第3話「霊障テロリズム③」
「それで…肥田さんはどう考えてるんですか」
城戸一誠は肥田憶人にそう聞いた。先日の下見調査で火の術式を
発見した月守弥勒の事だ。本来、彼女の年齢で課長ましてや正規の
警察官になることも出来ない。ここの特徴が他と異なるために警察官に
なることが出来たのだ。
「霊力が高いとそういう目も良いのかもしれないね」
「高いけど能力が無いって変な感じですね」
「それはきっと彼女自身が霊力の使い方を知らないからだよ。見た感じ、彼女の
家系は僕たちの大半のような術者の一族ではないからね」
資料室には個人情報なども存在する。一番真新しい名簿には弥勒の情報が
寄せられていた。
両親等の仕事や経歴、そして従兄に至るまで…。
その日、弥勒は今回のテロリストの正体であろう組織「黒山羊」の元リーダーと
対面することになった。
「おや、警察官にしては随分と若い。西宮くんと同い年か、その近くか…」
「月守弥勒です。初めまして東野さん」
東野ハクト、彼は飄々とした顔をしていた。対して弥勒は裏表のない穏やかな顔を
して彼を見つめていた。
「死が救いって本当ですか?」
「だってそうでしょう? 友も、家族もいない世界に意味などありません。貴女には
まだ縁遠い話かもしれませんが」
「うーん…そうかも。あ、でも大丈夫! 私、死ぬことには凄く躊躇いがあるって
いうかそんな勇気無いから!」
年頃の反応を見せた弥勒に対し相手は態度を崩さなかった。
「一番若い西宮にも君のような精神力があったら、また違っていたかもしれませんね
彼等にとっては死は救い」
対談を終えた弥勒はすぐに指示を出した。
西宮などの残党について片っ端から調査をすること。
意外と早く情報が集まった。その中で気になる単語を見つけた。
「屍鬼…って何?」
「人食いって奴ですよ、簡単に言えばね」
清正栄一郎はそう告げた。そんなのがいるんだ…、初めて知った。やっぱり普通は
通用しないのか。
「もしかしたら西宮…西宮寿葉はその一族の人間かもしれませんね。我々に対して
恨みを持っていても可笑しくありません」
「何だか理不尽だね。私よりも年下なのに世界に絶望するとか…どこの悲劇の
ヒロインだよ」
「本人にも言ってやってくださいよ。もうすぐ当日です。グループ分けも固まって
きましたし、貴方もドレスを採寸してもらってはどうでしょうか?」
採寸等を担当してくれているのはユエンという男だ。オネェ口調。
「あら、ちょっと裾が短いわねぇ…手足が長いのかしら。ちょっと待ってね」
何着か見てみた。赤色も良い気がしたが似合わなかった。少しして長さを
調節してきたユエンは青いドレスを見せた。
「これでいいはずよ。弥勒ちゃんは能力を持っていないから、特に何かを
する必要は無いわね」
「ありがとうございますユエンさん」
「もう!さん付けで呼ばなくてもいいのよ、呼び捨てで」
何て言ってくれて。
弥勒を含めた他の職員も気付かなかった。一人、他の作業をしていた清正栄一郎の
身に何かが起きていた。それに気付いたのは彼が倒れてから一時間弱経ったとき。
職員の調査(サイコメトリー)で例のテロリストが関わっているのではないかと
判明した。彼の扱う式神たちもその顔を見ていたようだ。
「つまり…俺たちが調べていることは相手もお見通しって事か」
呟いたのは結城時彦だった。彼は警備員として捜査に参加する。
職員同士で相棒を組んでいる者がいる。彼と相棒を組んでいる人物、
箕輪紡は給仕として潜入する。
「白い手袋なんだ」
「はい。流石に黒い手袋で給仕はちょっと…」
彼は気を操ることが出来る。特殊な手袋を通して行うことが多い。
「弥勒さんも参加するんですよね。気を付けてください、身の危険を
感じたらすぐに避難を」
「う、うん。気を付けるよ」
そうして結婚式当日を迎えた。メディアの数は少ない。それぞれ招待客として
訪れているときは偽名で呼び合う。警備員として潜入している時彦はたまたま
月守千景と話をした。
「あの聞いても良いですか」
「あぁ」
「弥勒ちゃ…弥勒さんっていつから霊とかが見えるようになったか知ってますか」
「小1じゃないか? 祖母の家に泊まった時に泣きべそをかいていた。その時に
障子に人影が見えて声を掛けられたと聞いた」
千景は話しつつも辺りに目を向けていた。仕事をしつつも昔話をしている。
「俺も一緒だったから、そのあとに俺の部屋で寝かせたけど…。そうだ、霊能力とか
そういうのは元々全員持っている物なのか?霊力が高い高くないとか、俺には分からないが」
「生まれつきの人もいれば後天的に持つ人もいますよ。能力が発現して事件を
起こしちゃうとかもあるんで…」
「そうか」
開かれた式典。
ウエディングドレスを纏った藤代若葉は微笑を浮かべていた。隣には新郎が、
そして近くには彼女のマネージャー?である男がいた。名前は確か辻村照之。
順調に進んでいくが、それに対して多くの職員が疑念を抱く。
千景たちSPも困惑。
「可笑しい…何事もなく進むのは良いことだが起こらな過ぎる…」
客として出席している弥勒も顔には出さないが少し困惑。何事もない、だから余計に
不安になるのだ。そのうち何処かから悲鳴が上がる。
「ひ、人が…人を食べてるぞ!!!」
一人が悲鳴をあげると周りも取り乱すと言われている。その通りに周囲の人たちに
同様は波紋のように広がった。更に場を混乱させるようにテロリスト「黒山羊」は
やってきた。
「久しぶりじゃねーか霊障特別対策課の犬ッコロ共! 突然で悪いが全員、死に
やがれ!」
弥勒は誰かが投げ捨てたマイクを拾って叫んだ。
「要人と一般人の保護を最優先! そしてテロリストを確保!!操られている一般人に
怪我は負わせずに無力化!!」
職員が全員動いた。真紀もまた声を上げる。
「私たちは要人警護を最優先だ!!」
千景や真紀たちは若葉の元へ駆け寄る。そうはさせまいとテロリストのリーダー格、
北村源次は銃を発砲した。だがその弾はテーブルに当たっただけだ。
「私が彼女を外へ逃がす。お前が気を引け」
真紀はそう千景に指示した。火の術式が発動し、辺りは紅い炎で包まれている。
「弥勒さん!」
「時彦さん、紬さん!みんな…!」
弥勒は辺りを見回す。
被害は大きい。予め確認しておいた避難経路はどうにか確保されており
全員がその道へ走っていた。
「あの人の周りに巻き付いている蛇みたいなやつ、どうにか解呪できないかな…
それにあの女の子、西宮寿葉ちゃんも無事に保護したい」
「千景さんも動いてるし、俺たちは西宮って子を抑えることと蛇の解呪、そして
一般人の避難誘導と安全保護を優先するか」
全員が頷き合って散った。
避難誘導を行っている憶人は辺りを見回す。
「酷い有様だね。さぁ、お前たち。外に出るまでの道はしっかり守るんだよ」
黄色い炎は答えるように発光した。
「アンタも霊障特別対策課の職員?」
「えぇ、そうですよ。この道に進んでください。大丈夫、安全は保障しますよ」
「ありがとう、助かるわ」
真紀と若葉は階段を下る。
「あの、ありがとうございます」
若葉は振り返り礼を言った。憶人は手を振って見送った。
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