第5話 旅立ち

「大丈夫かー!!」


誰かがきたのがわかった。

彼は何か話していた。それは、自分へむけてなのか、(冷酷なる槍)にたいしてなのかもはや判断がつかなかった。


「ワレノ タカラヲ カエセ」


「あんたの宝はこれか?

悪かった、これで勘弁してくれ」


アルドは衛兵から強引に渡されたエメラルドグリーンの宝石を(冷酷なる槍)に渡した。


「ナラン キサマラハ ワレヲ オコラセタ」

「キサマラハ ミナゴロシダ」


「やるしかないのか、いくぞミーユ!」


「えぇ、いきましょう!アルド!」


(冷酷なる槍)との戦闘は半ば一方的な展開だった。(冷酷なる槍)の攻撃に二人は全く怯むことなく、的確に相手の隙をついていた。

見事なまでの連携プレーで攻守を入れ替え確実に(冷酷なる槍)を追い詰めていった。



(なんなんだ、あの二人の強さは。一人は小柄な女の子じゃないか!どうしてあんなに強いんだ…)

地面に横たわりながら血に染まったスカーフの衛兵は二人の戦いを見守っていた。



「アルド、ここで決めましょう!」

「わかった!ミーユに合わせる!」


そういうとミーユは地面を思いきり蹴って、高く飛び上がった。そのままの勢いで、(冷酷なる槍)の仮面を切りつけた。

(冷酷なる槍)の仮面は綺麗に真っ二つに割れ、魔物の顔が姿を現した。

仮面を割られた(冷酷なる槍)は、慌てて両手で顔を覆った。

その隙にアルドが(冷酷なる槍)のがら空きの胴体を真っ二つに切り裂いた。

アルドとミーユによって(冷酷なる槍)は討伐された。


その姿を見届けると同時に、血に染まったスカーフの衛兵も意識を失った。


「おい!あんた大丈夫か!?」


「いけないっ!アルド!早く、パルシファル

宮殿に連れていきましょう!」



_ _ _



「………ここは」

見慣れた天井だった。


「衛兵さん!!」

髪を左右で二つに結んだ少女が、胸の辺りで泣いているのがわかった。


「……アイシャか、よかった無事で。」


「それはこっちのセリフだよ!!衛兵さんこ

そ意識もなく運ばれてきたから、すごーく

心配したんだからね」

アイシャは声を聞いて安心したのか、それまで以上に声を上げて泣いていた。


「……それはすまなかった。

それと抱月のことなんだが……」



「にゃあ」

聞き慣れたネコの鳴き声が、足元から聞こえてきた。

身体を起こし足元を確認するとそこには、白い毛並みのオデコに三日月の模様のあるネコがこちらにむかって鳴いていた。


「………抱月?!」

抱月は、衛兵の知る限りでは既に息はしていなかった。息絶えていたのだ。


「どうして、抱月が生きてる?本当なの

か?」


「その説明は私からするわね。」

衛兵が寝ている部屋にラチェットとアルドとミーユの三人がやってきた。


「ラチェットか、それに……君たちはあのと

きの」


「身体は大丈夫か?」


「あぁ、おかげさまで。

あのときは…ありがとう。助かったよ。」

「とくにキミなんて、そんな小柄な体格で女

の子なのにとても強いんだね。」


「ありがとうございます。ですが、ワタシも

もっと世界中を旅をして強くなり人々を守

れるように頑張らなければなりません。」


「世界中を旅か…」


「はいッ!!一旦話を戻すわよ」

ラチェットは話を遮り、自分の話を進めようとした。


「ん?あんた血がついた服のままじゃな

いか。どうせ動けないんだから防具も全部

外したらどうだ?」

アルドが気をきかせて衛兵にそう提案した


「あ、あぁ………」


「………!!コラッ!!アルドなら早くでて

いきなさい!!」


「なんだよ急に?ラチェット!」


「あんたがタラシなのはしってるけど、それ

は駄目よ!」


「どういうことだよ?なぁミーユ!」


「アルド、ワタシも早く出ていった方がいい

と思いますよ…」


「あんたレディの着替えを覗くき?!」


「…………………えっ!?」

アルドは後ろに倒れそうになるが、寸前でどうにか耐えた。


「レディって……、完全に男だと思って

た………。 ミーユは気づいてたのか?」


「えぇ、ワタシも最初は半信半疑でしたが、

声が完全に女性の声なので」


「そうなのか、俺は全然気づかなかったぞ」


「あ〜そうかい、わかったならさっさとでて

いきな!」

ラチェットがアルドを部屋から追い出そうとする。


「いいよ。面倒だし、このまま話そう」

そういって、衛兵は兜に手をかけゆっくりと兜を外した。

兜からは深海のような深い青色の髪が肩あたりまでかかり、くっきりとした黒い瞳をした、ミーユにも引けをとらない美少女の姿がそこにはあった。

「そんな綺麗な顔してんだから、兜なんてつ

けなきゃいいのに」

ラチェットがもの惜しそうにいった。


「兜は衛兵の決まりだから仕方ないだろ」


「確かに、兜越しで聞くよりも女性の声だ

な!」

アルドは今さら納得した。


「それでナナミン!」

ラチェットが話を切り出そうとする


「 ナナミンって言うのか!変わった名前だ

な!」

アルドが驚いた様子をみせると、少し嬉しそうにラチェットが


「ナナミだから、ナナミン。可愛いでし

ょ?」


「もうっ!その呼び方はやめてっていってる

でしょ!」

青いスカーフの衛兵改め、ナナミンがプリプリ怒っている。兜を外してからは心なしか仕草も女性らしくなっている。


「ナナミ!?」

ミーユもなぜか驚いていた。


「いい加減、話を戻すよ!」

ラチェットが収集がつかなくなっていたこの場を強引にねじ伏せた。


「ナナミン。このネコの首輪には呪いがかか

っているわ」


「……やっぱり、その首輪が魔物を引き寄せ

てるの?」


「そうね。でも常にその呪いが発動してるわ

けではないみたいなの」


「どういうこと?」


「まず、その首輪には二つの呪いがかかって

いるの。」


「二つの呪い?」


「そう。吸収と再生の呪いがかかっている

の。吸収の力で魔物を呼び寄せて、その魔

物の攻撃を自らの身体に受けることで、そ

の魔物の魔力を吸収してるの 、そしてその

吸収した魔力を使って今度は自らの身体を

再生させる。これが吸収と再生の呪い

よ。」


「……酷すぎる」


「そう、だからそのネコは死ぬことはない、

そのかわり永遠に魔物から傷つけられるこ

とになるわね。

今回そのネコが無事だったのも再生の呪い

が発動したためよ」


そう言われ、ナナミは(冷酷なる槍)に貫かれた抱月の胴体に目をやった。そこには傷痕だけが残り、それ以外には特に変わった様子はみられなかった。しかし、よくよく抱月を見てみるとその身体は今まで嫌というほど傷つけられたであろう傷痕が、その小さなからだ全体に刻まれていた。


「ラチェット!呪いを解く方法はないの

か?」

ラチェットから呪い話を聞き、アルドも抱月を助けてやりたい、そう思っていた。


「残念だけど、呪いの力が強すぎて私では

どうすることもできないわ

でも、恐らくこれは東方の呪いだから東方

にいけばこの呪いを解く方法がみつかるか

もしれないわね」


「私がいくわ!」


「ナナミンが?」


「うん。………実は私、東方の出身なの。

私が生まれた町は東方ガルレア大陸の海の

国ザミというところよ。

私の実家は漁師をしていて、貧乏でもなく

裕福でもなく、ごく普通の一般的な家庭で

育ったの。両親はとても優しかったわ。

だけど甘やかすわけでもなく、時には厳し

く、私が悪いことをしたらちゃんと叱って

くれるそんな親だったわ 。

…………でもあるとき思ったの、私はこの

ままずっとここで生活していれば、何事も

なく一日を過ごし、与えられた仕事を

毎日淡々とこなし、たいした変化のない毎

日が、延々と繰り返されるだけで、限られ

た人しか私の存在を知らず、誰からも知ら

れることなく私の存在が消えていく。

そう考えたときに、いまの生活が酷く苦痛

に感じてしまい、私は家を飛び出した。

両親は私の為に、尽くしてくれたし、居場

所を与えてくれた。それはとても幸せなこ

とで誰もがみんな与えられるわけじゃな

い。それはわかってた、だけど私の求めた

ものはそれじゃなかった。

だから私は家をでたの…

本当に自分がやりたいことは何なのかを見

つけるために。

そして最初にたどり着いたのがこのパルシ

ファル宮殿だった。

最初の目的は生活の為と、強くなるために

衛兵なったの。でも今回のことで思った

の。このままではこれ以上私は強くはなれ

ない。それはあなたたち二人をみてよくわ

かったわ。

だから私も旅をすることにする。抱月の呪

いを解く方法をみつけるために、ガルレア

大陸にいくわ。

それに私は、もう一度死んでるし………

抱月が私を庇ってくれなかったら私はもう

ここにはいなかった。だから私は、私の人

生をかけて抱月の呪いを解いてみせるわ。

それが私の今一番やりたいことね」


「衛兵さん!ホウちゃんのことよろしくね。

わたし、ホウちゃんいなくなったらまた一

人になっちゃうけど、衛兵さんがホウちゃ

んのために頑張ってくれるなら、わたしも

頑張るね!」


「……アイシャ。ありがとう。

アイシャは強い子だからきっともう大丈夫

だ。それにアイシャはもう一人じゃない、

私とだって友達になれただろ?

私が必ず抱月の呪いを解いてアイシャのと

ころへ連れていく。それまで待っていてく

れ。」


「うん。わかった待ってる。

必ずホウちゃんの呪いを解いて帰ってきて

ね!約束だよ!」


「あぁ!約束だ!」


「にゃあ」

ナナミとアイシャは指切りをし、その二人のあいだで抱月が一度だけ鳴いた



「じゃあ俺たちはそろそろいくよ!」

二人のやりとりを温かく見守っていたアルドがそう伝えた。


「あぁ、改めて二人にはお礼がいいたい。

本当にありがとう。」

ナナミがアルドとミーユに改めてお礼をいうと、


「いいんだ、何かあればいつでも呼んでく

れ!俺達はもう仲間だろ、

なぁ、ミーユ?」


「……そ、そうですよ。仲間なのですから何

かあればいつでも頼ってください。」

ミーユがどこかよそよそしく返事をした。


「ふふっ、わかった。何かあれば二人を頼る

ことにするよ、その時までまたね。」


「あぁ、また逢おうな!」


そういってアルドとミーユは部屋からでていった。


「……………アルド。」


「ん?なんだよミーユ?さっきから何か変だ

ぞ」


「一度、ミグランス城に戻りましょう。」


「ミグランス城に?何かあるのか?

まぁいい、取り敢えずいこうか。」



_ _ _


ミーユがアルドをつれてやってきたのは、ミグランス城「王室」だった。

「王室か、魔導書の中に入った以来だよな」


「あら〜、懐かしい景色でもみたくなった

のかしら〜?」

声が聞こえてきたのは、一冊の本からだった。その本は魔力によって宙に浮き、意識をもってアルドたちに話かけてきていた。


「いいえ、違います。今日は別の用できまし

た。」

ミーユにそう告げられ、魔導書は、


「そう?それじゃあまたね〜」

少し寂しそうに魔導書は静かになった。


「で、ここには何しにきたんだ?」

「はい、それなんですが…これを見てくださ

い」

そう言われ、アルドはミーユから一冊の本を受け取った。

「……冒険譚?」

「はい。実はそれナナミさんと抱月さんのことが書かれているんです。」

「それって、パルシファル宮殿をでたあとの

ことか?」

「あのあと、二人は抱月の呪いを解くべくすぐに東方に向かうため船に乗り、ガルレア大陸を旅するのですけど、その間にも幾度となく呪いの力によって魔物に襲われ、何度も命をおとしかけますが、再生の力によって瀕死の状態からも巻き返し、いくつもの苦難を乗り越えていきます。

ワタシは幼い頃からこのお話が大好きでした…

大きくなったらワタシもナナミさんみたい

に世界を旅をしてみたいと思っていまし

た。そんなお話のなかの人だと思っていた人が自分の目の前にいるとわかってからワタシはもう興奮がとまりません!!」


話しているうちに力のこもったミーユの周りから次第に闘気のようなものが纏われていくのがわかった、


「わかったから少し落ち着いてくれッ!

それにしても、呪いの力で相当過酷な旅だ

ったんだな…、それで抱月の呪いは解けた

のか?」

「それが…この冒険譚にはそこまでは記され

ていないのです……」


「ちゃんと呪いが解けたのか心配だな。

……なら俺たちでその冒険譚の続きを完成

させないかッ!」


「いきましょう!アルド!ワタシもこのまま

では自分の旅に戻れません」


アルドとミーユは決意をかため、ナナミと抱月の力になるべくガルレア大陸に向かうのであった。




___


薄暗い室内であった、そこは相変わらず埃のかぶった使い古された木剣や、槍がところどころにころがっている。

そこには深海のような深い青色の髪をした少女と、額に三日月模様のある白猫がいた。


「行くのか?」

この古びた練習場を使っているのは、もはやナナミしかいない。よってこの場所でナナミが会話できるのはこの男しかいない、そう、巻きワラの「野ムラ」だ。


「はい、カントク。私はこれから抱月の首輪

の呪いを解くために、東方へいってきま

す!」


「………そうか。」

「はい。もしかしたらここにはもう戻ってこ

られないかもしれません。

なのでお別れをいいにきました。」


普段から野次が飛び交っていた練習場が今はもう誰もここにはいない、そう思えるほど沈黙の空気がこの練習場を覆っていた。


「………最後に頼みがある。」

「……なんでしょう?」

「オレに、最後にナナミンの全力を打ち込ん

でくれないか?」

「……!?そんなことしたらカントクが粉

砕しちゃいます!無理です!」

「このままナナミンがいったらもう誰もここ

になんて寄りつかない。そうなればオレは

死んだも同然だ。なら、ナナミンの全力を

ナナミンの成長を最後に受けてオレも終わ

りたいんだ。頼む。」

「………わかりました。本気でいきま

す。」

ナナミはパルシファル宮殿に仕えてから今までずっとこの練習場で、野ムラのもとで訓練してきた。

野ムラも、この練習場がまだ使われているころから数多くの衛兵たちの一撃を受けてきていた。よってその経験から宮殿にきたばかりのナナミに自分の教え得る知識の全てをナナミにたたき込んでいた。

よってナナミは野ムラのことをカントクと呼んでいた。

そんなカントクの最後の頼みだ、きかないわけにはいかない。

このまま誰にも逢えず忘れ去られるぐらいなら最後に今の自分の最高の力をぶつける。

そう決意したナナミは今度は練習用ではなく、旅のために用意した槍を構え、その場で力を溜めた。

ナナミの周りには闘気があつまり、それは地面は小さく揺れるほどだ。

「カントク。……いきます。」

「こいッ!ナナミン!!」

そういってナナミは野ムラから数メートルは離れた位置から一瞬で間合いをつめ、次の瞬間には野ムラは粉砕していた。


辺りには大量の藁が散らばっていた。

「………今までありがとうございました!」

そう言い残し、ナナミが立ち去ろうとしたとき、

「にゃあ」

抱月が一言だけ鳴き、散らばった藁に駆け寄っていった。

「抱月?」

抱月は散らばった藁を一束くわえ、そのくわえられた藁がしだいに白く発光していった。

その光の眩しさにナナミは目を塞ぐと、次の瞬間、

「あれッ?どうしたんだ?俺はナナミンの一

撃で粉々になったはずだが…」

そこには抱月にくわえられた、手乗りサイズの野ムラの姿があった。


「………カントクッ?!

これも抱月の呪いの力なのか?」

「にゃあ」

抱月は一度だけ鳴いた。


「それにしても俺もこんなサイズになっちま

ったし、仕方ないから一緒に旅にいくとす

るか。ナナミン、抱月、よろしくな。」

「えッ、あッ、はいッ!よろしくお願いしま

す。」

「にゃあ」

「それにあんな一撃じゃ、俺は粉砕できても

魔物一匹倒せやしないな、まだまだ教える

ことが山程あるから覚悟しとけよナナミ

ン」

「もうっ!私だって少しは強くなったんです

からね!………まぁいいや。

これからもよろしくお願いします。

カントク。」

そう言ったナナミの顔には笑みが溢れていた。


こうして抱月の呪いを解くべく東方大陸を目指す三人の旅は始まった。

途中東方大陸で、アルドとミーユと合流し、東方大陸で抱月の首輪の呪いを解くのだが、それはまたいつか………。

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何者でもない者と呪いの首輪 れお @hacchoume

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