第5話「霊障テロリズム⑤」

体が重い。

全員がそう感じる中、照之以外で例外がいた。


「大丈夫、なんですか…?」

「うん…少し疲れたけど全然、そこまでは…」


体力、霊力果ては生命力までも吸い込み続けている照之は目を丸くした。


「(なんだ、この人間…! 倍以上の速度で吸い込んでも底が見えない!!)」


底なし霊力に笑うしかなかった。


「高過ぎだろ…課長…!」

「えぇ!?そんな高いの!!?」


本人もこの反応である。

だが弥勒には対抗手段がないに等しい。そこからどうすればいいのだろうか。


「弥勒君、少し…良いかな…これから、少し使い方を教えてあげるよ」

「でも私…」

「大丈夫。やってごらん、僕の言う通りに―」


霊能力は本来なら誰にでも存在している道具。なら何故、多くの者が使えないのか。

それは幾つか理由があるが大きな理由は二つ。

一つは霊力の有無、もう一つは前者があるのを前提としてそれの扱い方を知っているか否か。弥勒は何度も説明している通り霊能力が極めて高い。だがそういった事象

とは無関係の生活を送っていたからだ。

少しして辺りに張られていたらしい結界に変化が見られた。


「橙色の波紋…弥勒ちゃんの霊力か?」

「少し体力消費などが抑えられている気がします」

「そりゃあ弥勒ちゃんが調和していくれているからね。この調子なら、さっさと

片付けられるんじゃないのかな。僕はそう言うのには向いていないから難しいけど」


憶人は手をヒラヒラとさせた。

テロリストは全員捕縛、北村源次は東野ハクトと共に極刑を言い渡された。

西宮寿葉は未成年と言う事もあって能力者の更生施設に入ることになった。

霊障特別対策課、治療室に連れてこられた月守千景は傷口の手当てを受けながら

質問に答えていた。


「さぁ? ただ単に鈍感なだけなんじゃないのか。あ、調べるなら月守家じゃなくて

粂野家を調べると良い。俺は元々月守家の人間じゃないから」

「…すみません。僕ではここまでが限界で、何か気になるところはありますか?」


紬は千景にそう聞いた。千景は軽く体を捻ったり、肩を回したりしてから首を

横に振った。


「今までと変わらない。助かったよ」


立ち上がった千景はドアノブに手を掛けた。


「これからも頼むよ。弥勒の事…」


ドアは音を立てて閉じられた。

資料室にもあった。霊障としてではなく虐待事件として粂野家は取り上げられて

いた。父と母、そして息子。発見された当初、少年は痛々しい傷を負っており

それが証拠で両親は逮捕。子どもは一度、施設に預けられた後すぐに月守…

弥勒の祖父によって引き取られたがすぐに死んでしまい弥勒の叔父に預けられ

今に至る。


「粂野家…かつては術者の一族だったらしいな。すっかり力は無くなったみたい

だけど」

「SPの千景とかいう男のあの異常な耐性も頷けるってワケか」


伊槻は背もたれに体重を掛けた。藤代若葉の腹の中の子ども、屍鬼との子どもは

彼女自身の判断で産まないことを決定した。しかしすぐにもう一人の子どもが

出来た。その子どもは正真正銘藤代若葉とその新しい夫の間にできた人間の子だ。

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