15 巫女のお役目②

 義一の視線に気づいて友仁は明るい声で言った。


「明日、神社のお祭りがあるんだ。神社からちょうちんと屋台がずらっと並ぶんだよ」


 無邪気に輝く目を見て義一も自然と頬がゆるむ。それにしても大工の男たちがわざわざ友仁を訪ねてくるなんて、本当に大人は誰もいないようだ。子どもをひとり置いていった両親の行方に考えを巡らせていると、友仁が「あ!」と声を上げた。


「凰和様も出てください。だってこの神社のお祭りは凰和様への祈りと感謝を捧げるものなんですから」

「ええ!? そう言われても私なんにもできないよ。それっぽく見えないと思うし……」


 凰和は白い着物の襟をつまんでもじもじといじった。彼女には悪いが義一は内心で確かにとうなずく。凰和がむっと頬をふくらませにらんできた。あれ。声に出てたか? から笑いで誤魔化しながらあとずさった義一とは反対に、友仁は乗り気だ。


「大丈夫ですって。凰和様の神々しさと気品はそのままでも十分伝わります。最初にちょっとあいさつするだけでいいですから」


 考えといてください、と念を押して友仁は駆け足で門から下りていった。忙しい子どもだなと義一は小さな背を見送る。この猛暑の中、祭りの準備も大人たちに混じって進めてきたのだろうか。身の丈と同じくらい長いほうきを持って、立派な杉が何本も連なる狭くはない境内を朝からひとり掃き清めているところに、大事な巫女の部屋に見知らぬ大人の男がいたら怯えるのも無理はない。

 義一は米神をぽりぽりと掻いた。不可抗力だったが、ほんの少しだけ悪いことをしたなと思い改めた。

 そして凰和もまた義一の中で気がかりな存在となっていた。目を向けると凰和が低い欄干へふらりと近寄るものだから、とっさに手を出していた。凰和はわかっていると言うように微笑んでその場に正座した。義一も追いかけて廊下に腰を下ろし、欄干の間から足を投げ出した。

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