温かい雨

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 文明の発達につられてなのか、この世界に、異能を持って生まれてきた人たちが多くなってきた。


 最初にそれが分かったのは、いまから百年前だったかな。

 確か、心を読む力だったとか。


 昔はみんな、すごいすごいって言ってたけど。

 今ではそんなにめずらしくなくなっちゃった。


 だってぜったい身の回りには、一人か二人、そんな人がいるもん。


 私の周りにもいるよ。


 クラスの中にいるあの子。

 あの子には特別な力がある。


 半径十メートルにふりそそぐ雨をあたたかくする、という力だ。


 何だそれ?

 って、思う?


 そうだよね。

 微妙だよね。


 もし力がもらえるなら、誰だってもっと便利そうなものを選ぶと思う。


 例えば、遠くに移動するのとか、何でも手に入るのとか。


 でも、彼女がもっているのは雨をあたたかくする力。

 どうしてだろうね。





「あったかいね~。シャワーみたい」





 恩恵を受けるとしたら、ちょっと気持ちよくなるくらいかな。


 傘を忘れた時だけ。


 あっ、後は風邪をひかないとか?


 




「他の人、変な目で見てるよ~」






 でもそれも、ごく短い範囲だけだから。


 他の人から見たら変な人にしか見えない。


 それなのに、あの子は笑うんだ。


 とっても楽しそうに。







「だよねっ!」






 って。


 とってもおかしそうに。


 なんでだろうなって。


 ずっと思ってた。


 糸くずを動かせる人は、トラックとか建物とか動かせる人をうらやんでる。


 こっちの部屋からあっちの部屋にいける人は、遠く離れた国まで行ける人をうらやんでる。


 でも、それなのにあの子は、ぜんぜんそんな事ない。






「どうして?」





 だから、気になって聞いてみたら、こう答えたんだ。






「だって、私の手の届く範囲以外の人を幸せにして、何の意味があるの?」





 なんて。



 そっか。

 そっかっ。


 そっか~。



 ちょっとだけだけど、分かっちゃったかな。



 小さな世界。


 でも火傷しないくらいに、ほんのり、じんわり温かい。


 それがあの子の愛している世界なんだなって。


 その手にあるもので、満足しちゃえるようなそんな人なんだなって。


 だから私は、あの子が降らせた温かい雨の下で、にんまり。


 あの子の優しい世界の中に、私が入っててよかったな。



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温かい雨 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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