第6話「鬼が守る孤島①」

船で揺られて職員の一部は静岡県内の孤島、R島へ向かっていた。


「船とか初めて乗ったんだよねぇ。あんまり遠出とかしない家だったし」

「修学旅行気分ですか? 仕事もちゃんとしてくださいね?弥勒さん」


紡は隣で海を眺める弥勒にそう言った。高校卒業したての少女の心には

まだ純粋な楽しむ気持ちがあるようだ。大人になると、そんな風に何事も

楽しむと言う事が出来なくなってくるかもしれない。


「R島の事、色々調べて貰っちゃった。元々鬼が唄う島って呼ばれてて、

伝承が残っているみたい。鬼はこの時期、お盆に現れる海の怪物、魔物なんて

呼ばれてるらしくて、それを鎮めるために存在するらしい」

「そうなんですか。じゃあもしかして今回僕たちが呼ばれたのは…」


その魔物を鎮める手伝い、かもしれない。だが島の調査は頼まれている。

島に到着して職員は全員船を降りた。

その直後に島の自警団を名乗る男たちがゾロゾロとやってきた。


「なんだ、お前ら。外から来たのか」

「はい。霊障特別対策課でこの島の調査を…あ!もしかして島の人?良かったー!」


と、勝手に盛り上がっている弥勒にリーダーの青年が槍を向けた。

名前もまだ名乗ってくれないが、彼もまた霊能力者らしく魚のような式神を

仕えていた。


「あー、島の事を嗅ぎまわってたのはお前らか。帰れ帰れ、どうせお前らも

役立たずだ」


シッシッと彼は追い払うような仕草をする。


「森の遭難者だよね。お前らもって事は私たち以外にも探しに行った人がいたんだ」

「それがどうした。兎に角、帰れ。森に近づくなら容赦しねぇぞ」


そう言うと彼らは踵を返した。だが弥勒たちは帰るつもりはない。さっきの

態度からすれば島で何かが起こっていると言う事を証明しているようなモノ。

事件を解決するのに尽力するのは当たり前。


「・・・・」

「どうしたんですか、弥勒さん」


弥勒は後ろに目を向ける。何やらボーっとしている船員の女性、天羽海咲に

ついて気になる。


「霊力があるんだっけ…何だか、引っかかるというか…ううん、やっぱり何でも

ない。島で伝承の事とかを調べつつ、さっきの自警団の人たちと交渉して

森の中を探させてもらおう」


それぞれ島を探索するグループと説得するグループに分かれることになった。

船に乗っているときに弥勒は何人かの霊たちに出会った。最近死んだ霊は殺された

人間だった。昔死んだ霊の多くは溺死だった。それも皆、嵐の中で海に近寄って

命を落としたらしい。


浜辺を歩く弥勒は一人で過ごしていた。きっと戦うことが出来ない弥勒が説得に

行っても彼らに突っぱねられるだけだろう。


「外からわざわざ様子を見に来てくれたんだな。風の噂で霊たちが起こす事件を

担当してくれる警察がいると聞いたことがある」


彼女に声を掛けて来た男は青い髪をしていた。少し人間らしくない、浮世離れして

いるように感じられた。彼は弥勒を見て目を丸くした。


「ほぅ、人間らしくないほど霊力が高いんだな。更に驚いた」

「え?どうして、そんな…」

「見れば分かる。海の魔など、本来はいない。いるのは龍神だけ、それが海に

流れ着いた瘴気を取り込み過ぎて怪異に変化しているだけさ」


彼に手を引かれて隣を歩く。


「あの、島に長い間住んでいるんですか?」

「あぁ」

「島に海魔を鎮めるために存在する鬼がいるって、何か知りませんか?」

「鬼はな、代々受け継がれていくんだよ」


潮風で髪が揺れる。


「皆、この時期は海を怖がる。海は恵みであり畏怖する対象―」


強い風で思わず弥勒は目を覆った。そのあと、視界には先ほどの男は存在

しなかった。一つ、隣には足跡が残っていたが波に流されてしまった。

R島の調査1日目、島での突然の嵐による船の転覆事故についてや島の伝承の

詳細。それらが情報として手に入った。

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