2019年6月5日 ナノマシン注入

――フランス クルトンピエール:一軒家――


結凪「えっと……えっと…………?ここ、かな?」


▶1人で遥々来た結凪が、輪っかを扉にドンドンと叩いて来客を知らせます


???「はぁい~。どなたですか~?」


▶かなり間延びした声と共に扉が開きます。長身の女性ですね


結凪「えっと……?あっペンダントペンダント……。エクレールさんの友人の結凪って言います。エクレールさんはいますか?」


???「エクレールは~私ですよ~?」

???「あ~もしかして~、ヴィヌズのことかしら~?」

???「ヴィヌズ~。お友達がいらしたわよ~」


▶勝手にポンと納得して、奥に引っ込んでいきます。そのうち、エクレアが出てきますね


エクレア「お母様なんですの? お友達だけでは誰かわかりませんわ……?」


結凪「えっと、エクレアさん!ペンダント使ってもフランス語はあんまり頭に入ってこないんです~助けて……」


エクレア「あら?あなたは……、ユイナではありませんの!お久しぶりですわね!」


結凪「コレ、置きたいので部屋に入れてもらえませんか……?」


▶エクレアが結凪に向き直ると、結凪はものすごく大きい鞄をさげているのが見えます


エクレア「ええ、もちろん。ささ、どうぞ」


――クルトンピエール エクレール邸宅:エクレアの部屋


結凪「ふぅ……。よいしょ……っと」


▶部屋に案内されると、結凪はよいしょと荷物を降ろし、大きい機械をテキパキと組み立て始めます


エクレア「それ……、なんですの? やけに大きいですが……」

結凪「悪魔との通信機ですよ……。えいやっと」


▶機械が起動したと思うと、ホログラムが立体投影されて伊良原が出てきますね。リアルタイムで接続されているようです


エクレア「タカヨシ!?」


伊良原「久々だな。早速だがいくつか報告したいことが出来た故、暇してるこいつを派遣した」


結凪「暇してないですよー!久々のおやすみだっただけですよ!」


エクレア「わざわざテレビ電話を持ってきたんですの?」


伊良原「これなら物質の受け渡しができるからな。……煎餅だ」


▶伊良原が持っている煎餅を床に落とします。すると、目の前に煎餅がオチています。エクレアが不思議そうに煎餅をかざしたりしていますね


エクレア「まぁ!? どうやったんですの!?」


伊良原「出来るんじゃね?と思ったら出来た。――本題だが、純血の吸血鬼の始祖がまた1人死んだのは知っているか?」


エクレア「……!? いいえ、ワタクシの家はあまりそちらとは繋がりがありませんので」


伊良原「そうか。原因は明確だ。冬泉コーポレーション、いや旧体制の冬泉の遺産にアンドロイド制作技術がある。俺はアンドロイドだと概念がかぶるので、暫定的にヤシャロイドと呼んでいるものがあるのだが」


エクレア「それが始祖を殺したと?」


伊良原「詳しくは省くが、これは妖怪や怪物のDNAや存在原理を無理やりアンドロイドに移植して機械生命体として稼働させているものだ。結論から言うと、このDNAや存在原理が強ければ強いほどヤシャロイドの強度、生命体としての強さが決まる」

伊良原「――――ヤシャロイドの作成に、始祖1人がそのまま使われた可能性が高い」


エクレア「つまり、そのヤシャロイドというのは少なくとも吸血鬼の始祖を超える強さだということですのね?」


伊良原「そうだ。事後報告で悪いが、こちらも報告がある。こっちに来い」


▶伊良原が後ろを向き、吐き捨てるように呟きます


エクレア「あんまり想像したくないですし、できれば知らせて欲しくなかったですわ……、って来いって今からですの?」


?「呼びましたの?」 


▶画面に、小さい金髪の幼女がとてとてと寄ってきます


伊良原「お前の毛髪を使ってヤシャロイドを仮設した。髪の毛1本だと精々3時間が限度だかな」


エクレア「なに勝手に作ってくださいますの」


?「お母さんですの?」


エクレア「違いますのよ。ってお母さんって教え込んでいますの?」


伊良原「あれはお姉さんだ。おばさんでもいいぞ。――っと、ヤシャロイドが死滅すると純度の高いDNAが残る」


エクレア 「それって死んだヤシャロイドを使えばさらに強力になっていくってことじゃありません?」


伊良原「これを妖怪や怪物が取り込むことで、自分の存在強度を上げることが出来る。――ヤシャロイドに転用することももちろん出来る」


エクレア「また厄介なものを作り出しましたわね……」


伊良原「エクレール。俺と契約を結ばないか?お前は提供できるDNAを俺にたくさん渡す。俺は研究の廃棄物である純度の高いDNAをお前に全て譲渡する。どうだ?どちらにも損がないと思わないか?」


エクレア「ワタクシはソレをもらっても何も活用できませんがどこにメリットが……」


伊良原「家族を守ることが出来る。オランダのロリジジイが既に動いている程、種族の存亡がかかっている。俺に協力してくれるのならお前と家族の生存を約束しよう」


エクレア「ワタクシとしてはそれで滅びるならそれまでと思っていますし、人と生きていくと決めた両親も同じ考えですわ」

エクレア「……いいえ、正直に聞きますわ。――タカヨシ。あなたもこの子のようなヤシャロイドというのを作れるというならより強力なヤシャロイドを作るということですわよね?」

エクレア「そのフユズミというのと何が違うんですの?」


伊良原「俺の場合は、先日潰滅したある傭兵事務所から残された文献から適当にやっただけでこれだ。当時の技術者とは技術力が天地ほどに差がある」


エクレア「悪用というのはわかりませんが、そう出来るほどの技術はないしするつもりもないと」

エクレア「ん~。ワタクシとしては別に抜けた髪を渡すだけですので、どうでもいいといえばどうでもいいんですが……」


伊良原「当然だ。俺の知り合いには英雄が多すぎる。悪用とのリスク・リターンが釣り合わんよ」


エクレア「じゃあその契約、ワタクシにくれるのはよくわからないものではなく食べ物とか……、そうですわね。本……、できれば恋愛小説のような本とかにしてくれません?」


伊良原「いいだろう。だが、純度の高いDNAも食べてもらうぞ。先程渡した煎餅には産業廃棄物のDNAをふんだんに含んである。遅かれ早かれ力が覚醒するはずだ」


エクレア「何を食べさせてくれますの!! そういうところが素直に信頼できないんですわ!!」


伊良原「怪物相手との契約は、事後承諾にして無理にでも飲ませたほうが話が早いからな。人体に取り込んでも影響がないことは、そこの結凪が証明している」


エクレア「ユイナも食べさせられたのですの……」

結凪「……はい。見ててくださいね」


▶結凪がくるっと回ると黒い髪がみるみるうちに伸び、角が生え、ルージュの髪色に変わり、大きな羽がぶわっと生えます


結凪「……人間じゃなくなっちゃいました」


エクレア「髪が……、伸びましたわ!って人間じゃなくなった!?――人体に影響が出ているじゃないですの!?」


結凪「いえ、死ぬほど痛いとかしんどいことがすぐ再生するようになったので、後悔はしてませんよ……」


伊良原「お前の髪の毛1本のDNAで人間が怪物に変異する程の力を秘めている。それが始祖ほどになると……、一般人にクスリとして投与されるとどうなるかは一目瞭然だ」


エクレア「ええ……。そんな簡単に変化させられる技術だったんですの……。ワタクシもっとこう改造手術的なものを想像してましたわ……」


伊良原「ロリジジイが動くほどのものなのかわかるだろう?だから本人に戻すのが一番安全なのだ。――家族と一緒に日本に来てくれ。金は全てこちらが用意する」


エクレア「農場の管理があるのでそれは無理ですわ。お父様もお母様もここが大好きですの。もちろんワタクシも。あと……」

エクレア「あの子が帰ってきた時に、誰もいないというのは寂しすぎますわ……」


伊良原「そう言うと思っていた、対策済みだ、問題ない。このホログラムは人体も転移が可能だ。結凪」

結凪「あっはい……」


▶結凪がホログラムに近づくと姿が消えます。5秒ほど後、ホログラム先に結凪が表示されていますね。控えめに手を振っています


伊良原「この通りだ。基本は日本で防護し、管理があるときにこちらに戻ってくればよい」


エクレア「――――なので、行くならワタクシだけですわ……。ってええ……ここちょっと感極まって『そうか、ならお前だけでもいい』って流れになるところじゃありませんの……」


伊良原「ロマンは実現するものだからな。家族ごと守るのは嘘じゃない証明になるだろう?」


エクレア 「だから別に守ってもらわなくてもって……、はー。もういいですわ。なんならお父様の細胞も持っていけばいいですわ」

エクレア「少なくとも純粋な種族って点ではお父様やお母様の方が純粋ですし。平和になるなら協力もしてくれますわよ、たぶん」


伊良原「そうか。だが研究後は当人に返すがな。暇な時はどこにいてもいいが、外出時はうちのサンプルか結凪を連れて行ってくれ。最近は妖怪の傭兵化や、神の失踪などキナ臭いことが多い」


エクレア「はいはいわかりましたわ。というか、そのサンプルって呼び方どうにかなりませんの?――研究者だから一々名付けていられないってのはわかりますが……、聞いててなんか腹が立ちますわ」


伊良原「じゃあお前がつけてくれ。優秀な個体にはアントナンやらカレームやらブリッツやらつけているんだが、いかんせん数が多い。2号も芸がないだろう?」


エクレア「その子って3時間……というかもう2時間ちょっとな気がしますがしかいられませんのよね」


伊良原「髪の毛の量を増やせば延命は出来るが、……俺の今の技術だとそうだな」


エクレア「……自分で言ってあまり思いつきませんでしたが、そうですわね。――じゃあせめて生まれてきた奇跡を『félicité(フェリスィテ)』でどうかしら」


伊良原「こいつはフェリスィテか。らしいぞフェリスィテ。……3時間後にはもう一度名付け親を頼むぞ」


エクレア「ってこの子を延命できるんじゃありませんの?わかりましたわ!――何度でも名付けて上げますわ!」

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