第一話
長身の少年は服の汚れなど気にすることなく地面に這いつくばりながら、慎重、慎重、進んでいく。
それは、危機察知能力が長けている証拠である、少年の。
では、
――人の声と血の臭い。
危険な状況のはずなのに、少年はどうして危険を冒すのか。
必要があったからだ、確認するための。
この異世界が自分が存在していた世界との差異を。
茂みの隙間から視線――
――唖然とした。
森の中にぽっかりできた空間に十人の男性の血塗れ死体、怯え剣を構えている生きた男性が三人。
そして、
女性が三人。
いま、
一人の女性が持っているのは、刀剣類の一種、
刀身、一メートルあり、重量は最低、二キロ。
――両手用剣の代表格。
それを片手腕だけで軽々と持ち上げながら、刃を地面に対して水平に、ゆっくりと動かしていく。
自分と同じぐらいの長さの色素が抜けた茶色い髪と豊かに膨らんだ胸部。あと、凛々しいながらも、女性の顔つきが確認できなかったら。
身長、一八○センチ以上の鍛え抜かれた肉体美を誇った男性だと判断している、ところだった。
森中の葉を揺らす甲高い金属音。
全身の肌を
――音。
斬撃で右袖の一部が切れ破れ、褐色の肌が見えているが、一切の傷は、ない。
が、
受け止めた右腕の感覚が麻痺していた。
火之夜の立っている地面には、両足の靴底形状の凹みができていた。
(衝撃を地面に逃しきれて――ない!)
その一撃だけで、火之夜は、大剣を振るった女性の実力を見抜く。
この女性。
ただ、力任せに剣を振っている、ワケじゃない。
ちゃんと刃筋が通ってる。
――殺す剣術を会得している。
迂闊だった。
女性、三人で、
成人男性を複数人、相手に殺し合いをし、十人を死体にしたうえに、生き残っている三人の男性を怯えさせ。
なお、
女性、三人は――無傷。
彼女たち三人は、十三人の成人男性たちよりも、圧倒的に――強い。
前の世界で、平和ボケし過ぎた。
女性、三人で、十三人の成人男性たちと、殺し合い。百歩譲って、前の世界でなら、軽火器が購入できる、お国柄ならありえる話だが。
自分の住んでいる国では、銃刀法違反で即逮捕。
治安が悪いとすれば、自分の身内ぐらい。で、治安のいい常連国の一つ。と、脳内でセールスポイントを述べている場合じゃない。
ここが――異世界だということを――――完全に忘れてしまっていた。
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