第2話「霊障テロリズム②」

「初めまして九条真紀と申します」


女性は礼儀正しく体を折った。何処かぎこちなく弥勒も頭を下げた。


「良いんですよ、無理しなくて。別に私たちは特別目上というわけでは

ありませんし」

「え、良いんですか? じゃあお言葉に甘えて」


肩の力を抜き弥勒は一息ついた。真紀は千景と弥勒の顔を見比べる。

そして笑いを零した。


「ごめんなさいね。あんまりに月守と顔が似ている物だから」

「やめてくださいよ…で、仕事の概要だが式典だから基本はドレスコードとかの

服装だ。式典の警備と給仕、そして招待客を装って警護する。そちらでも参加する

職員にはそのことを伝えておいてくれ」

「了解です!」


そのあとに警察側で進められている事件について話をした。

あちこちで死体が発見されており子どもが多いらしい。各地の小学校、中学校など

では集団下校などを行っている。


「何か関連があるかもしれない。数人、職員を向かわせたらどうだ?」

「そうですね。そうしてみます」

「―」

「…?」


弥勒が返事した後に微妙な空気が二人を包んだ。


「…やっぱり距離感が掴みにくいな」

「一ミリたりとも掴めてないわね、どっちも…」


真紀は呆れたような溜息を吐いた。

そしてやっと立ち上がると体を伸ばした。


「あたしはこの事を報告してくるわ。そうそう、こっちのリーダーが折角だから

ゆっくり話でもしたらどうだって。じゃあね赤の他人のあたしはお先に失礼させて

貰うわ」


扉は閉まり、二人は暫く黙ったまま視線を泳がせていた。


「お前も、参加するのか」

「そのつもりだけど…やっぱりダメ?」

「反対だよ。家族を進んで危険な仕事をさせる奴がいるか」


千景の声は低かった。心配をしているのだ。今回の仕事は特殊だから。

だが弥勒は首を横に振った。


「覚悟がないなら、仕事を受けてないよ。命大事に、そしてガンガン行こうぜって

作戦だもん!!自分がやりたいと思ったことをやって何が悪いのさ!!!」


弥勒は初めて声を荒げた。千景も驚いて彼女をジッと見つめていたが少しして

彼女は恥ずかしくなった。

あぁー…やっちまったー!!


「そうだな…そうだった…。弥勒が決めたことに俺がケチをつけることは

出来ないよな」


微笑を浮かべた千景はそう言った。さっきまでとは違う、従兄としての顔を

弥勒に見せた。


「久しぶりに会えて良かった、綺麗になったな弥勒」

「あ、ちょっ―!!」


引き留める前に千景は部屋を出て行った。

結婚式当日まであと7日となった頃に調査は進められた。残り3日、式場の下見に

やってきた警護の参加者。


「…流石に大きいわね。敵が入れるところも結構ありそうだけど」

「結婚式当日の3日前、爆弾等は見当たらないか…弥勒、何か職員の捜査等で

分かったことはあるか」


分かったことならある。数年前に抗争を起こした集団の残党。彼らが再び

動き出したと言う事。


黒山羊ゴート…そうか。その集団は確かに霊障特別対策課と対峙し多くの

人間が確保されていたな」

「うん。こっちでも参加していた職員は多いから、狙っているかもしれない」


次の場所へ動こうとしたときに弥勒が視線を別の方向に向けた。

並べられたテーブル、既に白い布が敷かれている。弥勒はあるテーブルに近寄ると

中に潜り、そして


「あ、あ、あったぁぁぁー!!火の術式が仕込まれてるんだけど!!」

「どれどれ…」


そう言って入れ替わるように潜っていったのは肥田憶人、テーブルクロスの下に

潜った彼は何やら声を上げていた。「ううん?」とか「おや?」とか…。


「その、よく見つけたね。僕にはどうにか見えるか見えないかって感じだよ。

上手いこと隠されていてね」

「解呪ぇ…」


憶人は自身の胸の前でバツ印を作った。弥勒は頭を項垂れた。

その様子を見ていた月守千景と九条真紀は首を傾げていた。


「私たちには分からないことだらけね。ねぇ弥勒ちゃんって呼んでもいいかしら」


弥勒が頷いて見せると真紀は笑った。


「弥勒ちゃんたちに任せるわ。そういう霊障の事は全部、貴方たちには他の人よりも

多くのものが見えているから…さぁ、行くわよ」


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