27. 春色

あなたを色に喩えるとしたならば、きっと春色だと思う。淡く、儚く、やわらかく、そして優しい色。

幼い頃から、人に対して興味も関心もなかった。俺は俺だし、俺は俺のことしかわからないし、かと言って知りたいと思うこともない。友達と呼べる人間も存在せず、周りの人間が恋だの愛だのに色めき始めても、俺はどうでもよかった。

でも。

風に桜の花弁がふわりと乗ってくるように、ごく、自然に、俺の世界に映り込んできて。春の木漏れ日のようなじんわりとした温かさを、心に染み込ませた。


「ねえ」


俺の気持ちすべてを言葉にするなんて、そんな難しいことできやしないけれど。

でも、今、振り返るあなたを抱き締めたいと思うんです。


「ねえ」

「ん?」


あなたのすべてを知りたいと思った。俺のすべてを知ってほしいと思った。手を繋ぎたいと思った。心が欲しいと思った。隣にいない時間は不安になった。一緒に眠る日の幸福と、あなたを思うと襲い来る胸の苦しさを初めて知った。


「好きですよ」


あなたと生きる毎日はけして優しさばかりではない。それでもあなたを春色だと喩えたくなるこの日々と、あなたじゃなければ始まらなかったこの恋は、俺に様々なことを教えてくれている。

春が終われば夏が来て、季節が巡っていくことは自然の定理なのだろうけれど、俺はずっと春がいいなと思ってしまう。


「ふふ、知ってる」


だって俺は、春という季節に恋をしてしまったから。

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