第7話「鬼が守る孤島②」

「…それで、その男の名前とかは聞けてないんですか?」


城戸一誠は月守弥勒が出会った男の話を聞いた。他の職員も耳を

傾けていた。


「聞こうって思ってたんだけど、思ってたんだよ?でも、言うだけ言って

すぐに消えちゃったんだよ…」

「瘴気を取り込み過ぎた“龍”…?海魔については、それが個体名ですから龍だった

なんて記述はありませんでしたよ」


紡はそう言った。彼は島の人々への聞き込み、そして図書館で資料という資料を

読み漁っていた。男が話していたことと、島にある文献と違う点があった。


「僕と一誠さんもある程度、調査した後で浜辺に行きましたがそんな人に会うことは

出来ませんでした。もしかすると弥勒さんにだけ姿を見せてくれるのかも」

「じゃあ、その理由は?」

「それは…弥勒さんに何かを感じた、とか…?」


一誠の質問に対して紡は曖昧な返事をした。

夜が明けて二日目。再び弥勒は浜辺に出た。


「最近は変わった式神が辺りを飛び交っているな」

「あ…」


昨日見た男は再び姿を現した。上にあげていた視線を前に向けて微笑を浮かべる男は

ゆっくり深呼吸した。


「やはり近付いている。嵐と共に海魔となった龍が来るだろう」

「あの…貴方の名前は、なんて言うんですか?それに―」

「青龍、お前が知りたい真実は明日にでも語ってやろう。明日、嵐が来る。お前の

仲間は山を探索しているのだろう。だからそろそろ穏やかな日が終わる」


海のほうに近づくと彼は呟いた。


「荒れる海を恐れるな。お前たちの知っている穏やかな海を信じれば良い―」

「弥勒さん!」


声を掛けられて弥勒は振り向いた。慌てた様子で紡はやってきた。


「どうしたの?」

「弥勒さんが違和感を感じていた船員の方が行方不明になりまして…!」


天羽海咲の突然の失踪。調査も進んできた。だが、彼女の存在は。

もしも、先ほどの青龍と名乗った男の言う事が正しいなら…。


「私、昨日見た男の人と話をしたんだ―」


伝承、その中には鬼が嵐を呼ぶとされていた。唄によって呼び寄せられた嵐。

その唄を聞いた人間はいない。全員屋内に避難していたからだ。

その夕方頃。


「今、青龍って言ったのか!?」

「う、うん…!」

「その男…龍だっていうのか…」


確かに青龍と呼ばれる龍は存在するが信じられなかった。人間と変わらない姿、

見ても大きな差異は感じられなかった。


「上手いこと、人間を装っていたんだろう。弥勒さんに声を掛けた理由は、まぁ…

変わった人間だから、とか?」

「なんか複雑だわ。変わった人間って言われるの…」


変わったと言っても、馬鹿にしているのではなく他とは違うという意味だ。

海のほうを見ても荒れるとは思えない。山の中にあった大きな穴、龍穴と呼ばれる

場所のサイコメトリーを行った職員は確かに天羽海咲の姿を確認したと言っていた。

彼女は鬼、そしてもうすぐ嵐を呼ぼうとしている。


「守るためにじゃない…こんなことをしても、意味がない…」


だって海魔の正体は―!



海の奥底。鳥居の底。


少し、教え過ぎてしまったかな?


今でもあんな霊力を持っている人間がいると知ってはしゃいでしまったんだよ。


この案件が片付いたら、式神として仕えても良いなって思ってしまうぐらい。


調査三日目、島の天候は崩れていた。

黒い雲が空を覆っていた。職員は全員、祠に集まった。そこにはそう、

天羽海咲がいたのだった。


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