28. 今はきっと、好きだ

物心ついたときからずっと隣にいて、好きにならないなんて不可能だった。俺の方が一歳年上なのに双子と間違われ続けた俺たちに、本当の双子のように平等に愛情を注いで両親が育ててくれた。でも、気付いているんだ。俺は養子だってこと。

両親のどちらにも顔が似ていないわけではない。俺は母似だとよく言われる。妹の愛香は父似で、でもやはり兄妹程度に顔は似ている。

違和感を覚えたことなんてなかった。しいて言うならば、年子の兄妹として、俺と愛香の誕生日が近いかなって思ったことはあったけれど、ありえないことではなかったし、そのとき俺はまだ一歳に若干満たないくらいだ。記憶があるわけでもない。

知ってしまったのは、両親が話をしているのを偶然聞いてしまったからだ。


「黎、本当に家を出るの?」

「うん。ひとり暮らししてみようと思って」

「わたしも一緒に行く」

「それだとひとり暮らしにならないだろ」

「帰る家に黎がいないなんて嫌。黎は寂しくないの?」

「寂しくないと言えば嘘になるけど」

「じゃあひとり暮らし取り止めよう?」

「決意をそう簡単に無くせないよ」


むう、と頬を膨らませている愛香の頭を撫でる。何だかんだ言って、俺は兄だし、愛香は甘えん坊な妹だ。


「どうしていきなりひとり暮らししようとか思ったの?」

「いきなりじゃなくて、まあ、前からずっと考えてた」


高校を卒業して大学に進学したとき、そのタイミングで思っていた。でも、母方の祖母が亡くなってしまって、落ち込んだ母と愛香を父がいるとはいえ残して行けなかったし、俺自身も全部が新しく変わってしまうことには恐怖感があった。

でも、家を離れるなら今のタイミングだと思う。大学にも慣れ、家庭も安定していて、俺が愛香への思いを我慢できる限界、いいタイミングだ。

愛香は最近、ぐっと可愛くなった。


「黎の家に毎日行っていいなら許す」

「バイトの時間どうするの」

「え、合鍵くれないの?」

「彼女かよ」

「いいじゃん。黎、彼女いないんだし」


確かに彼女はいない。でも、妹に合鍵を渡すというのは彼女がいる、いないに関係なく、あまり聞くことのない事案ではないだろうか。仲は良い。良すぎるくらい良いかもしれない。だけど、それでも。


「俺に彼女ができたら、絶対に返せよ」


そう思いつつも合鍵を渡すことにしてしまいそうなのは、愛香と全く会わなくなることに寂しさを感じているからだと思う。

愛香への気持ちを我慢できなくなりそうだから離れる決意をしたというのに、俺は、結局その決意を揺れさせるんだ。

でも、風呂上がりに下着姿で俺の部屋に来たり、ぎゅうぎゅうと抱き付いてくるのはなくなるのだろう。


「彼女作らないでね。絶対」


俺にそうやって言うなら、愛香は早く彼氏を作ってほしい。そうすれば、きっと、俺は愛香への気持ちを墓場まで持って行ける。

好きだって思う気持ちを消してしまうのは不可能だから、せめて実らないものとしてほしい。今はきっと、愛香も俺のことが好きだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートストーリー 五十嵐夏星 @ikrkthkztkktd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ