第8話「鬼が守る孤島③」

「もう、来ちゃったんですね。私が人を殺していたんです。森に来た人々を、ね」


海咲の姿は人間のそれでは無かった。


「頼って、くれなかったんですね。同じ目的を持っていたのに」


弥勒の言葉を彼女は鼻で笑った。


「同じ、ね…無理に決まってるわ。貴方たちに言っても変わらない、これは私が

すべきことだもの。邪魔はさせないわ!!!」


うねる触手を躱し、海のほうを見た。風も出てきて海も荒れ始めている。

遠くから悲鳴も聞こえる。


「ねぇ、釜萢かまやち大地だっけ。貴方はここに残って。能力があるんでしょ。

それと他の団員の人たちは島民を保護。私は戦力外になっちゃうから、一緒に

参加するよ」

「分かりました。こっちは任せてください、どうにか海咲さんを抑えます」


その場を職員と自警団の団長である青年、釜萢大地に任せて弥勒は他の自警団の

メンバーと共に島民の避難の手伝いをすることにした。

東西の海を比べると東側の海のほうがあれている。


「少しだけなら、容態を軽くすることが出来るかもしれない…!」

「本当ですか!?」


自警団の抱えている島民の顔から血の気が引いていた。目も虚ろになりかけている。

中年の男にそっと手をかざすと橙色の霊力が体を覆って、多少気分が良くなった

ように見えた。


「特に体調が悪そうな人は私のところに来て。少しだけなら軽くできると思うから。

島には全員に避難勧告とか出されたんだよね?」

「はい。もう多くの島民が避難をしているはずです」


流石にこの嵐の様子と海の荒れようを見れば島中に避難勧告が出されるのは

当たり前だった。

島の人間達の避難は順調のようだ。


「おぉ、おったか!龍神様と話をされたという人はアンタかね!?」


老人は杖をつきながら歩いてきた。今にも吹き飛んでしまいそうなほど弱々しい

老人に弥勒は声を掛けられた。


「嵐を、今の状態を抑えることが出来るのはアンタしかおらん。さぁ、来てくれ」

「あ、でも―」

「行ってください。こっちは俺たちでどうにかなるんで」


島には幾つものメガホンがある。ほら、午後5時になるとチャイムが鳴るでしょ?

それを流すもの。流すところまできて弥勒は突然、この楽譜通りにピアノを

弾けと言われた。


「この曲は…」

「島に伝わる鬼の唄さ…さぁ、急いでくれ」


急かされて弥勒は鍵盤に手を置いた。一呼吸してからピアノを鳴らす。

その音はすぐに島全体に流された。戦っていた職員たちと海咲、そして人々の避難の

手助けをしていた自警団の男たちまでも手を止めて聞いていた。


「なんで…嘘…だってあの曲について弾ける人はいないはずなのに…」

「青龍」


紡がそう呟くと彼女は目を丸くした。


「弥勒さんは青龍と出会っていたようです」

「そんな…」


嵐が晴れてきた。海のほうから大きな何かがやってきた。丘の上に立ったのは

職員と弥勒、そして海咲。巨大な龍の姿が変化した。見かけたことのある男は

地面に降り立った。


「お前が今の鬼か。なんて悲しい顔をしている、そんな顔のまま唄を

唄われても俺の耳には届かない」


彼女を一瞥してから彼は弥勒と霊障特別対策課の職員たちを見た。


「妙に霊力が高い者が多いと思ったら、この娘も含めお前たちは皆…

警察だったのか」


再び彼は空中に浮かび龍の姿に変化した。


「俺はここの守り神。離れるわけにはいかない。月守弥勒…お前の霊力は

無限の姿を持っている」


龍は海底に姿を消してしまった。すると海咲の体に異変が起きた。

鬼としての姿を失ったのだ。


「これが龍の加護なのかな…?」


翌日、船は港を出て行った。

島では龍神様が怒ったからという理由で更に信仰心が深まったらしい。

穏やかな海で最後に弥勒は青龍と出会うことが出来た。


「今日中に帰るのか」

「はい。今回はありがとうございました。少し不安だったんです、私は他の人と

違って能力は無かったけど…そういう能力なんだって」


幾つにも変化させられる霊力。それ自体が彼女の能力なのではと彼は

指摘したのだ。


「構わんさ―」


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今日からオカルト警察のお仕事をします。 花道優曇華 @snow1comer

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