第三話
兄さん、姉さん、事件です。
ぁ、ぼく、が、事件を起こしたんですけど。
襲っている側と襲われている側の立ち位置が、真逆だったんです。
襲われている側の男性たちが、いい人たちで。襲っている側の女性たちが、悪い人たち。
だって、
あの状況を観れば、誰でも、そう思います。
実際は、
襲っている側の女性たちが、いい人たちで。襲われている側の男性たちが、悪い人たち。
だった、と。
殺し殺され、という行為は保留。
三組の女性たちは、賞金稼ぎと呼ばれる危険な仕事をする方たちでした。冒険者組合から、この辺りを荒らし回っている空賊の討伐依頼だそうです。
冒険者組合とは。
現代的に言えば、
成功すれば、富や名声を得られる、お仕事です! 実力のある方は、一獲千金も、夢ではありません。と、ブラック企業、ある、ある、キャッチフレーズを謳う、会社のことです。
主な仕事内容は。
廃坑、廃墟の探索や。兇暴なモンスターの討伐。それに、空賊狩りなど。己の命を削りながら報酬を得るという、ハイリスク・ハイリターンの職業です。
他のお仕事も己の命を酷使しますが、身命を賭して、生きていく仕事がある。と、いうことは。
それだけ、不安定で危ない世界なのだと、意識しておく必要がありそうです。
推測ですが。
この冒険者組合が存在している理由は、安価に戦力確保ができるという利点から、発足したのではないか、と。
やはり異世界でも、人としての考えかたには、共通点があるようです。
お金が湯水の如く湧くことは、ありません。
お金に関しては。
ぼくの知る限りでも、常に予算配分で各部署が、いつも、言い争いをしています。
――お金は、無限ではなく有限だからです。
経理部から技術開発部に、
『どんな計算したら、この予算額になるんだ! 金食い虫、め!!』
技術開発部から経理部に、
『アホか!? 研究に、金、掛かるんは、必須じゃ、ボケ!』
そこに、軍部から、
『金を掛けるなら、最前線だ!』
すると、情報部が、
『情報、最重要、黙って、金、出せ』
ついでに、
『
と、各部署、自己主張します。死活問題ですから仕方ありません。
まぁ、
最終的に登場する、福利厚生部が、
『定食のおかず、一品――いや、二品、減らします。あと、食材の質も下げます。牛? 豚? 鳥? はあーぁー、肉、ナニそれ、美味しいの? ぅーん、それと食後のデザート、廃止し、必要ない、し。ぁ! 贅沢は敵だって言葉、知ってます? オ・マ・エ・ラ』
『『『『『…………、…………、…………、…………、…………』』』』』
その脅し文句で、毎回、予算会議――終了します。
『胃袋を完全に支配し、兵糧攻めできる。
と、赤の他人ごとのように楽しそうに言ってました。
兄さん、情報部所属なのに。福利厚生部の味方をするところ。食に対する、こだわり、が。
――兄さん、らしい。
「聞いてるの、デカイの!」
「はぃ、聞こえています。この度は、お三方のお仕事の邪魔をしてしまい。大変、申し訳ありません、でした」
ちょこんと正座をしている、つもりの火之夜だが。身長、一九九センチあり、体躯もよいので、正座をしても、それなりに、おっきいので、あった。
「リンダ。この方も、誠意をもって謝罪されています。から、そのへんで、許してあげてください」
リンダと呼ばれた、ボーイッシュな金髪碧眼の小柄な少女が、猫の高速肉球パンチならぬ。人差し指、高速、額、ツン、ツン、アタックを火之夜にしていた。なぜ、猫の高速肉球パンチならぬ、なのか? は。この金髪碧眼の小柄な少女、傍目から観ていると愛くるしい人なっこい顔立ちをしているが、碧眼がまるで獲物を狙った猫。おまけに、頑張って膨らんでいる胸と浅いヒップラインが、猫、特有のフォルムをイメージさせたから――ではなく。
猫耳、カチューシャをしているから、だった。
「しかし、片手だったけど、レオノーレの一撃を生身で受け止めるって。どんな、肉体強化魔術を使用してるの? それと、あの炎の翼!」
金髪碧眼の少女、リンダ。
猫しっぽ、があれば、くね、くね、と、動いていただろう。少しだけ首の角度を上げ尋ねる。
問われた人物は、少し首の角度を下げ。
「この方が使われている力は、魔術よりも、わたしの神聖術に近い力です、ね」
「ふ~ん。じゃー、エルシリアと同じ、聖職者?」
「リンダ、いつも言っていますが。わたしが、仕える、プレシド・カニス神の広布、維持、教育などに、専念する者――聖職者では、なく、ですね。わたしが、仕える、プレシド・カニス神に対して、仇なすモノたちを排除する――
物騒な発言をしれっと語った、大人の色香を纏った妙齢な女性。
一般の女性なら髪をかきあがているという無造作な、しぐさ、なのだが。エルシリアと呼ばれた女性が行うと、髪をかきあがているだけでも、上品な立ち振る舞いに、映る。
それは、彼女の品性が無意識にさせているのかもしれない。
淑女たるとは、なんたるかを。
顔には、名家のお嬢さま、です、と。ソフィスティケイテッドと書いてあり。ゆったりとした衣服からでも、
ただ、
いまは、
「祖のもの」
と、
唇の隙間から心の声が、漏れる。
真っ赤な虹彩の腰まで伸びた黒い髪を地面に垂らしている長身の男、と。その前に、仁王立ちしている。金髪碧眼少女と翡翠の瞳の淡紅色の髪の妙齢女性に。
「逃した、三人の空賊。追わなくていいのか?」
色素が抜けた茶色い髪と豊かに膨らんだ胸部の鍛え抜かれた肉体美の女性が、呆れ顔で、問いかけるのだった。
「げぇ! すっかり、忘れてた」
「レオノーレ。もう少し早く云って、ほしいです、わ」
会話中の女性陣たちに。
長身に合わせて構成された、長い腕を挙手しながら。
「あのーぉー。ぼく、も。お手伝い、させてください」
と、
願い出る、火之夜だった。
「「「…………、…………、…………」」」
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