16 巫女のお役目③

 ジョージ電力と地上を繋ぐケーブルが、瘴気嵐流の風に煽られてたわむ様子がここからでも見える。凰和は心を囚われたかのようにまた発電所を見つめていた。瘴気の渦の中心――つまりジョージ電力の真下には憎悪の化身・禍ッ日之神がいる。凰和の関心はそこではないかと思うと義一は無性に胸がざわめいた。


「なあ。霊獣ノ巫女のお役目ってもしかして、禍ッ日之神を鎮めることなのか」


 凰和は義一に目を移して微笑んだ。その笑みは弱々しかったが義一は少女の黒い瞳に自分が映し出されたことに安堵を覚えた。


「はい。私はずっと昔に、霊獣・凰和様の依代となるため眠りにつきました。その聖なる炎をもって瘴気を浄化して頂くつもりでした」


 義一は黙って相槌を打ち、凰和の話に耳を傾けた。


「ですが強大な霊力を持つ霊獣の依代となるには、途方もない時間をかける必要がありました。当時の五代目随身は少なくとも三〇〇年、それ以上かかってもおかしくないだろうと。今が二八九年後なら予想より早く目覚められましたね。ちょっと得しました」


 それと、五代目と友仁の眉がすごく似ていてびっくりした、と明るく話す凰和に、義一も自然と声を立てて笑った。だが義一の笑みは長くもたなかった。突然表情筋が硬化したかのように重く感じて、笑みをやめると肉が垂れた老人の気分になった。


「おたくはツイてるよ。そのお役目、やらなくて済みそうじゃないか?」


 全神経を逆立てて凰和の次の言葉を気にしている自分がいた。視線を感じたがとても顔を向けられず、義一は欄干にかけた拳を見つめていた。


「そうですね。私の時代よりも瘴気の重苦しい空気はずっと薄まっています。緑もあんなに美しく葉をつけていますし」

「本当か!?」


 思わず手をついて身を乗り出した義一に凰和は目をまるくした。「いや、その」と言葉に詰まりながら、義一は急激に汗が出てきた気がして手のひらをズボンで拭って取り繕う。

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