第4話 対峙

「気になること?」

ラチェットの様子から、腕組をしていたアルドは、少し険しい表情で聞いた。


「えぇ、宮殿の衛兵達が魔物討伐に向かった

んだけど、一向に戻ってこないのよ。」

「討伐しにいった魔物はたいしたことないら

しいんだけど、それなら逆に時間がかかり

すぎてるの、それに先にでた先発隊は戻っ

てきてて、後発部隊もすぐに戻ってくるっ

ていってたのに、全然戻ってこないのよ」

「もしかしたら、トラブルに捲き込まれてる

かもしれないの、仲の良い友達が一人いる

から心配で……」

「アルド、もしよかったら様子をみてきてく

れないかしら?

場所は、ケルリの道よ。」


ラチェットは不安な様子を隠しきれず、アルドを見つめていった。


「わかったよ。ラチェット、様子をみてくれ

ばいいんだな?」

「ミーユもついてきてくれるか?」


「えぇ、もちろんです。後発部隊が心配で

す。急ぎましょう。」


「二人ともありがとう。よろしくね。」




ラチェットに頼まれ、アルドとミーユはパルシファル宮殿をでて、ケルリの道を目指すべく、デリスモ街道を歩いていた。


「ケルリの道というのはどこにあるのです

か?」


「あぁ、ここからそんなに距離はないよ。

デリスモ街道を抜けたら、そこがケルリの

道だ。景色が一気に変わるからすぐにわか

ると思うぞ。」


「そうですか、アクトゥールという町もちか

いのですか?」


「アクトゥールはちょうど真逆の方角だな」


「………そうですか。」

ミーユは肩を落とし、寂しげな表情でいった。


(ミーユ、よっぽどお腹空いてたんだな。)

アルドはミーユの気持ちを一ミリも理解できてはいなかった。それどころか、今朝、妹のフィーネに作ってもらったお弁当をミーユにあげるか迷っていた。


「あの、ミーユこれ………」

アルドがお弁当をミーユ差し出しそうになったとき、



「助けてくれ〜〜〜!!」

どこからか悲鳴が聞こえてきた。

悲鳴はアルドたちが歩いてきた道の逆から聞こえている。

アルドたちは進行方向に目をやると、鉄の兜を被り、鉄の防具を身につけた。パルシファル宮殿の衛兵の姿だった。

その衛兵が大声を上げてこちらに向かってきている。

その後ろには四足歩行の肉食植物のフラゾーイが衛兵に迫ってきているのがわかった。


「フラゾーイ!?なんであの魔物がこんなと

ころまで?」

アルドは少し困惑したが、すぐに

「アルド!早くあの魔物を倒さなくては」

「あぁ」

ミーユの掛け声で、アルドはすぐに剣を抜いた。


衛兵は半泣きになりながら、アルドの元までたどりつくとアルドの背中に隠れて、アルドの服の裾を強く握りしめていた。

「おいっ!放してくれ!これじゃあ戦えな

い!」

アルドは衛兵を振り払おうとするが、衛兵はアルドの服の裾をがっちり掴んで、

「無理だ…、無理だ…、もう勘弁してくれ

なんなんだよ…、俺が何したっていうんだ

よ!!」

衛兵はパニック状態になっており、アルドの言葉は全く聞こえていなかった。


「アルド、下がって!ワタシがやります。」


「ミーユ!気をつけろ!」


今度はミーユがアルドのかわりに剣を構えた。ミーユの剣は(リトルグリッター)という刃の部分がピンク色の、正にミーユのイメージカラーにピッタリのミーユ専用武器だ。

見た目から武器までピンク色をした、とても戦闘には場違いな格好をしたミーユだが、その見た目からくるイメージを簡単に裏切るほどの実力の持ち主だ。

ミーユは、一瞬で、飛びかかってくるフラゾーイを真っ二つに切り裂いた。



「……………おわったぞ。

そろそろ離してくれないか。」

アルドは自分の服に顔を埋めて、ずっとブツブツと念仏のように唱えている男にいった。


男は少しずつ冷静さを取り戻し、アルドとミーユの顔を交互に見ながらいった、

「すまねぇ、あんた達強いんだな。助かった

よ」


「あんた、パルシファル宮殿の衛兵だろ?

もしかして、魔物討伐にでた後発部隊

か?」

アルドがいまだ自分の服の裾を離さない、衛兵に向かってきいた。


男は何かを思いだしたかのようにまた取り乱し、

「知らねぇ、俺は…俺は悪くないんだ!

あんなのが相手じゃ、あいつらだってもう

とっくに全滅しちまってるさ!

………隊長が悪いんだ。俺らに見廻りな

んかやらすから!だからこんなことになっ

たんだ!

…………なぁ、あんたら強いんだろ?

これ返してきてくれよ、多分こいつのせ

いで俺は追われてるんだ。

あれだけあったんだ、一つぐらいもらっ

たっていいじゃねぇか、てかなんで俺が

持ってるって わかるんだよ、、もうダメ

だ!俺は田舎に帰る。

これはあんたらにやるから……

……もう勘弁してくれ、本当に勘弁して

くれ〜〜〜〜〜〜」


男は持っていた物をアルドに強引に渡し、逃げるようにパルシファル宮殿の方角に走り去っていった。


「なんだったんだ…、それにこれはなん

だ?」

「宝石のようですね。とても綺麗な色です

ね」

衛兵に渡されたのは、エメラルドグリーンに輝く手のひらサイズの宝石だった。


「返してくれとか、やるとか……

あいつどっかで盗んできたのか?」


アルドが険しい表情になりながら宝石を眺めていると。



「離してっ!お願いよ!離して!!」

どこからか悲鳴が聞こえてきた。


「…アルド!」

「あぁ、いこう!」


アルドたちは急いで悲鳴のする方へ走っていった。


「お願いよ!パパ!このままじゃ、衛兵さん

とホウちゃんが死んじゃう!」

「わかっている、しかし私達がいたところで

何もできない。ここは早く助けを呼びにい

くべきだ!」

「でも、でも、そんなことしてたら衛兵さん

たちみんな殺されちゃうよ!」

少女が父親の腕から抜け出そうとしているのを、父親が必死に説得しているところだった。


「どうしたんだっ??」

ただ事ではない親子の元にアルドとミーユはかけつけていた。


少女はアルドの腰に掛けてあった剣に目をやり、すぐさま、

「剣士さん、衛兵さんとホウちゃんを助けて

ください!

とっても大きい魔物から、私達を逃がすた

めに戦ってくれているの!

早くしないと衛兵さんたちが危ないの!

お願いします、剣士さん!衛兵さんを、ホ

ウちゃんを助けて!!」


少女が目に一杯の涙を貯めながら、アルドに訴えかけている。


「大丈夫だよ!すぐに助けにいく!

ミーユいこう!」


「急ぎましょう!アルド!」





_ _ _


「カエセ ワレノタカラヲ」


(冷酷なる槍)がその本能を剥き出しにし、

ただひたすら暴れまわっている。

霧がかかっていたケルリの道は、(冷酷なる槍)が暴れたことにより、その一切が晴れ、そのかわり土埃が辺り一帯を覆っていた。

それぞれの主張が強かった花や草木も(冷酷なる槍)によってその原形を保てているものは少なくなっていた。

その一帯はケルリの道を知っているものが見ればこれは違うといってしまえるほど辺りは別世界へと変わっていた。



アイシャが奇跡的に行商人の父と後発部隊を見つけたおかげで、青いスカーフの衛兵のもとに部隊は駆けつけることができた、が、それも虚しく、一人また一人と衛兵たちは(冷酷な槍)に蹂躙されていく。


「このままでは全滅するのも時間の問題か

………すまない、抱月。お前を友人のとこ

ろへ連れていきたかったのだが、それも叶

わないかもしれない、…君だけでも逃げて

くれ抱月。」


「にゃあ」


青いスカーフの衛兵がなんとか抱月を逃がそうとするが、抱月はその場から動こうとしなかった。


「最後まで、ここに残るというのか…

ならばもう何も言うまい!」


「後のことなどもうどうでもいい、全力でお

前を倒す!!」


そう良い放ち、青いスカーフの衛兵はその場で力を溜めだした。青いスカーフの衛兵のまわりの空気が変わり、それが衛兵の闘気と混ざり共鳴しているようだった。

闘気を纏った衛兵が、力強く大地を蹴り、瞬きした瞬間には数メートル離れた(冷酷なる槍)の前まで迫っていた。青いスカーフの衛兵はそのままの勢いで、いままでにないほど強烈な一突きを(冷酷なる槍)に浴びせた。

(冷酷なる槍)はそのまま地面に大の字に倒された。

青いスカーフの衛兵も全てを出しきり、もう指先一つ動かせない状態だった。


「……やったのか?」

青いスカーフの衛兵の戦いを見守っていた衛兵が、希望を込めていった。


しかし、その希望はすぐに絶望へと変わる。倒れていた(冷酷なる槍)はそのまま起き上がり、先程同様、いや、それ以上にまた暴れだした。

青いスカーフの衛兵の攻撃は全く効いていなかった。それは青いスカーフの衛兵が持つ槍が物語っていた。

青いスカーフの衛兵が持っていたのは槍とはよべない、ただの木の棒だった。

青いスカーフの衛兵が持っていたのは最初から実践用に作られた槍ではなく、練習用の簡単に作られた槍だった。逆にその槍で、よくここまでもったほうなのだ。

それは青いスカーフの衛兵の技術の高さといえる。しかしそれもあまりにも強力な一撃には練習用の槍では、耐久力が全く足りず、その刃が(冷酷なる槍)にとどく前に折れてしまっていたのだ。もしその刃がとどいていたなら(冷酷なる槍)に致命傷は簡単に与えただろう。しかし、戦場に、もしなんてものは存在しない。最初から練習用の槍を持っていた自分の失態なのだ、それは青いスカーフの衛兵自身もよくわかっている。なので青いスカーフの衛兵はその後の全てを諦めた。


「私はこうなる運命だったようだ、すまな

い抱月。…アイシャは無事に逃げ切れた

のだろうか、もはやどうすることもでき

ないな」


全てを出し尽くし、まるで最後の言葉を聞き届けたと言わんばかりに、(冷酷なる槍)が冷酷に青いスカーフの衛兵にむかって勢いよく槍を振りかざした。


「人生の最後とは、本当に突然訪れるものな

のだな……」


自分の人生に諦めをつけ、その瞳を閉じ、自分の最後を静かに待っていた。

………だが、いっこうに最後が訪れない。

青いスカーフ衛兵が恐る恐る目を開けると、そこには腹から血を流し呼吸の荒くなっている抱月の姿があった。

「な……どうしてこうなった?

抱月!しっかりしろ!」


「…にゃぁ」


荒い呼吸の抱月が力なく鳴いた。


「お前、まさか私を庇ったのか!

なんでそんなことしたんだ!

なぜ逃げなかったんだ!

なぜ、私なんかを庇ったんだ……」


「にゃぁ」

抱月は荒い呼吸のまま、瞳を閉じ、やはり力なく鳴いた。抱月の白い毛並みは、槍で貫かれた傷口から出る血でその殆どが赤く染まっていた。青いスカーフの衛兵のスカーフも抱きかかえた抱月の血で赤く染まっていた。


「……お前は私にまだ戦えというのか?

諦めるなということなのか、抱月?」


「にゃぁ」

抱月が力なく鳴く。もう呼吸も殆ど感じられない。


「抱月。………お前だけは死なせはしな

い。ここから全力で逃げるぞ!」


抱月からはもう返事はなかった。


「待ってろ抱月!すぐに助けてやるから

な!」


血に染まったスカーフの衛兵が、自身も、もう殆ど動かせない身体を強引に起こそうとしたとき。




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