけ」

青葉「それに、正直私はここにある悪鬼を爆発四散させて、紅葉なり冬泉でコールドスリープして埋めればいいんじゃね?って思ってるから。根本的にこの子達羅刹を潰す気がないのよ。というより潰せない」

青葉「概念を集めて、消して、その血肉になる覚悟を決めたのであれば。私はそれを尊重する」


叶琉「……どういう食べ方をすればいいんですか、そのままですか」


廃棄少女「まさか。そこで私がプレスされてるでしょ?あそこのミンチ肉から心臓のところだけ食べてくれればいいのよ。あっカニバリズムの趣味があったりする?私、経験あるよ」


▶悪鬼が急速に収束していき、叶琉を取り込むようにプレス機の配置がじわじわと近くなっていきます


青葉「概念の取り込みが起きてるわね……。このままじゃ私たちも巻き込まれるわ……。エイリオくん、脱出するわよ。――ごめんね。メグセロン!」

エイリオ 「ナル、先に行ってるね」

叶琉「うん……全て終わったら、戻るから」


▶青葉とエイリオは先に戻っていきました。プレス機が四方に固まり、じわじわと部屋が狭くなっていきます


廃棄少女「ありがとう。じゃあ私、みんなに教えてくるね。みんな喜ぶよ」


▶少女はふわっとした優しい笑顔をして、部屋を出ていきました


叶琉「うん……。僕も、うれしいよ」


――南あわじ市 沼島:伊良原ラボ――


▶柏からワープ装置を使って伊良原のラボに戻ってきました


伊良原「戻ったか。首尾は?」

青葉「一網打尽にする秘策を見つけたわ。叶琉くんがなんとかしてくれるって」


エイリオ「先生、胃薬ってある?一応用意しといたほうがいいかなって」


伊良原「そうか。こちらも証拠を揃えた。皇に資金提供をしたやつと、技術提供をしたやつだ。結凪!」

結凪「呼びましたか?」


▶虚空からどこでもドアのように扉が出てきて、結凪が姿を表します


伊良原「胃薬だそうだ。資金提供は柊愁。冬泉コーポレーションの元社長だ。2年前に行方を眩ましてから目撃証言を見つけることは出来なかった」

結凪「わかりました」


▶結凪はとてとてと台所の方に走っていきました


伊良原「技術提供者は深尾暁世。岡山で黄楊という開発者とともに名前を残している。皇に勤めていたことがわかった」

伊良原「2年前に冬泉の経営交代してから経営刷新してクビになり、その後は行方知れずだそうだ」


ロウハ「ごごごごごごごごごご主人様!!!!!!ひどいですよ!!!私を置いていきましたね!!!!!」


エイリオ「クローン技術を作りあげたっていうことならすごい人だね。でももう少し人の心が欲しかった。――ローハちゃん!違うんだ!なにも違わないけど違うんだ!」


ロウハ「ご主人様には人の心がありません……。放置された私がどれだけスカートをめくられたことか……」


エイリオ 「逆に考えるんだロウハ……!ロウハがスカートをめくられたことによって、オレのスカートが守られたと……、助かったよ。ありがとう」


ロウハ「ご主人様が嬉しいなら私はそれが幸せです」

青葉「さて、叶琉くんを待ちましょうか。ゆいなちゃーん、私に玉露お願い」


――蟲毒の庭:控室――


▶叶琉は209人の桔梗を1人あたり25分かけて食べました。90時間近くかけて完食しましたが、夢時間換算で4時間ほど食べ続けました


成就少女「もう、後は私だけだよ。そんなに汚しちゃって……。よく頑張ったね」


叶琉「きみ、が……、さ、さい、ご……。なら、ひとつ、き、きかせ、て」


成就少女「なぁに?」


叶琉「きみ、は、これで、しあわせ……?」


成就少女「もちろんよ。私達、ようやく死ねるもの。――思い出の中で、解放されて生きることが出来るのよ」


叶琉 「そう、か……。なら、それなら、よかった……」


成就少女「じゃあ、またね」


▶そう言い残し、少女は衣服を脱ぎベルトコンベアに乗りました


――南あわじ市 沼島:伊良原ラボ――


▶4時間が経過し、とっくに夜ですね。青葉達は、エクレアの娘たちを抱っこしてあやしていますね。途中何人もが息を引き取り、また新たに生まれました


青葉「おっそい……。やっぱ私がやるべきだった……?でもなぁ」


エイリオ「ほんとに食べてるの?なんかこう悪鬼パワーでシュワワワーって取り込むとかじゃないの!?」


青葉「概念を吸収するって方法で一番自分が概念を摂取してるってわかるのが食べるってことなのよ。さっき看取った子達もエクレアさんが美味しくいただくはずよ」


エイリオ「ナルが人間である以上口から咀嚼しないと食べる行為にならないのか……。うひぃー……」


青葉「その分、身体やメンタル、想いの力は間違いなく強くなるわ。妖怪が人間を食べるってのも、もともとはそういう意味合いなのよ」


エイリオ「いいところだけ聞けば誰だってしたがるね、オレはできたかな……?」


青葉「その分精神が先に壊れちゃうかもしれないのよ。昔、先輩も物凄い見たことのない顔をしてやったことがあるの」


エイリオ「……しばらく肉は見たくないかもね」


▶ワープ装置が起動し、叶琉が戻ってきます


叶琉「…………ただい、ま」

エイリオ「ナル!大丈夫!?大丈夫じゃないよね!?身体は!?平気!?胃薬飲む!?」


青葉「戻ったわね。大丈夫?私のことわかる??」


叶琉 「リオ、と、支部長」


青葉「なら大丈夫。壊れてないのならどうとでもなるわ。いらたんやっちゃって!」

伊良原「全く……。汚れ役を任せればいいと思ってないか?」

青葉「思ってる思ってる」


エイリオ「え!?何する気!?」


伊良原「まあ見ておけ」


▶伊良原は虚空から銀色の鞘を抜き、刀を叶琉に構えます


エイリオ「……信じるからね?」


伊良原「楽にしてやろう」


▶伊良原は刀を縦に構え、叶琉を思いっきり袈裟斬りにします。が、斬れた様子はありませんね


青葉「あいつの太刀筋そっくりね……」


叶琉 「……?」

エイリオ 「手品?」


伊良原「人間一人の器に、何人も何人も抱え込むからそうなるのだ愚か者が。霊媒師として生きればいいものを」


叶琉「マッド、サイエンティストに、愚か者って、言われた……」


青葉「これは楼観剣よ。抱え込んだ魂を分離させて、同居させる剣なの。みょんみょん」


エイリオ「これが伝説の!」


伊良原「雑念の他に女の子がいたから斬り離した。――話し相手が出来て良かったじゃないか。二股になるかもしれんがな。くつくつ」


叶琉 「……よく、わから、ない」

『ということで出てこれました。外には凄い人がいるのね』


エイリオ「少し楽になったんじゃない?話し相手?はよくわからないけど」

青葉「まあ今にわかるわよ」


『あーこういう時、決まりがあるんだったね。コンゴトモヨロシク』


叶琉「あぁ、わかった……。これ、は、騒がしく、なり……そう……」


『またね、って言ったでしょ?』

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