貴方の花を落とした日
@ayanamiandasuka
椿の花を落とした日
「結婚…し、よ」
二人が休みを取れる、夏の一番始めの日曜日。
そう言われた時、本当に嬉しかった。
やっと、やっと私にも幸せの時が訪れたのだと、心から嬉しくて、彼に抱きついて泣いた。
彼を見る度々に泣いてしまって、でも彼は目の前で泣く、そんな私をずっと見守ってくれていた。
「やっと、私にも、私にもダンナさんが出来るんだ…」
一人、彼の目の前で呟いた。
ドアの横に座る彼は、そんな私をずっと見守ってくれていた。
✣
「あれ、柳?久しぶりじゃない?!」
その次の日、私は街中で、高校生時代の友達の梅に会った。
「あ、桜。久しぶり、元気してた?」
「てか、ウチら最近連絡してなくね?!てかアンタ大丈夫そ?!元気してる?!」
「私?見るからに元気でしょう?」
「本当に?なんかあった?」
「そう、昨日、彼が結婚をしようって、言ってくれたの。
でね、私に結婚式場を選ばせてくれたんだよ。」
「そっ、か……ごめん、時間だわ。じゃね!」
梅は、何か怖いものをみたような顔で私から離れていった。
彼女は昔から、好奇心旺盛で色々な物に興味を持っていたから、今度はオカルトかマルチ商法にでもハマったのだろうな。
そう思いながら、綺麗なお洋服と、彼に似合うジーンズとパーカーを買った。ついでに結婚情報紙を買って、まだ見えない彼の部屋の目の前に置いた。
今日は彼が最近家事をやらなかった埋め合わせ当番なのに、部屋から出てきてない。
今日だけではない。ここ最近、ずうっとだ。
呼び掛けても答えてくれない。
昨日、ズル、ドサ、って、何か壁とドアに擦り付けられたような音がしたけど、呼び掛けても答えてくれなかった。
そのまま、一夜が明けた。
✣
「ねぇ、一緒に雑誌のドレス見よう?」
次の日も、
✣
「あ、そういえばアイス買ってきたよ。ねぇ、食べようよ。」
その次の日も、
✣
「もしかして、私の事嫌になった?」
そのまた次の日も、
✣
「マリッジブルー、って奴、なのかな…ねぇ、」
今日も彼は答えてくれない。
✣
「ねぇ」
今日は日曜日だよ?ねぇ、貴方がいないと寂しいの。
そうやって、何回も何回も呼び掛ける。
けど、彼は答えてくれないし、答える気はないみたいだ。
最近は家事を埋め合わせする日が続いてた日だから、部屋の中は少し淀んだ空気が溜まってる。
その空気は、彼の部屋が一番おもだるい感じがする。
「仕方がない、か。」
彼の部屋を開けてみよう。
そう思って、彼の部屋のノブに手をかける。
思いきって押してみると、がががが、と言う音と共にドアが開いた。
「失礼、しまぁす。」
小声で呟いてみる。意味はない。
一足踏み出すと、足元にヌチャ、と粘っこい物がつく。
最悪。こんな所でしてたの?
「ちょっとも~、やめてよぉ」
足を床に擦り付けて、液を跨ぐと、今度は軟らかい物に当たる。
暗い部屋ではわからないが、クッションだろう。
少し濡れてるし、なんか人の腕と同じくらいの太さで、抱き心地よさそう。
「ねぇ、椿くん?」
ドアの裏を見ると、寝たように転がる椿くん。
あの液体に囲まれて、死んだように眠ってる。
「あはは、椿くん、汚いなぁ。」
椿くんの細い首に触れる。
彼の首は、多分今でも真っ白いんだろうな。
そう思いながら、うなじから喉仏まで、一直線に手刀を走らせる。
なんか、暖かい鶏肉をさわってるみたいな感じ。皮膚、あるよね。
「…え、」
椿くんの首から、ぼりゅ、という手の骨を鳴らしたような音がする。
それと共に、ドア方向を見ていた首が180度ぐるんとこちらを向いた。
「椿、く、」
××××××。
そうだった。
「私は、椿くんを、」
貴方の花を落とした日 @ayanamiandasuka
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