2019年2月2日 頼もしい助っ人

――朱鷺森市 美術館併設喫茶店:紅葉――


夏水「ふぅ。奉、2番さんにブレンド」

奉「は、はい!ただいま」


彼岸「人は何のために生きて何のために仕事をするのか……何故私には素敵な彼氏ができずに居候のイチャつきを見せつけられなければいけないのか……」


▶彼岸が紅葉の隅の方の席でうなだれていますね


奉「ブレンドでーす!彼岸さんは朱鷺森から出たりしないんですか?」


彼岸「一応表向きの仕事もあるのでそう簡単にはいかないというか、居候の面倒を見ないといけないと言いますか……」


奉「大人ってやっぱり大変なんですね……。先生も4月から転勤らしくって……」


彼岸「大人は大変ですよー……ええ、本当に。――見捨てて転勤するにしても誰がアレの面倒を見るのか……」


夏水「面倒見るなら出張行ってくれるのか?」


彼岸「え?……ええっと、まあ、面倒事でなければまあ」


夏水「ならちょうどいい。同士にはこっちから黙らせることにするから、ちょっと岡山まで行ってくれないか?……警察の人手が少なくなってるみたいでな。適性のある警官が必要なんだ」


彼岸「岡山ですか?それはまた遠い……。まあ、尾花さんの面倒から開放されるなら何でもいいですけど」


夏水「最近俺の前でもイッチャイチャイチャイチャするから目に余ってたんだよ。これを機会にあのカラスに引き取ってもらわないと」


奉「いいですよねえ……。ああいうラブラブって感じ」

夏水「交通費は出る。場所は白雨だ。わかるか?」


彼岸「本当は、記憶を取り戻すか元の家族が見つかるのが一番いいんですが、行方不明者とか失踪者のリストにも当てはまらないんですよね……あ、はい、大丈夫です」


夏水「転勤の手続きはこっちでやっておく。――あー俺もこういうの慣れちまったなぁ……」


彼岸「慣れたくないことに慣れるものですよ、人生は……」


――白雨市 警察署:署内――


▶笠岡が執務をしていると、六納が図々しく絡んできます


六納「笠岡さーん。今日から新入りの子が入ってくるらしいですよ。美人だといいんすけどね」

鹿金「そっすねー」


笠岡「別に、誰であろうが優秀ならいい」


馬面「笠岡さんは硬いっすねー俺らみたいにもっと遊べばいいのに」

鹿金「ねー」


笠岡「……チッ。まだなのか」


▶彼岸が慌てた様子で署内に入ってきます


彼岸「……えー、あー、どうも。本日付で配属されました、鏡崎彼岸です。よろしくお願いします」


六納「おー……」

鹿金「よろしくっす」


笠岡「ここの実質警部の笠岡だ。詳しい話はこちらへ来てくれ」

彼岸「はい、分かりました」


馬面「えー。かわい子ちゃんに興味ないんじゃないのかよー」


笠岡「新人教育を押し付けたのはお前らだ。諦めるんだな」


鹿金「ちぇー」


――白雨市 警察署:応接室――


▶応接室に彼岸を入れると笠岡は印字を組み、ドアごと結界を貼りますね


笠岡「さて……。臨兵闘者――  ……人払いの結界をした。今回呼んだのは悪鬼の適正警官が、白雨に俺しかいないという点だ」


彼岸「……ええ、まあ。そういう風に聞いています」


笠岡「早速ですまないがこれを見てくれ。先日、裏山で不審死があった。これはその写真だ」


▶机の上に写真を丁寧に並べます。肉が抉り取られた鹿の写真や、バラバラになった人の写真、それに白い蝶が群がっている写真などがありますね


彼岸「これは……酷いものですね」


笠岡「正直死んだ奴はどうでもいい。――問題はこっちだ」 


▶笠岡は鹿を指差します


笠岡「俺や羽川探偵が入るまで、ここには草踏みの後がなかった。だが、この鹿を見てみろ。乱雑になっているが、よく見ると首が裂かれてる」


彼岸「……そうですね」


笠岡「俺はずっと周りを注視していたが、人の入った形跡はなかった。更に、写真には映らないが、こいつの周りには悪鬼が発生していた」


彼岸「悪鬼が?まさか……、こんなものにまで発生するものだとは……」


笠岡「畜生にも発生することはある。あるんだが、場所が問題だ。こいつには、腹に出来ていた。人間か妖怪か……。外部の手がないとこういうのは発生しない」


彼岸「誰かによって作り出された、と?」


笠岡「そうだ。後で詳細な資料を渡すが、この街には白死蝶というのがいてな。――この写真にも写ってる。本来、白死蝶が写真に映った記録は今までない」


▶笠岡は白い蝶が群がっている写真を指差します


彼岸「白死蝶は……、本来であれば悪鬼のような、現実のものではない存在ということでしょうか?」


笠岡「そのはずだ……。紅葉にも依頼しているが、うちも含めてこんな田舎だと人手が足りなくてな。しばらく調査に協力してくれると助かる」


彼岸「分かりました。――こちらの紅葉の方とは顔合わせした方がいいでしょうか?」


笠岡「その必要はない。記録によると、お前は朱鷺森の英雄らしい。今の紅葉の自由に使える駒全員でけしかけても、お前なら勝てるだろう。――まだ、誰が事件の犯人かわからん。裏切りの可能性もある。しばらくはこっちで実務をしてくれ」


彼岸「そうですか。……では、また必要があればお呼びください」


笠岡「ああ。頼むぞかわい子ちゃん」

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